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召喚の可能性

 

 既に仮装パーティと化している遊び部屋は、ゾンビセットに身を包んだOさんを始め、いつもと変わらぬ冷めた表情のままサンタ帽子を被ったヘルヴォル、スーツを着たウルティマ、女装する風神雷神、頭に大きなリボンを乗せたコーラルなどなど、部屋内の情報量が多すぎて把握するのがやっとな状況である。

 俺の胡座の間に収まる悪魔の羽を付けた部長を、花蓮さんが無言で何度も写真に収めていた。

 ちょこんと生えた二枚の羽は、部長の体を持ち上げる程の力は無さそうだ。アクセサリーとしてはとても似合っている。


『つぎ ダリアが引きたい』


『拙者もやりたい!』


 周りの面々がガチャで出た衣装に着替えた事に焦りを感じたのか、ダリアとアルデも負けじと名乗りをあげた。

 人型用のチケットを破ると、二人の前にガチャが出現。そのままゆっくりとレバーを捻り、ダリアの方は白、アルデの方は黒のカプセルが落ちてくる。


「じゃあ、先にダリアの方からな」


 カプセル片手に開けて開けてと寄ってくる二人に「順番ね」と声を掛けつつ、先に引いたダリアの白いカプセルを開放した。




【なりきり機械仕掛けの翼(機人族専用装備)】#オーパーツ


 精密な機械で構成された展開可能な(ウイング)。膨大な魔力を消費することにより、短時間の飛行が可能となる。内蔵技(インプットアーツ)は必要チャージレベルⅦ《バルバロイ・メガ》。


ランク:B


敏捷+10

魔力+20

光耐性アップ(中)


分類:背中装備




 中にはステータスアップが見込める優秀な装備が入っていたが……どうやら装備できる種族が指定されている品のようだ。

 見た目は小さな白色の翼で、その名の通り機械でできていることが分かる。


「ランクBもなかなか出ないのに二発目で出すなんて……」


「あはは、この子はかなりの強運でして」


 少しだけ驚いたような声色で言うOさんに苦笑いで返しつつ、得意げな顔をして見上げてくるダリアの頭を撫でた。

 ともあれ、これはダリアに装備できないから――取り敢えずリザードのお面でも被せておくか。


 なんだかんだで、屋台で買った物を含め、アイテムボックス内にお面が溢れてるな……と考えつつダリアの方へと視線を戻すと、彼女が満足そうに部屋をテクテク歩いていくのが見えた。


 しかし、折角のランクBも、使えないのではもったい無いな……何かうまい方法はないだろうか。


 俺の心の声が届いたのか、覗き込むようにして見ていた花蓮さんが翼の有効活用法を教えてくれる。


「ガチャでレアアイテムが出ても自分では使えないという場合は、多々あります。ゲーム内通貨と現実通貨の換金は行なえませんから、案としては一に娯楽の町にある《マーケット》にてGでの購入者を集う。二に掲示板等でアイテムトレードの提案を行う、です」


 なるほど、一応の救済措置は設けてあるのか。

 ランクBにどれ程の価値があるのか不透明だが、ガチャ常連のOさんのリアクションから察するに、そこそこの値打ちものだと予想できる。そして俺は周年お金不足であるし、思い切って購入者を集うのもアリだな。

 アイテムトレードというのも、単純に今使えない物と自分がコレだと思う物とを交換できるとなれば魅力的だ。同じランクBのアイテム同士なら、極端な損得は生まれないと考えられるが……やはり引いた本人の意思を尊重するのが一番か。


『拙者のも! はやく!』


「よしよし、待ってくれ」


 自分の考えをまとめたタイミングで、残っているのは自分だけだと騒ぐアルデに意識を移す。

 自分のガチャアイテムがどうなったのか気になっているのか、リザード族マスクを顔に被り、じいっとこちらを見つめるダリアを横目にアルデから受け取ったカプセルの中を開く。

 そういえばカプセルにもそれぞれ色があるが……ランクと関係しているのだろうか?




【気まぐれ神グッズ・水(人型専用装備)】#オーパーツ


 気まぐれの神が作った首輪。大いなる水の力が確率で上昇し、発動された魔法に威力が上乗せされる。


ランク:A


水属性威力上昇(倍率:90% 100% 110% 120% 130%)


分類:首装備




「うぉおあぁああ!!」


 Oさんが吠え、アルデが隠れた。

 黒のカプセルから出てきたアイテムは他のアイテム群と違い、ボックスに収まる状態でもキラキラと輝いているのが分かる。

 中に収まっていたのはエメラルドグリーンの首輪。読む事のできない複雑な模様が彫られており、小さくてもその存在感は堂々たるものだ。


「まさかランクAを当ててくるとは驚きま、した。私のは当たりでもランクD止まりだったので正直羨ましい、です」


「高ランクアイテムを立て続けに引き当てるなんて! 更にランクAとは! 流石は僕の天敵小悪魔ちゃん、恐ろしさに底が見えない」


 課金暦では先輩の二人がランクAを前に少なからずの動揺を見せている事から、今回のガチャ……或いは課金ガチャ全般として、レア度の高いアイテムは軒並み当たらないのかもしれない。

 なんにせよ、こっちのアイテムも装備こそできるが、俺たちのパーティーには水属性魔法が使える人員は居ないからなかなか扱い方が難しいな。


 意味を成さない代物だが、当てたアルデへとそれを装備させてやる。

 

『ピカピカしててかっこいい! これで拙者も強くなれる?!』


「それを付けて鍛えれば強くなれるさ。よく似合ってるよ」


 エメラルドグリーンの首輪は、アルデの山吹色の瞳とよく似合う。首輪とはいえ、デザインは名前から連想されるような無骨な物とは程遠いため、単純にアクセサリーとして可愛い。


 目を細め跳ねて喜ぶアルデを横目に、足元まで来ていたダリアの頭に手を置く。

 一人だけ、種族的に装備不可能な代物を当ててしまったのは可哀相だよな。一応、当たった物はダリアの物としてあげるのが順当かな?

 俺はダリアに機械仕掛けの翼を渡しつつ「付けられないけど、ダリアの物だから」と、それを託した。


 ダリアはそれが自分には殆ど関係のない代物だという事が分かったのか、五秒程度観察した後『持ってて』と言わんばかりに突き返してきたのだった。


「まあ、焦らずとも、キャンペーンが終了して絶版(二度と手に入らない)ガチャアイテムになった品にはプレミアが付く事もあるし、すぐに手放さず取っておくという手も悪くないね! 勿論、プレミアが付くほどのアイテムはかなり限られるけど」

 

 十分なレア度のアイテムだし、売るという選択肢は残しておいたほうがいいとアドバイスをくれるOさんに感謝の言葉を返しつつも、俺の心の中は結局部長とアルデの分しかマトモに装備させてやれなかったことでモヤっとしていた。

 再度課金してガチャを……いや、これを続けると中毒になりそうだ。でもダリアの装備がなあ。


『遊び やりたい』


 唸る俺に『別に気にしてないけど

』といった態度で、備え付けの椅子によじ登るダリア。


『ねーえ。あの買ったやつやろーよ。あの買ったやつー』


 専用の装備が当たった部長は少しだけ優越感に浸っているような声色で“買ったやつ”を出せと騒ぎ始める。

 この子はどこまでもマイペースだなと感じつつ、部長が促す“買ったやつ”を取り出した。


「うちの子達が早く遊びたいとごねだしたので、俺が買った“パーティーセット”でも広げて遊びましょうか。丁度いいテーブルもあるので」




*****




 時刻は21:40。


 辺りを見渡すと、椅子に沈むように座り込むOさんと風神雷神、ウルティマ、そしてアルデの姿があった。


「――という事で、優勝は六億九千万Gを稼いだダリアですね。次点でヘルヴォル、部長、コーラルと……」


 ガチャチケットと同時に購入しておいたこのアイテムだが、使うとその場にいる人数に合わせたゲームが出現するという代物だった。

 そして出てきたのは人生ゲーム。

 ゲーム内でゲームをするのもおかしな話だが、こうやって皆で集まってテーブルゲームを囲むというのも社会人になると難しくなってくる。冒険とはまた一味違う楽しさを味わうことができた。


「まさか貧富の差がこんなにも極端に出る人生ゲームだったとは……」


「稀にある辛口系人生ゲーム、ですね。風神と雷神、ウルティマそれにアルデちゃんが借金まみれで地下労働している間ダリアちゃんは悠々自適な王様生活。平等なんてありませんね」

 

 最終スコアに戦慄し、自分の顔が若干引きつっているのを感じながら、向かいに座る花蓮さんに顔を向ける。

 最後の最後に所持金を半分失った花蓮さんは、虚無感に襲われているかのような“無”の顔でそう呟いた。


 リストラの無い職へと就き、山も谷も無く最も平和な人生を送ったのは俺くらいなもので、借金が嵩んで地下へと強制送還された風神雷神、ウルティマ、そしてアルデは体のグラフィックを真っ白にさせ“ちーん”という効果音が似合いそうな状態のまま動かない。

 ……アルデはガチャで運を使い果たしてしまったのだろうか。所持金が無くなっていく度に『ダイキ殿ぉ』と涙目を向けてくるのが不憫で仕方なかった。

 一方、ガチャで持ち前の豪運を発動させたダリアだが、彼女の運は尽きることが無く、順風満帆な人生を謳歌していた。そして部長はダリア(王様)の護衛の職に就いたお陰で彼女から毎月莫大な金額が振り込まれ、こちらも勝ち組人生のままゴールしている。

 この二人に関しては、なんとなく予想がつく人生だっただけに苦笑いしか出てこない。


「妖精ちゃんがあの場面で大当たりを出すとは……君も同士だと思ってたのに!」


 ギャンブルで大勝ちし一気に勝ち組の仲間入りとなり上機嫌のコーラルに対し、最初から最後までどん底人生だったOさんが嘆く。

 正直、Oさんの所持金が最終的にマイナス七億となっていたのには恐れ入る。どれほど運が無いんだこの人は。


「ヘルヴォルもかなり充実した人生を送ったみたいですね」


「はい。顔には出ていませんが本人もかなり喜んで、います」


 顔に出ないのは花蓮さんも同じでは――という言葉を飲み込みながら、大量の札束を整理し終えたヘルヴォルへと視線を移す。

 クールな態度と大人びた外見とは裏腹に、中身の年齢はダリア達と大差無いのかもしれない。それこそ、会話さえできれば本当の彼女を知る事も可能になるのだが……。


 片付けは一瞬で、パーティーセットをアイテムボックスへと仕舞えば元どおり。

 しばらく同じ姿勢のまま遊んでいたためか、花蓮さんは伸びを一つした後、口を開く。


「では、時間も時間なので私達はこれで失礼、します。明日も風の町にお邪魔したいと考えているのでその時はまたよろしくお願い、します」


 名残惜しそうに席を立つ花蓮さんと、彼女に続いて立ち上がる召喚獣達。

 俺もそろそろ落ちる時間のため「ならここでお開きですね」と、同じように席を立つ。


「僕は残念だけど明日から“空のダンジョン”攻略レイドに参加する事になってるんだ! まあお土産話に期待していてくれ!」


 相変わらずゾンビの格好のまま高笑いしてみせるOさん。

 今更ながら、花蓮さんとOさんというトッププレイヤーの人達と一緒にいたのだから、ゲーム攻略の話でもしておけばよかったなと後悔しつつも、この時間では後の祭り。別れの挨拶を済ませた俺たちは、Oさんの豪邸を後にした。


 花蓮さん達と共にポータルまで歩き、挨拶を交わす。


「今日は遊びにまで付き合っていただき、ありがとうございました。この子達も満足してくれた様子です」


 腕の中で眠る部長とアルデ、そして防具の端を摘むようにして付いてきているダリアへと視線を移しながら、Oさんに行ったように花蓮さん達にもお礼を一言。

 俺の言葉に花蓮さんは「私たちの方も楽しめました」と返しながら、思い出したかのように付け加える。


「ガチャで当たったレアアイテムについてなんですが……召喚士ならではの案がありました」


 是非聞きたいと促す俺に、花蓮さんは言葉を続ける。


「次に呼び出す召喚獣のタイプをアイテムに合わせるという方法、です。まあ、たとえランクAでも、ガチャアイテムの価値はゲーム内で上の下程度の位置にしかありませんが、それでもダリアちゃんとしては妹分や弟分に使ってもらった方が嬉しいかと推測、します」


「なるほど……確かに、そういう方法を取るのも良いかもしれませんね」


 ダリアが折角当ててくれたアイテムをお金に変えてしまうよりは、後輩のために取っておく方が彼女も喜ぶだろう。

 ダリアへと視線を向けると、会話を聞いていた彼女は『名案』と頷いてみせた。


「順当にいけばレベルに応じて増える召喚獣ですが特殊な例もあり、ます。予想外のタイミングで仲間が揃ってしまったその時に、選択肢の一つとして売却を視野に入れるのがいいかもしれませんね」


「俺様達みたいにな!」

「そこらの奴とは格の違う、特別で高貴な存在でーす!」


 花蓮さんの言葉に反応して見せたのは風神雷神。頬に両手を当てて恥じらいながら言う風神と、頬に人差し指を当ててかわいこ振る雷神。

 確かこの二人は特殊な方法で仲間になったって言ってたから――つまりは、規定のレベルまで上がった報酬としての『召喚』以外に、別の方法で召喚獣を仲間にする事も可能だと推測できる。


 それ以上、花蓮さんから“特殊な例”に関しての情報は得られないまま解散となった。

 彼女が言うように風神と雷神は“特殊な例”によって仲間になったため、彼女自身、正確な仕組みを把握できていない可能性はあるだろう。サービス開始から一カ月、未だ開拓されていない事柄の方が多いはずだ。


 なんにせよ、三姉妹もたっぷり一日遊べて満足してくれた様子だし、明日もまた紅葉さん達が企画するイベントが続く。本格的な冒険やレベル上げの前に、しっかり休ませてやろう。

 俺は片手で部長とアルデを抱き、ダリアの手を引きながら、宿屋へ向け足を進めたのだった。

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