日常
眠気覚ましの珈琲を一口、気分転換にとハンドルに備え付けられたリモコンを押し、お気に入りの洋楽が車内に流れ出す。ひたすらに続く夕暮れ時の道路に、ポツポツと街灯が咲きだした。
充実した二日間の休暇の後に待っていたのは、成田部長との営業回り。
部長と俺がセットで営業になった日は行き先がほぼ決まっているようなもので、今回もつい数ヶ月前に会った方の家へ直接挨拶に行ってきたのだった。仮想世界ならばポータルに触れればひとっ飛びなのだが、現代の科学でもワープマシンの開発は未だに実現していない。
先ほどまでグースカ寝ていた成田部長が、眠たそうに目を擦りつつ、沈みゆく太陽の方を忌々しげに睨みつけている。車内に煙草の匂いが広がった。
「おっさん変わりなかったなぁ。美緒ちゃんも相変わらず元気いっぱいで、まあ安心したよ」
寝てる光景は見事に部長とシンクロしていたが、彼女の名前のモデルとなった成田部長はのんびり屋でもベジタリアンでもない。古き良き厳格な上司といった、肉好きの真面目なサラリーマンである。
「親父の代からのお得意様だし、年齢が年齢だからってのも分かるけど、こう何回も何回も挨拶に行くの迷惑にならないか?」
「バカ言うな、おっさんはただ単に俺らと世間話しがしたいんだ。たとえ毎日行ったとしても迷惑だなんて思わねえよ」
そういうもんか。と、そういう勘は鈍いと自覚している俺であるから、成田部長の言葉に特に突っかかる事もなく車を走らせていく。
「……お前の親父が事故で死んでからおっさんも美緒ちゃんもうんと悲しんでなぁ。それだけに、息子のお前が初めて挨拶に来た時のおっさんの顔は今でも忘れない。あの瞬間だけ何歳か若返ってたな、ありゃ」
「親父が死んだ頃じゃ美緒ちゃん産まれてるかどうかってとこだよな。適当な事ばっかり言うなってば」
「おっさんの反応は本当だっての!」
ため息混じりに口を挟んでみると成田部長は癇癪したように声を上げ、はずみで煙をかなり吸い込んだのか、顔を真っ赤にしてむせていた。
成田部長と俺の親父は同じ営業部の同期であり、成績を競って何度か衝突した事もあったと聞く。けれども、会社での親父は同僚に優しく、冗談を言って笑わせるような面もあった所謂いい社員だったらしい。
仕事で忙しく、家に帰らず愛情も与えず、俺をほったらかしにしていた最低人間であるはずの親父が、社内での評価が真逆だった事に戦慄したほどだ。
「そういや大樹。美緒ちゃんの遊び相手になってる時のお前、なんか別人みたいだったな。ありゃどんな気持ちの変化だ?」
「俺は子供は好きなんだよ」
「こないだまで美緒ちゃんに振り回されてるだけで、ちっとも遊んでる感じはしなかったんだけどなあ」
まあいいや。と、成田部長は備え付けの灰皿に煙草をねじ込むと、手を枕にするようにして座席を倒す。
「また寝るのか? 30分で会社に着くぞ」
「充分寝たっての」
部長はしばらく沈黙した後、つぶやくように語り出した。
「……母ちゃんから連絡あったか?」
「互いに連絡先も知らないからな、来るはずがない」
親父の死によって俺は二つのモノを得、一つのモノを失った。
得たモノは金。それにより母親からも解放された俺は、同時に自由も手に入れた。
親父は親父で自分の好きに仕事をしてずっと帰らない最低人間だったが、母親も母親で、親父が帰って来ない事をいい事に、いろんな男を取っ替え引っ替え連れてくる始末。最後は親父の保険金を受け取り、そそくさと別の男とどっかに消えた。
――失ったモノは家族。
何もかもが終わっていた、俺の家族。
もっとも、親父が事故死するずっと前から、俺の家族は既に終わっている。親父の死という直接的な原因があったという、ただそれだけの事だった。
「成田部長が突然“俺を親父だと思ってくれていい”とか言い出した時は、流石に意味不明だったけどな!」
暗い雰囲気になりそうだったので大きく路線変更し、悪戯っぽく笑ってみせる。
成田部長は「意味不明だったのかよ」と苦笑しながら何かを思い出すように天井を見つめ、新しい煙草の先に火を付けた。
「だってお前、何一つ感情が籠ってない敬語なんかで喋りかけてくるんだもんよ。営業職でありゃゴミだ。俺のお陰で人並みに会話できるようになったと言ってもいい」
「それは言い過ぎ……まあ、元営業トップの相良部長の一人息子が面接に来たってだけで、あれよあれよと営業部。成田部長が気に掛けてくれてなかったら、今頃クビになってたかもな」
「じゃあアイス奢れ」
「もう会社に着くっての」
いい人だが適当な人だ。けれど、成田部長が二人の時だけでも敬語は抜きだと普通では考えられない提案をしてくれたお陰で、今こうして遠慮なしに心の内をぶつけることができている。そういう意味でも、俺の中で成田部長は本当に父親のような存在と言える。
たまにボロが出て、その都度形として成田部長が激怒してその場をやり過ごしているものの……数年経った今でも上手く使い分けができていない。
「つーか、なんだこの曲はよ。俺は洋楽が大ッ嫌いなんだ」
「変えんなって」
その後――洋楽とアイドルの曲とが交互に流れるカオスな車内のまま、無事に会社へと到着したのだった。
*****
帰宅後、日課をこなしてテレビを付け、ニュース番組へとチャンネルを合わせていく。
余談だが、ワープマシンとまではいかないまでも、進んだ現代科学の力で開発されたホログラムによる立体映像型テレビが近々発売されると聞いた。成田部長みたく、アイドル好きの消費者からしたら、同じスタジオに居るような臨場感が味わえるこのテレビは垂涎物だろう。
[都内で起きた窃盗事件の犯人が確定しました。相手の心を読み取るAIと呼ばれる人工知能によって行われた取り調べでは、事件当日のアリバイなどを――これにより、冤罪によって発生する誤認逮捕が激減するのではとの声が――――]
仮想世界だけでなく、現実世界でも高い評価を受けているAIという技術。昔あった嘘発見器の完成版とも言える究極のテクノロジーによって完璧な取り調べが確立された事により、犯罪そのものが減少傾向にある……というデータが出ているらしい。
これはトーナメントでの攻撃に含まれた感情を正確に読み取った審判がそうだったように、その人物の行動の真意を知る事ができる。つまりは、真実や嘘をしっかり見抜く事ができるようになり、非人道的な尋問も不要となったと考えられる。
防犯カメラも日々進化してきているし、犯罪ゼロの世界も夢じゃないな。
ぼんやりとテレビを見た後、寝る準備完了と共にゲームをセットする。
トーナメントが終わった事で、今日から人によってバラバラの遊び方が始まる。とりあえず俺は風の町にある“癒しの風”に向かった後に、今後の予定を練りつつのんびりする算段だ。
トーナメントに向けた練習やレベル上げから始まり、トーナメント本番まで戦い詰めだった召喚獣達をしばらく休ませてあげたい。そういう意味でも、召喚士達の集まりは俺にとって重要なイベントとなっていた。
*****
昨日ログアウトした宿屋へとログインした俺は、ベッドの上に落ちるように現れた三人娘へと視線を向けた。
表情を変えぬまま『やっほ』と挨拶するダリアに、落下したまま、仰向けの状態で寝息を立てる部長。挨拶と共にベッドで跳ねるアルデのせいで、ダリアと部長の体も小さく跳ねているのが見える。
「今日からしばらくはのんびりする予定だから、やりたい事とかあれば教えてくれ」
アイテムボックスから青吉の入った水槽を出しながら、三人の意見を聞いていく。
『砂遊び』
「砂遊びか、全然いいぞ」
いち早く手を挙げたダリアが砂遊びを提案し、承諾すると共に彼女達の好みを把握していく。
花蓮さんの言葉は全面的に信じるとして、そうなると日々の会話や行動の中にあるヒントが後々重要になってくるはずだ。つまりは、やりたい事一つとっても、真名解放に関する手掛かりになると考えられる。
ダリアは初期の頃と比べても、性格的には大きく変わった部分が無い。けれど、コミニュケーションが取れるようになってから表情に様々な変化を見せるようになった事に関しては、大きな前進と言えるだろう。
『レイと遊ぶ!』
「港さんも集まりが始まる時は来ると思うから、そしたら頼んでみようか。レイと何して遊ぶんだ?」
『チャンバラごっこ!』
かなりの人見知り体質なアルデは、慣れた人にはとことん甘える一面を見せている。試合の待ち時間という短い時間のなかでレイと仲良くなった分、寧ろ社交性は高いと推測。
そして戦闘職故の性格か、ダリアと駆け回りながら遊んだチャンバラが好きであるらしい。レイがやってくれるかはさて置き、やりたい事にも個性が出ている。
さて……残るは――
「寝る子は育つ……か。それにしても、この子はよく寝てるなあ」
『空を飛びたいー』
「それは無……あぁ、紅葉さん家のクロっちかソラちんに頼めば飛べるかもな」
寝ぼけ声の部長からまさかの“空を飛びたい”発言が飛び出したものの、普段から不安定な場所でも落ちずに寝てられるバランス感覚がある彼女なら、鳥型の召喚獣の上に乗る事もできそうだ。望み薄だが、クロっち達に頼んでみよう。
「じゃあとりあえず、今日もよろしくな」
名前 ダイキ
Lv 47
種族 人族
職業 存在愛の召喚士
筋力__98 (125)【223】
耐久__56 (258)【314】
敏捷__56 (3)【59】
器用__92[20](179)【291】
魔力__60【60】
※【 】内が総合計値
※[ ]内が技能スキル強化値
※( )内が装備の強化値
技能スキル
【召喚魔法 Lv.45】【火属性魔法 Lv.10】【採掘術 Lv.16】【片手剣術Ⅱ Lv.18】【片手盾術Ⅱ Lv.9】【鼓舞術Ⅱ Lv.7】【技術者の心得Ⅱ Lv.19】【野生解放Ⅱ Lv.7】【統率者の心得II Lv.2】【シンクロ Lv.27】
控え【調教術 Lv.1】【魔石生成 Lv.12】【錬成術 Lv.14】
特殊技能スキル【炎攻撃付属】
NEW→統率者の心得の効果が、パーティ一人の場合1.11倍、二人1.12倍、三人1.13倍、四人1.14倍、五人1.15倍から、一人の場合1.12倍、二人1.13倍〜へと変化。
名前 ダリア
Lv 45
種族 中級魔族
状態 野生解放
筋力__64[40](51)【155】
耐久__64[40](59)【163】
敏捷__64[40](45)【149】
器用__64[40](45)【149】
魔力__168[75](187)【430】
召喚者 ダイキ
親密度 107/200
※【 】内が総合計値
※[ ]内が技能スキル強化値
※( )内が装備の強化値
※小数点第一位を切り上げ
技能スキル
【火属性魔法Ⅱ Lv.21】【闇属性魔法Ⅱ Lv.17】【魔法強化Ⅱ Lv.22】【魔力回復Ⅱ Lv.20】【オーバーマジックⅡ Lv.8】【怒りの炎 Lv.22】【竜属性魔法 Lv.5】【魔力強化 Lv.15】
名前 部長
Lv 41
種族 魔鼠族
状態 野生解放
筋力__43[36]【79】
耐久__57[39](20)【116】
敏捷__43[36]【79】
器用__60[39]【99】
魔力__104[85](85)【274】
召喚者 ダイキ
親密度 91/200
※【 】内が総合計値
※[ ]内が技能スキル強化値
※( )内が装備の強化値
※小数点第一位を切り上げ
技能スキル
【回復魔法 Lv.26】【強化魔法 Lv.29】【弱体化魔法 Lv.27】【魔力強化Ⅱ Lv.10】【魔力回復 Lv.29】【アイテム効果上昇 Lv.22】【分配Ⅱ Lv.14】【回復魔法の心得 Lv.20】【支援魔法の心得II Lv.2】【緊急睡眠 Lv.26】
名前 アルデ
Lv 28
種族 小人族
状態 野生解放
筋力__196[69](150)【415】
耐久__37[35](25)【97】
敏捷__47[37]【84】
器用__44[36]【80】
魔力__37[35]【72】
召喚者 ダイキ
親密度 70/200
※【 】内が総合計値
※[ ]内が技能スキル強化値
※( )内が装備の強化値
※小数点第一位を切り上げ
技能スキル
【武器術 Lv.14】【筋力強化 Lv.15】【反応速度強化 Lv.9】【魔法武器付属 Lv.11】【急所見切りの心得 Lv.10】【重撃 Lv.13】【殺意 Lv.13】【強靭 Lv.8】【闘気 Lv.9】【魔装 Lv.10】