動きだすイベント
個人戦一回戦目の相手は、装備からして前衛攻撃役。武器が双剣、防具が革製な事から、速度重視の戦闘スタイルだと推測できる。
腰に差した剣をゆっくり抜き、炎を纏う盾をしっかり構える。
試合開始の合図と共に、対戦相手が走り出し――俺は迎え撃つような形で対峙した。
「『猪突猛進』!」
両手を顔の前でクロスさせ、逆手に構えた剣が牙のような形となり、こちらへ向けられる。
掛け声と同時に彼の速度が一段上がったのを感じつつ、盾弾きの発動態勢へと移る。
「っだぁぁああ!!」
一撃目を、剣で弾く――
二撃目も、剣で弾く――
三撃目は、見切って避ける――
四撃目に、盾弾きで応戦した。
突如、両手が打ち上げられ、雄々しさと困惑が入り混じる表情を浮かべた双剣士。
ゆっくりと剣を下段に構え、剣先を地面に付ける。
技の発動を意味する鮮やかなライトエフェクトと共に自分の体がモーションに沿って動き出し、無防備な胴体を青色の剣が抉った。
――順調に勝ち進む俺は続く二試合目も一試合目同様、隙をついての弾きからの技繋ぎによるコンボでなんとかLPを削り切り、無傷で控え室へと生還した。
勝因としては相手が二試合共、防御手段の少ない攻撃役だったという点とステータスの差……つまり必然的に弾きの成功率も上がるわけで、危なげなく勝利を収める事ができている。
純粋な盾役では火力面で難があるし、相手同様に攻撃役だった場合、召喚獣用の技能やステータスが足を引っ張っていただろう。
そういう意味では、盾弾きによる攻撃の無効化と確定criticalに加え、練習を積んだ技繋ぎ。そしてなけなしの筋力値があってこその勝利と言える。
とはいえ、次の相手は魔法職。
アルデのいない今、攻撃を捌ききれるかどうかで一抹の不安があるが……無論、全力でぶつかっていきたい。
『おかえりー』
いつものように覇気のない声で出迎えてくれたのは、ちょこんとお座りして顔だけこちらに向ける部長だった。
部長が寝ていないのは珍しいな――と、当たり前の事で軽い感動を覚える自分に驚く。
不良が良いことをしたら、すごく良く見えるような感覚に近い。
怠惰の化身のような彼女に『ただいま』と返し、後の二人を探す。
『いま当たった ぜったいダリアの勝ち』
『当たってないもん!』
部屋の隅で騒いでいるのは、長椅子の上で顔を真っ赤にするアルデと、床上でアルデを指差すダリア。
二人共、振ると伸びる紙のおもちゃを手に持っており、状況から察するにチャンバラ的なゲームをしていたと思われる。
のんびりしてくれるのはいいんだが、試合を観てくれてないのは少し寂しい。
『あ ダイキだ』
『おかえりー!』
どうやら本当に俺が帰ってきた事に気付いていなかったのか、同時に振り返った二人が手を振ってくる。
召喚獣達は、今日はもう試合が残っていないから気が緩むのも頷ける。それを指摘する必要もないだろう。
気を取り直し、再び紙のおもちゃでチャンバラを開始するダリアとアルデ。
部長は既に夢の中だ。
『なにしてたんだ? 俺も混ぜてくれよ』
息抜きに。と、声をかけると、駆け回るダリアがアルデの攻撃を避けながら答える。
『これは 命がけのたたかい ダイキは参加ふか』
『まてー!』
紅葉さん達と共に、おやつと早めの夕飯を食べたからか、元気いっぱいに遊びまわる召喚獣達。
そして俺には参加権がないらしい。
仲間外れは良くないな。
『そうか……』と、意識した笑みを浮かべながら、アルデの武器交換特訓で培った画面操作を駆使し、武器解除とおもちゃの装備を行う。
二人が片手剣なのに対し、俺は反則技の二刀流である。
『俺を倒せるかな?』
一試合目の対戦相手を意識し、両手をクロスさせ一言。
『む 新手か』
『二本持ってる! ずるい!』
寝息を立てる部長を尻目に“ピシリパシリ”と攻防の音が鳴り響く。
普段から近接攻撃を行うアルデが強いと思っていたが、ダリアもなかなかに巧い。
暗黙の了解とばかりに、何故か二対一の状態へと変わる戦場、伸びるおもちゃ、眠る部長。
控え室は実に、平和だった。
勝ち誇った表情を浮かべるダリアとアルデに『あれはノーカンだ!』と、言い訳がましく云いつつ、長椅子に腰掛けながら、先ほど届いたメールを確認する。
命がけの戦いの最中に届いたこのメールのお陰で不意を突かれ、負けた。
このメールが無ければ、恐らく負けなかっただろう。
つまりノーカウントということだ。
再び後ろで始まる命がけの戦いの音を聞きながら、隣で寝息を立てる部長を撫で、メールを開き――送信者の名前に、目を奪われた。
「王都騎士団……イベント関連か?」
そこには王都の騎士団に属するNPCらしき者の名前。
そしてそのメールの内容には、イベントについての記載がされていた。
【優秀な戦士へ】03/21/17:40
貴殿のトーナメント戦での活躍、しかと見届けた。心、技、体、全てが揃った素晴らしいものであった。
我が国の国王であるエルヴァンス・ロウ・ダナゴン2世陛下が貴殿に興味を示している。
明日の14:59までの間に手紙に同封した《実力者の証[C]》を王都騎士団の者に掲示し、《国王の席》まで来てもらいたい。
譲渡不可アイテム:実力者の証[C]×1
読み終わると同時に同封されていた《実力者の証》とやらを入手。
そちらの説明の方にも目を通していくと、名声が一定数に達した者に与えられる勲章であると書いてあった。
関係ないが、文面には“メール”ではなく“手紙”とあったのは世界観を壊さない配慮だろうか? 俺たちのようなプレイヤーみたく、NPCがキーボードを叩いて送信していたら違和感が凄まじいに違いない。
脱線したが、現在の俺の名声はちょうど50であるから、恐らくこの数値がイベント発生のトリガーと考えて良さそうだ。
[C]とあるのが少し気になるが、話の流れから推測するにこれは“一段階目”であり、続く“B”、そして“A”があると考えられる。もしかすると、“S”や“SS”まであるかもしれない。
「なんにせよ……」
気を取り直し、対戦相手の試合が流れる液晶モニターへと視線を移す。
期限は明日の午後三時まで――つまり、トーナメントイベントが終了するまでの間に王様の所に行かなければならない、というわけか。
個人戦がひと段落したタイミングで済ませてしまっても良いかもしれないな。
今は次の試合の方が大切だ――
『試合開始まで、残り五分となりました。選手の皆様は試合の準備を完了させ、開かれた扉から入場してく……』
三試合目ともなれば、周りに召喚獣が居ない状況にも慣れてきた。
思えばダリアを召喚した日から今日まで、ゲーム内で召喚獣達と離れた事がないな。
彼女達がべったりなのも理由の一つだが、寧ろ俺も彼女達に依存している節がある。
真っ直ぐに向けられた信頼と愛情は、俺が彼女達に与えていたと同時に、俺自身、彼女達へ求めていたものなのかもしれない。
謙也にゲームを薦められ、召喚獣という存在を知った日から――
「よろしく!」
「――よろしくお願いします」
相手の魔法職が発した声に、思考を四散させ答えた。
動画で見た通り値段の高そうな装備に身を包んだ魔法職は、鹿の角のようなものが先端に付けられた杖を掲げ、打ち付けるように床を叩く。
「混合戦、或いは団体戦で当たっていたら、ちょっと勝機が薄かったと思う。けど、個人戦なら此方が有利!」
慢心している訳でもなく、十分に警戒した雰囲気を維持しながら云う対戦相手。
確かに、物理で攻めるしか方法のない俺に、遠距離から攻める事ができる魔法職は天敵と言える。対応可能なダリアや、無効化できるアルデが居れば話は別だが、この場には俺しか居ない。
大兵器でやったように、距離を詰めるか?
それとも壁を上手く使って堅実に攻めるか?
『試合開始!』
審判の声と同時に、障害物として存在する近場の壁へと身を隠し、壁越しに相手の動きを観察する。
そう離れた距離ではない所にいる相手は何故か目を瞑り、胸の前に杖を突き出し、空いた手を添えて何かを唱えていた。
先の二試合では使ってない魔法だ――とすると、俺に当てるために温存していたのか?
だとすれば、相手は俺が壁に隠れるのを予想している可能性がある。逆をつき、急接近への備えともとれる。
まさかどちらにも対応できる奥の手……とは考え難いが、このまま止まるのは悪手か否か。
「――っ!」
説明できない違和感を覚え上空へと視線を向けると、その先に光る魔法陣が俺のいる場所を捉え、今まさに魔法が展開されようとしていた。
咄嗟に隣の壁へと転がる。
地面を穿つように降り注ぐ刃が、先ほどまで俺が居た場所に発生。壁もろとも粉々に粉砕した。
対戦相手は未だに目を瞑り、何かを続けて唱えている。
――なんだ? というか、何故俺のいた場所に魔法陣を発生できたんだ?
初期位置と、俺の性格とを踏まえ、一番最初に隠れるであろう壁の上に魔法陣を展開させたとすれば、相手は恐ろしく頭のキレるプレイヤーだとわかる。
ただ、遮蔽物も何もないあの場所で目を瞑り、魔法を使うのはどうだ?
それすらも囮、とも考えられるが……
フィールドに点在する壁を伝って走りながら、未だ初期位置から動かない魔法職に狙いを定めていく。
もし仮に彼が魔法陣を“置き発動“しているのだとすれば、隼斬りで彼に近付いた瞬間、付近に留めていた魔法が発動する可能性がある。
となれば――
《盾投擲》による中距離攻撃を選んだ俺は、左手を振るようにして盾を射出、地面スレスレを滑るように飛ぶ盾が魔法職に接近する。
目を瞑っていたら回避できない!
突如――何かが俺を貫いた。
「!?」
大きく削れるLPの確認もそこそこに、素早く場所を移動しながら腹部を弄る。
腹部に空くたて穴からは光のポリゴンが溢れ、その穴の大きさは、受けた魔法威力の高さを物語っていた。
戻ってくる盾を左手で受けるも相手のLPは減っておらず、攻撃が不発に終わった事を知る。
アイテムボックスから回復薬を取り出すも、それをさせまいと追撃が始まる。
何らかの手段で、攻撃を与えつつ防いだか、或いは避けたか――
視線を動かすと、初めのポジションから微動だにせず構えを解かない対戦相手の姿があった。
初期位置から動かず……か。視界を閉じたまま正確無比な攻撃を完璧なタイミングで与えるとなれば――三次元的に空間把握している、という線はどうだろうか?
つまるところ、彼はフィールドを平面でなく立体として見ている。
イメージとしては、フィールドの真上から見下ろしているような、そんなところだろうか。
俺が移動した場所も、無防備になるタイミングも手に取るようにわかるとしたら、二度の不意打ちも合点が行く。
動かないのも目を瞑るのもその技能の所為だとするなら、ここが攻略の糸口か。
部長との視界共有がない現在、死角をカバーできる術がない。
――狙うなら、不意打ちだな
相手に向かうような形で駆けていた進行方向を変更し、体の向きを右に90度動かす。
回復のための一時離脱
或いは、裏を取る
そう思わせる動きを、自然に演じる。
「きた……!」
抜き身の剣に反射するのは、後方に現れた魔法陣。予想として目の前と下も警戒していたが、素直に後ろへ展開してくれたようだ。
トリッキーな技能の持ち主が、三度も攻撃の方向を変えないとは考え難い。そういう意味では、素直な性格で助かった。
方向転換は囮だ。
視界左隅に見切れた相手を捉え、隼斬りにて一気に接近。
剣を振りかぶった所で、相手と目が合った。
「それは、大兵器戦で観たぞ!」
待ってました! と言わんばかりに杖を振るい、自身の足元に魔法陣を展開する対戦相手。
技によるモーションは、技が終わるまで止まらない。
残りのLPで受け切れるかどうか、魔法陣が放つ光の強さから、なんとなく悟ることができた。
杖で地面を叩く音を最後に、視界が暗転した。




