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トーナメント一日目 混合戦①

 

 時刻は12時53分、Seedの面々と別れた俺たちは混合戦に参加するべく、選手控え室へと移動していた。

 今回の控え室も、港さん達と待機していた部屋と同じ作りになっており、全ての控え室が同じレイアウトなのだと推測できる。

 ダリアと部長は早速、備え付けの長椅子へと小走りで移動し、ダリアは手に持っていたいっぱいの食べ物を椅子の上に広げていった。


「こんだけ買わされるとは……(しつけ)も親の仕事なんだけどなあ」


『お留守番 ひま』


『あねき、これ食べたいー』


 控え室にたどり着くまでに、留守番は暇だのお腹が減るに決まってるだのと長女と次女が騒いだ結果、雨天さんとクリンさんと共に、二人のおやつを購入してまわっていたのだ。

 雨天さんとクリンさんも割と乗り気だったのは助かったが、これでもかという程に(こび)を売るダリア達に負けた二人が甘やかし過ぎたお陰で、控え室は小さなパーティ会場のような有様になっている。

 アルデはおやつが無くてもレイと大人しく待っていたというのに……この二人の図太さには脱帽と言わざるを得ない。


 ともあれ、団体戦では大人しく待っていたアルデだったが――


『アルデ、リラックスリラックス。一緒に練習頑張ってきたんだ、自信もっていこう』


『そ、そ、そうだな!』


 控え室に入った途端、こんな調子である。

 ダリアも部長も、その図太さ故か緊張という感情を持ち合わせていない様子だったが、大観衆の中で戦う事にかなり緊張しているようだ。

 “案外平気なもんだよ”等の、アルデの気持ちを無視するような励まし方を避けるよう、注意するのも忘れない。


 ――この様子が続くようなら、初戦がちょっと心配だな。と、トーナメント表に映る俺たちのブロックに視線を移し、一回戦目の相手の名前を確認する。


 団体戦同様に、代表者の名前が記されているが……今回も俺の知人には当たらなかったようだ。その分、相手の特徴に関して情報がないため、前の試合を観ることができる二回戦に比べ、難しい戦いになると言わざるを得ない。


『試合開始まで、残り五分となりました。選手の皆様は試合の準備を完了させ、開かれた扉から入場してください。尚、試合開始時刻30秒前までにプレイヤーが全員揃わなかった場合、そのチームは強制失格となります――試合開始まで、残り五分と……』


『うわっ!』


『アルデ、落ち着け。これはアナウンスだ』


 試合時間五分前のアナウンスに飛び上がるアルデは、続く扉のせり上がる音にも驚きの声を上げている。


 これは言葉で緊張を解きほぐすのは難しいレベルだ……荒治療だが、試してみるか。


『とりあえず、試合が始まるから入場するぞ。ダリアと部長は留守番任せた』


『が、がんば、がんばってく……』


 緊張でガチガチのアルデを片腕で抱き上げながら、開かれた扉から会場へと足を進める。

 後ろではダリアと部長が『がんば』『いってらっしゃーい』と、覇気の無い鼓舞で見送りをしてくれていた。


 進むにつれて扉が閉まっていき、会場内を包む割れんばかりの歓声が耳に届くと同時に、アルデが腕を掴む力を強めていく。

 けれども、彼女の緊張がほぐれるのを待たずして、試合の時間はやってきた。


 対戦相手の二人に会釈した(のち)、アルデを降ろして戦闘態勢へ移行。右下に表示される二つのプレートの位置を操作しながら、アルデに声を掛ける。


『俺の合図があったら、思いっきり戦ってこい。頑張らなくていいから、いつも通りにやってくれ』


 俺の言葉に、アルデは頭を縦に振る事で答えてみせた。

 アルデの背中に、身の丈ほどある大剣が装備される。


『ここで試合のルール説明を致します。制限時間は15分で、相手を全滅させる・時間切れの際に相手よりも多い人数が生き残っている方が勝ちとなります――』


 審判によるルール説明を流し聞きしつつ、遠目から相手の構成を予想していく。

 二人共、攻撃役(アタッカー)であるらしく、片方は細身の剣――所謂(いわゆる)レイピアを腰に下げていた。防具の種類や形状から見ても、素早さに重点を置いていると推測できる。

 もう一人はメリケンのような武器を装備している事から、拳士(グラップラー)という線が濃厚。装備もレイピアの彼女と同じように、素早さ重視の布製だった。


 動画での予習ができないため、構成技能(スキル)の予想は漠然としかできないが、これは戦闘の中で考察していくしかなさそうだな――ともあれ、そろそろか。



『試合開始!』



 審判の掛け声と共に、混合戦の一回戦目が始まった。

 相手チームの二人は予想した通りに、開始直後に駆け出しながら速度を上げ、一直線に俺を狙って向かってきている。


『とりあえず、アルデは待機!』


『う、うん!』


 カチコチのアルデを待機させ、単身で敵を迎え撃つ。

 アルデを気遣ってではなく、これは俺の最終確認(・・・・)であるから一連の作戦通りとなっている。


「相手が召喚士なら、召喚獣と戦わなくとも本体を叩けば楽に倒せるっ!」


 拳士らしき男が、声を上げながら電撃を纏った拳を繰り出し、ワンテンポ遅れてレイピアが突き入れられた。

 先に放たれた拳に合わせ盾を動かすと、技術者の心得による光の拡大縮小が始まっている。


『アルデ――標的はレイピア使いだ』


 アルデへ短く指示を送りながら盾で拳を受け、削れたLPを確認する間も無くレイピアへと盾を動かしていく。

 攻撃が終わった拳士は、次の攻撃へ移るためのクールタイムが発生しており、連続した攻撃ができない。よって、レイピア使いの攻撃をしのげば、反撃する時間が生まれる。

 俺はレイピア使いの攻撃に問題なく盾弾き(シールドパリィ)をしてみせ、胸元がガラ空きになるように上へと打ち上げた。


「ユウタ! 援護!」


「まってろ!」


 盾弾き(シールドパリィ)によって生まれた隙……たとえ一秒だったとしても、味方の少ない混合戦では命取りである。


 ――いけ、アルデ!


 突如、俺たちの間に飛び込んできた小さな影に、レイピア使いが目を丸くしているのが見えた。

 既に大剣を振り上げていたアルデは、ぎこちない動きながらも、強力な一撃を叩き込んだ。


『やあああぁ!!』


 爆発音に似た凄まじい音と共に地面が割れ、抉れたフィールドの破片が辺りに飛び散る。

 次の攻撃へと移行していた拳士は、何が起こったのか理解できていないかのように、吹き飛ばされていく仲間の名前を、最後に疑問符を付けながら小さく呟いた。

 アルデの一撃を体に受けたレイピア使いは、あまりの威力に踏ん張りきれず、遮蔽物として備えられた壁へと激突。そのまま、一瞬にしてLPを散らせたのだった。



『……あれ?』



 一時の静寂。


 この状況に一番困惑していたのが、攻撃した張本人であるアルデだった。


 彼女の技能(スキル)には凶悪な物も多く含まれているが、何よりの武器はその筋力値。脳筋武器である剣王の大剣を装備したアルデは、ただ剣を振るうだけでも、恐ろしい火力が出るようになっていた。


 団体戦同様に、俺は混合戦のためにアルデとも練習を重ねていたが、実は戦闘において高い才能をみせるアルデに戦闘的指導は何一つ行っていない。

 残りの時間の大半をレベル上げに費やしていたため、ステータスそのものの向上も行うことができた。



名前 アルデ

Lv 28

種族 小人族

状態 野生解放

筋力__196[63](150)【409】

耐久__37[34](25)【96】

敏捷__47[36]【83】

器用__44[35]【79】

魔力__37[34]【71】


召喚者 ダイキ

親密度 36/200


※【 】内が総合計値

※[ ]内が技能(スキル)強化値

※( )内が装備の強化値

※小数点第一位を切り上げ


技能(スキル)


【武器術 Lv.14】【筋力強化 Lv.15】【反応速度強化 Lv.9】【魔法武器付属 Lv.11】【急所見切りの心得 Lv.10】【重撃 Lv.13】【殺意 Lv.13】【強靭 Lv.8】【闘気 Lv.9】【魔装 Lv.10】



 彼らの装備は、先に考察したように速度重視という印象があり、耐久性に優れているとは考え辛かった。二人共が避け続けるスタイルであるから、攻撃が当たれば相当なダメージが入ると考えられた。

 既にこの段階で、俺が彼らの攻撃を盾弾き(シールドパリィ)できるかどうかの問題だけが残る。

 そして拳士の彼に盾弾き(シールドパリィ)で確認した結果、光の拡大縮小は“非常に遅かった”。レイピアの彼女の攻撃も問題なく弾く事ができると判断し、アルデへと指示を飛ばすに至る。


 たとえ素早さが売りだとしても、盾弾き(シールドパリィ)をされていては避ける事はできない。

 それこそ、味方のもう一人がフォローに回らなければ、一気に戦況が変わると断言できる。


「な……え?」


 一瞬にして味方が戦闘不能となったのが理解できないのか、拳士は俺たちと倒れたレイピア使いとを見比べるように視線を動かしていた。


『今のアルデがそれだけ強いって事だよ。だから初めに言っただろ? 頑張らなくていいから、いつも通りにやってくれって』


 単純に、敵とのレベル差があった。というだけの話しである。簡単に盾弾き(シールドパリィ)ができる相手なら、俺とステータス上だけでも相当な差があると考えられる。

 そんな俺のステータスを軽く超えているダリアと、同等まで成長しているアルデなら、レベル差のある相手を圧倒するのも自然の流れだ。


『そ、そうか……!』


 強さは自信になる。


 自信は安心につながる。


 不安でいっぱいだったアルデが自分の力に自信を持ち、緊張もほぐれていくのも時間の問題だろう。

 荒治療として、俺が開始早々に盾弾き(シールドパリィ)をしてみせ、アルデの高い攻撃力が確定criticalによって底上げされる。それに耐え切れるプレイヤーは、たとえ同レベル帯でも多くないだろうと考えた。

 そういう意味でも、初戦の相手がレベル差のある敵で本当に良かった。ここで実力が拮抗した相手にあたっていれば、アルデが本来の調子を取り戻す前に、やられていたかもしれない。


「態勢を立て直すぞ!」


「ありがとう、ごめん!」


 ともあれ、相手の素早さは脅威だ。相当、ステータスを敏捷に充てていると考えられる。

 一瞬の隙をついた拳士が蘇生薬によってレイピア使いを蘇生させ、既に戦闘態勢になっていた。一度痛い目を見た後だ、戦い方も慎重になってくると予想できる。


『アルデ。もう緊張は解けたか?』


『もう大丈夫だ!』


 しかしこっちのアルデ(エース)も本調子だ。既にはっきりとした実力差のある相手に、負ける要素は存在しない。





 試合時間、約七分間のあいだにダリアと部長はパーティ会場を全て空にしていたのだった。

 試合から戻った俺たちに、退屈そうな声色で『おかえり』『おかえりー』と云う二人。アルデはそれに元気な声で返事をしてみせた。


『アルデ その調子』


 ガチガチに緊張していたアルデを察していた様子のダリアが、親指を立ててアルデを褒める。

 部長は挨拶を済ませたからと、再びコロリと昼寝に突入していた。彼女には、アルデの緊張を少しだけ分けてやりたいくらいである。


 ともあれ、ドキドキの初戦はアルデの活躍もあって圧勝という形で終了した。

 装備に詳しいプレイヤーには、アルデの装備している武器が剣王の大剣という事がバレているかもしれない。装備するために必要な筋力も、それに伴い把握されていると考えられる。

 しかし、アルデは先ほどの試合で技能(スキル)だったり(アーツ)だったりを殆ど発動していないため、二回戦目にして完全に不利な状況になるとは考え辛い。


 とにもかくにも、アルデがあの緊張を克服できただけでも満点を贈りたい。


『お疲れさん。いつも通り、いい動きだったぞ』


『次も頑張る!』


 既に二回戦目への気合いを入れ、ファイティングポーズをとるアルデ。

 この様子なら、もう心配する必要は無さそうだ。


 二回戦目も、しっかり勝ちにいこう。

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