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復活と報酬


 時刻は午後6時17分。


 冒険の町にあるレストランに一人座る俺は、好物のコーヒーを飲んでも全く気分は晴れずにいた。

 俺の纏う負のオーラに尻込みしているのか、店員NPCが声をかけてくることもない。



 ――もっと早く気づいていれば。



 ――暴れる前に連続で攻撃していれば。



「ダリアは死なずに済んだんじゃないか」


 自分を責めずにはいられなかった。手元に魔石を用意して、簡単に召喚を済ませて、元どおりにする事が出来ずにいた。


「なーに思い詰めた顔してんだよ」


「こんばんは、ダイキさん」


 顔を上げると、そこにはケンヤと雨天(うてん)さんの姿があった。

 俺は特にリアクションを取ることなく、飲みかけのコーヒーに視線を戻す。


「ああ、二人共こんばんは」


 ケンヤは何かを察したのか、呆れたような顔で腕を組む。雨天さんは辺りを見渡し、不思議そうな顔で俺を見た。


「あれ? ダリアちゃんは」


「……」


「大方、ダリア嬢を死なせて落ち込んでたんだろ。顔に出すぎだ」


 ケンヤには全て悟られていたらしい。流石に、付き合いが長いとお互いの変化に勘が冴えるな。

 俺の沈黙を肯定と取ったらしく、ケンヤは返事を待つことなく続ける。


「大体なー、召喚獣だけじゃなく俺らプレイヤーも死んで生き返ってを繰り返して冒険するんだぞ? 言い方キツイようだけど、一度仲間が死んだくらいで落ち込んでたらこの先遊べないぞ」


「再召喚しましょう、ダイキさん。ダリアちゃんとまた会えますから」


 落ち込む俺に二人が活を入れてくれるものの、気持ちは晴れない。

 意味もなくスプーンでコーヒーをかき混ぜながら、涙を堪えつつ言う。


「いや、ダリアにどんな顔して会えばいいのか」


「女子か! そんなもん普通にしてりゃいいんだよ!」


「ダリアちゃんも早くダイキさんに会いたがってますよ、きっと」


 なんだろう、この温度差。

 もしかしないでも、事態は思ったほど深刻じゃなかったのだろうか?

 というか、俺もダリアに会いたい。


 店員にコーヒー1杯分の料金を支払い、南ナット平原へと走った。




 南ナット平原にある、小川の傍に佇む一本の木の前に、俺たちは来ていた。

 周りにモンスターがいないのを確認しつつ、再召喚の準備に入る。


「ダリア嬢を初めて呼び出した場所まで来るって……いや、もう何も言うまい。早く召喚してやれ」


「ダリアちゃんも待ってますよ!」


 ――そうだな、よし。


 数回、深呼吸をした後、俺は召喚を発動する。


「『来たれ我が(しもべ)召喚(サモンモンスター)』!」


 五つの魔石が光を放ち、足元に魔法陣が現れる。

 集まった赤い光が人の形を形成し、次第に光が弱まっていく。


 ダークレッドの髪を揺らしながら、最初に会った時と変わらない姿のダリアはジッと俺の顔を見つめていた。



 ――すかさず俺は土下座した。



「お前を死なせてしまった。許してくれ!」


 呆れたようなケンヤの声が聞こえるが関係ない。誠心誠意をもって、全力で謝った。


 耳元でペタペタと歩く音がした後に、小さな手が俺の頭に触れる。


 顔を上げると、いつもと変わらないダリアの顔があった。


「不甲斐ない主でごめんな」


「……」



 ニコッ。



 たった一瞬、ダリアが笑ったように見えた。


 感極まってダリアに抱きつくと、鬱陶しそうに頭を叩かれた。変な噂が立とうが、俺は全力で抱擁を続けてやる!


 その後、ケンヤに強制的に引き剥がされ、落ち込む俺の背中をよじ登ったダリアが定位置につく。


 何はともあれ、丸く収まって良かった。




 町に着くなり、ケンヤからの質問攻めにあった。

 なんでも反則級のパワーで挑戦者(チャレンジャー)を次々に亡き者にしてきたボスが何者かによって倒され、町が開放されたようだ。


 (いわ)く、そいつは南ナット平原のフィールドボスだという。


 (いわ)く、パーティでの討伐を想定されたフィールドボスは、一定の間隔で湧くエリアボスとは比較にならない程強いらしい。


 そして討伐したパーティはボスの攻撃パターンや弱点、報酬のアイテムや開放した町に関する情報を掲示板に書き込む必要があるとの事だった。


「嫌だよ、面倒臭い」


「ええええ!?」


「やはりダイキの仕業か……」


 俺の仕業だと知り、悲鳴に近い絶叫を上げる雨天さんと項垂(うなだ)れるケンヤ。


 ちょっと待て、なんでもうケンヤは知ってるんだ?


「パーティで倒すと視界の隅にログが流れるんだが、ボスが消え、町が開放されているのに一向にログが流れないから掲示板が大荒れだ」


「なんでログが流れなかったんだ?」


「さっきも言ったように、フィールドボスはパーティで倒す事を想定して配置されている。けど、これを個人で倒してしまうのは設定外の事態だったって事」


「で、なんで俺だと?」


「ダリア嬢の火力を生で見てるからな。もしかしたらって思ってたけど……」


「信じられないですね……」


 一同ドン引き。


 なんにせよ、早いとこ掲示板なりに書き込んでおかないとマズイっぽいな。


初個体撃破報酬はつこたいげきはほうしゅうは、他の報酬に比べて性能が非常に高く設定されてる。情報を独占してるのがバレて掲示板に晒されたりでもすれば、いい印象は残らない」


「だから先に情報を流しておく。って、どの道、妬みは出るだろ」


「それは否定しきれませんが、次こそ我がパーティが! って奮い立つ人もいらっしゃるので、やらないよりは――という状態ですね」


 なんか曖昧だけど、晒されて嫌がらせでもされたら嫌だしな。

 皆がそのルールを守ってる事なら、俺もそれを守るだけだ。


 とりあえず、自分の知り得る情報だけ書き込んでいく。サイクロプスの攻撃パターンや攻撃力、LP低下による凶暴化など。


 そういえば報酬の確認してなかったな。


 ダリアが死んだショックで気にもしていなかったが、掲示板に載せなければならないので、俺はメニューを開いた。




名前 ダイキ

Lv 11

種族 人族

職業 召喚士

筋力__38 (+15)

耐久__20 (+30)

敏捷__20

器用__37

魔力__24


残りポイント3



名前 ダリア

Lv 7

種族 魔族

筋力__26

耐久__26

敏捷__26

器用__26

魔力__82 (+8)


召喚者 ダイキ

親密度 22/100




 ステータスを覗くとレベルが一気に上がっている事に気づく。

 何より、討伐直後に死んでしまったダリアにも経験値が入っていたのは大きい。

 今まで上がり辛かっただけに、フィールドボスの経験値は相当な量なのだろう。


 親密度も下がっていないようなので、とりあえず一安心だ。


 そしてアイテムボックスにある、見慣れないアイテム群に目を通す。

 二、三度スライドさせても終わりが見えない程の膨大な量だ。


 一つ目鬼の肩骨、一つ目鬼の頭蓋骨……。


 殆どが素材だな――と、その中に、他とは違う三つのアイテムが入っている事に気が付いた。




【一つ目鬼の超棍棒】#撃破報酬


一つ目鬼が愛用する巨大な棍棒。

一振りで大地を割る破壊力をもつ。


筋力+100

敏捷-100


必要筋力300


分類:両手棍棒



【スキル取得券】#MVP報酬


スキルを取得する事ができる券。

11個目以降のスキルは控えに移される。

入れ替え可能。


分類:消費アイテム



【混沌のペンダント】#初個体撃破報酬


闇の魔力に支配されたペンダント。

魔を司る者にのみ力を与え、それ以外の者に破滅と災いを与える。


魔力+37

MP最大値アップ

闇属性魔法威力アップ


分類:首装備



「なんか……微妙」


「馬鹿言え! スキル取得券一つだけでも特賞もんだ!」


 とんでもない! といった剣幕で声を上げるケンヤと、羨ましそうに券を見つめる雨天さん。

 二人のリアクションから察するに、なかなかのアイテムが手に入ったんだろうなと漠然と受け取ることにしよう。

 とりあえず、これらの情報と風の町の感想を添えて掲示板に書き込んでおいた。


「ん? なんか欲しいのあったのか?」


 いつにもなく興奮した様子で頭を叩くダリア。

 髪と同色の瞳に映るのは、禍々(まがまが)しいという形容がぴったりのペンダントだった。

 髑髏が連なるデザイン……ダリアにあげる物としては悪趣味な気がする。


「これはやめとけ。もっと可愛いの買ってやるから」


 ――が、どうしても譲らない様子のダリアに渋々ペンダントを渡す。

 ダリアが早速付けると、髑髏(どくろ)の集合体のようだったペンダントが、黒曜石のように妖しく光る美しい物へと姿を変えた。


 ふむ、これが意味する事とは……。


「魔を司るとあるから、魔法職限定のアクセサリーだったのか? しかし形が変わった事に何か別の意味が……なんにせよ、初個体撃破報酬はどれもこれも効果が高い。これでダリア嬢の火力もまた一回り上がったわけだ」


「……ダリアちゃん、どこまで強くなるんでしょうか」


 身震いする二人を尻目に、俺は一人スキル取得券の使い道をあれこれ考えるのであった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ダリアはMP切れで死んだんですよね? それなのに最大MPアップの効果ある装備見て 微妙とかアタオカですか?
[気になる点] 情報を晒さないと脅されるとかどんなゲームだよ。息苦しすぎだろ
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