トーナメント一日目 vs Coat of Arms
対面すると改めて分かる、“圧迫感”にも似た何かが俺たちに向けられた。
既にそういう類の技能を使っているのかは不明だが、ともすれば、彼らが纏っている“自信”に押されているのかもしれない。と、向けた視線をそのままに、俺は彼らの分析を終了させた。
「やあ。マスター達から話は聞いてるよ。今日はいい試合にしよう」
「ええ、よろしくお願い致します」
握手こそないが、リーダー格であるセイウチが盾を持たない左手を挙げ、軽く挨拶をしてみせる。豪快な見た目とは裏腹に、かなり律儀な性格をしている事に驚きながらも、それに返してみせた。
動画で見た通り、盾役のセイウチを筆頭に、薙刀を持った巨人族の女性や、残りのメンバー達が並んでいる。
彼らの陣形としては、前衛に盾役と薙刀、そして槍を持った男性プレイヤーのスリートップで、後ろに控える回復役を、残る二人のプレイヤーが守るようにポジションを取っていた。
巨人族に関しては背丈もそうだが、腕の長さも人族とは比べ物にならない。その上、リーチの長い薙刀を使っているとなれば、盾役や槍使いを孤立させるのは難しい。距離を取ろうとも、ものの数歩で間合いを詰めてくるだろう。
港さんと事前に決めた作戦が上手くいけば流れを完全に掌握できるが――失敗すれば容赦のない火力と範囲によって返り討ちにあう。
控えている二人のプレイヤーがどんな技を使ってくるのかは、残念ながら分からない。今の所、そこだけが不安定要素と言える。
「久し振りだな、ドンさん。動画を観たが……相変わらず脳筋盾役やってるな」
「港に言われたくはないねえ。魔法職である召喚士なのにも拘らず、物理攻撃主体の超近接スタイルなんてね……という意味では、お義父さんの方も召喚士としては異端的スタイルみたいだけど」
思っていた以上に親しい様子の港さん、そしてセイウチ。
ともあれ、俺のスタイルも知っているとなれば、やはり相手も俺たちの試合も予習してきているようだな。
強者揃いのチームなのに。というか、だからこそ。というか、勝負に対して余念がない事が読み取れる。
驕らない強者ほど、厄介な相手はいない――
試合開始を告げる審判の声と共に、俺たちは相手チームの前衛と一気に距離を詰めた。
こちらの特攻メンバーは港さん、キング、俺、部長だ。
シンクロによる視界の共有を部長と繋ぎ、俺の死角となる場所をカバー。同時に、後方で援護射撃を行うダリアとケビンの姿も視界に入れる事ができる。
「殴り合い希望か」
ほぼ同時に駆け出した相手のパーティも、俺たちのうちの誰かしらを標的と決めていたらしく、迎え撃つ形で技を展開している。
自身を含めた前衛達に亀の甲羅のような技を発動しながら、セイウチ顔で笑ってみせるドンさん。相手の陣形は綺麗な三点を維持している。上空から見れば、正三角形がなぞれる事だろう。
「予想通りの陣形だな」
隣を並走する港さんが、意外そうでもない声で呟いた。
盾役を要として小隊を作り、攻守共に隙の少ない形とされる《三角形の突撃》。
敏捷性が乏しい盾役の手が届く範囲に固まる事で、最大限に己の技能を発揮する事ができる。
俺たちの後ろではダリアとケビンが、魔法陣を展開しはじめていた。
ダリアは赤の、ケビンは黒の魔法陣から、発動までの時間が短く、且つ威力の高い槍型魔法が打ち出すも、相手パーティの後衛として控える魔法職達がすかさず魔法陣を発動、それを撃ち落としていく。
こっちも研究済みかよ――
『やはり二対三だと厳しいか……ダリアの方はケビンとうまく連携して、相手の魔法を捌く事に専念してくれ。属性はなるべく闇を使え』
『わかった』
こちらも想定通りだが、ダリアとケビンの援護射撃が望み薄となると、少しだけ火力面が心配だ。《野生解放》をはじめとするステータスアップも加わっているとはいえ、それは相手も同じ事だろう。
チーム編成は前衛三人後衛三人と同じであるが、こちらは部長が攻撃用の技能を所持していないため、攻撃役としては期待できない。
対する相手チームだが……。
(「相手の回復役は青魔法使いの上位職である《青魔法士》。攻撃に比重が置かれている上、属性が《水》しか使えないが故に威力は高い――つまりは、ダリアちゃんと相性が悪い」)
試合前、港さんが言っていた相手の回復役への懸念。
《水》の属性は、ダリアが好んで使い、使える三つの属性のうち最も育っている《火》の属性の弱点属性とされる。
魔力の数値で上回っていたとしても、属性の相性というのは無視できぬほど重要な項目らしい。
先ほどの魔法陣。実験的にダリアは赤――つまりは火属性魔法を使ったわけだが、結果として相手の回復役によって防がれた。ケビンの闇属性魔法も、相手の光属性魔法の使い手によって潰されている。
光と闇は優劣つかぬ属性と言えるが、それ故に相手との力量の差が大きければ単純に勝てない。簡単に相殺されたとなれば、言わずもがな……だ。
――相手は大型ギルドのNo.3のチーム。
レベルが低いとは考え辛い。
「作戦通りに」
「はい」
確認するように云う港さんの言葉に頷きながら、俺たちは相手チームの前衛達とぶつかった。
電撃を纏わせ、殴る港さんの初撃は、ドンさんの分厚い盾によって防がれている。
「『城壁崩し』」
ドンさんの後ろから飛び出してきたのは相手の槍使い。土色の光を放ちながら、俺の胸目掛けて高速の突きが放たれた。
咄嗟に――盾弾きの構えと共に、技術者の心得による光が現れる。
俺の器用値と相手の力量から弾き出される弾く難易度は“不可能ではない”。この程度であると分かる。
確実ではないが、弾く事ができない程でもない。と、まるで走り書きをした自分のノートを見ているような、俺自身にしか分からないような、なんとも曖昧でお粗末な気持ちになりながらも、相手の穂先と俺の盾とが接近し――
「ダイキ! 防がず避けろ!」
「――っ!」
声を荒げた港さんの言葉のままに、盾弾きの解除と回避を行う。
「――おいおい、あの体勢から避けるかあ?」
驚くような声色で呟いたのは、相手の槍使いだった。
俺が先ほど居た場所である石の床が轟音と共に砕かれ、立ち込めた土煙の中に見える《槍》と《薙刀》に一瞬、目を奪われる。
槍使いは勿論だが――薙刀巨人はあの距離から俺に攻撃したというのか?
盾役を挟んで、ここまで何メートルあると思ってるんだ。
「あらー、残念ー、反射神経もいいみたいだねー」
薙刀巨人がのんびりとした口調で呟く。
彼女にはキングが攻撃を加えているというのに、僅かにできた隙から俺へ不意打ちを与えてくるとは――確かに、厄介な相手だな。
「魔法部隊も攻めあぐねているみたいだけど、要注意だったお義父さんとこの女の子を上手く封殺できてラッキーだよ」
「そういうおたくらも――同じじゃねぇのかっ!」
まだまだ余裕の雰囲気を維持するドンさんに、港さんが技を纏わせた拳を打ち付ける。
金属同士がぶつかり合うような鈍い音が耳を劈くも、音の大きさとは裏腹に勝負は全く動かない。
盾役の盾越しでは有効打はほぼ与えられない。まず相手の前衛攻撃役を潰さなければ活路は開けそうにない。
「いやいや、こっちは現状“受けている”だけだよ。攻めに転じて苦しくなるのは――君達の方だ」
技を発動しながら、手に持つ斧を地面に打ち付けるドンさん。
岩が砕けるような爆発音に加え、割れた地面がその威力を物語る。
些細な攻撃一つも致命傷となる攻撃役は、なるべく攻撃は避けなければならない。
咄嗟に大きくバックステップすることで回避した港さんだったが、ドンさんの目的は攻撃ではなかった。
天空に現れたのは白の魔法陣。杖を振るうのは、ダリアとケビンの魔法を相殺していた二人ではなく、試合開始から今まで何の魔法も使っていなかった魔法職。
多重展開された夥しい数の魔法陣から白色の球体が出現し、俺たち前衛組が戦う場所へと降り注ぐ。
「嘘だろ……これまでの時間、溜めに充ててたって言うのかよ」
もはや港さんの表情を確認する余裕はなかったが、その声色だけでも分かる“焦り”。
ダリア達の先制攻撃から薙刀巨人からの不意打ちまで、およそ50秒ほど。そのたっぷり50秒を掛けて作り上げた魔法が、光の尾を引きながら炸裂した。
「『聖なる星の礫』」
魔法陣の数と同数の光の球体は地面にぶつかると同時に爆発を生み、幾重にも連鎖する爆発が、俺たち前衛全体のLPをみるみるうちに削っていく。
予め掛けておいた防御技や部長の強化魔法も、大きな効果を見せていない。元々耐久面に難ありだった港さんとキングには、俺の防御技を貫通した大ダメージが叩き込まれた。
爆風に吹き飛ばされながら受け身をとり、地面へと転がる。
『部長、大丈夫か!?』
『ご主人のおかげで、大きなダメージはなかったよー。けど、他の二人への回復が追いつかない。わたしのMPも少なくなってきた』
頭部を守るように盾を構えていたのが功を奏したか、部長へのダメージは少ない。しかし、物理的な防御手段をとれない港さん達へのダメージは深刻だ。
トーナメント専用のMP回復薬を部長に与え、視界右下に表示されたパーティ全体のLPを再度確認する。
「残りLPは――港さんとキングが約二割、俺が五割に部長が七割……手酷いな。その上、敵も待ってはくれなそうだ」
ゆっくり次の手を考える暇はない。
片膝をついた状態から、横へと転がる。と、目標を破壊できなかった薙刀が、代わりに地面を大きく抉った。
続く槍での横薙ぎを盾で受けるも、その威力を殺しきれず、再び吹き飛ばされる。
「港さん!」
受け身を取りつつ、港さんへの安否確認を行う。
「前衛二人でダイキを潰す魂胆だろう! すまない、キングがやられた!」
ドンさんの強襲になんとか対応している港さんだったが、横にいたキングの姿が見当たらない――
「くそっ!」
既に視界右下に表示されていたキングの名前が消えており、召喚獣だからか、体は残っていない。
召喚獣は蘇生魔法ではなく、魔石を使い、再度召喚する事で蘇る。それには港さんが再召喚できるだけの時間を稼ぐ必要があるが……
「『こっちだ』」
「無駄だ!」
動きを制限できる挑発も、ドンさんによる、なんらかの技能または技でもって防がれてしまった。
部長から回復を受けているから俺も港さんもLPに余裕は生まれたものの、人数が一人減っただけで形勢は大きく変わる。
――完全に劣勢だ。
「二対一で可哀想だけど、こっちも余裕がないもんでね!」
連続して突きを放ってくる槍使いの言葉に、返答する余裕はない。盾で受けているのにも拘らず、少なくない量のLPが削られていくのがわかる。
薙刀巨人と槍使い。
どちらも攻撃力が高いため、体に受ける訳にはいかない!
『すまない部長。忙しいとは思うけど、回復頼んだ』
『はーい』
相手の前衛攻撃役二人の攻撃をなんとか捌きながら、部長の視界と自分の視界を合算し、戦場の状況を把握してみる。
港さんは盾役に完全にロックされ、攻める事はおろか、その場から離れる事すら許されない状態だ。
攻撃してもまともにダメージが通らない上、ドンさんは回復役によって随時回復されている。
時間と共に不利になるのは港さんの方だということは、誰の目からしても明らか。
ダリアとケビンも試合開始直後とは立場が逆転し、相手の魔法に応戦する形になっていた。
こちらが攻めきれない理由として、相手に水属性魔法の専門がいるために火属性魔法が使えないダリアが、思うように攻撃できずにいる事。
ケビンは氷属性魔法を、ダリアは闇属性魔法を駆使しているものの、相手の方が数は上。俺たちへの援護はあまり期待できない。
当初の作戦は、相手の大魔法によって潰された――となれば、次の手を打って出るしかないだろう。
『ダリア。ケビンに伝えてくれ。作戦Cをやるぞ!』
俺はダリアへ、そう端的に伝えた。
器用に作戦を再確認する程、脳内に余裕はなかった。
二人の前衛からの猛攻が次第にキレを増していき、俺が防ぎきれなかった攻撃が体を穿ち、着実にLPが削られていく。
緊急用としてLP回復薬も使っているが、根本的な解決にはならない。
港さんへ回復魔法、後衛二人へMP分配をする部長だが、彼女のMP使用量は回復量を上回っており、緊急睡眠が発動する可能性すらある。
部長の視界に映るダリアが杖を振るう手を止め、ケビンがどこか驚いているような様子を見せた。
魔法の応戦が一瞬、途切れる。
その一瞬の隙を見逃さない男がいた――
「赤髪の女の子の方はMP切れが近い! 一気に叩け!」
これを好機と見たドンさんは、港さんと打ち合いながらも後衛へ向け指示を飛ばす。
召喚獣のシステムまで頭に入っている上、ダリアの僅かな動作から推測する頭のキレ。
流石に多芸過ぎるだろう。と、セイウチ顔の知将に心中で拍手を送らざるを得ない。
召喚獣が召喚士の指示なく魔法を止める理由には、主に二つの条件が関係している。
一つは“親密度が低い場合”。
これは互いの信頼関係が薄ければ、召喚獣が言うことを聞かない事が理由としてある。
一つは“MP切れが近い場合”。
自分の命の源たるMPの枯渇は、召喚獣にとっても由々しき事態。自らを犠牲にしてまでMPを消費する者は少ない。
俺個人の事も調べていたドンさんは、常に娘達とぎゅうぎゅうに行動している様も知っているのだろう。
迷わず“親密度が低い”という線を、候補から外したと考えられる。
相手チームの魔法職が狙ったのは――俺たちではなく、ダリア達の方だった。
一進一退の攻防を繰り広げていた相手の後衛陣は、これでトドメと言わんばかりに魔法陣を展開させていく。
「港さん! ダリア達が!」
「わかってる!」
ダリアとケビン。
二人居て、ようやく対応できていた。
片方がMP枯渇状態になってしまえば、一人で踏ん張れる程の余裕はない。
次の瞬間――ダリア達の居る場所に、水柱が、極太の光線が、渦巻く竜巻が、無情にも同時に発生した。
ダリアのケビンの姿は確認できないが――視界右下のパーティLPに視線を移せば結果は分かる。
俺は余裕の表情を崩さない槍使いに、半狂乱気味に盾で突進を繰り出した。
「っそおおお!!」
「はは! 攻撃が単調になったら、終わるのは目前だぜ」
理性を失った者の攻撃は単調になる。秘めたる力が解き放たれるのは、漫画や映画の世界だけだ。
そうなると分かっていても、俺は感情のままに身を委ね、攻撃を繰り出していく。
「隙ありー」
後ろに跳ぶ事で上手く威力を殺した槍使い。体勢が崩れた俺に、巨人の薙刀が振り下ろされた。
俺は感情的に、且つ作戦通りに薙刀の動きに盾を合わせていく。
「――え?」
「エリーゼ! 罠だ!」
気付くドンさんが声を上げるも、彼女は既に攻撃に体が乗り切っている。
――ここからの回避はあり得ない。
槍使い相手に確認しておいたのは、このチームに盾弾きが出来るか否か。
レベル差の大きいプレイヤーをパーティに加えるのは理想的ではない。多く人が集まる大型ギルドだからこそ、考えられない。
つまりは、たとえ薙刀巨人がエース攻撃役だとしても、チームメイトとのレベル差は少ない。同じ物理攻撃役である槍使いに盾弾きが可能であるなら、高い確率で彼女にも有効と言える。
全て、このタイミングのためだけに立てた作戦への布石!
「っわ!」
驚き一色に染まる彼女の声は、かち上げられた薙刀への物か……それとも、身を潜めていたダリアへの物か。
――現れたのは、いつか見た《赤き竜》。
放たれた赤色の衝撃波は、薙刀巨人、槍使い、ドンさん前衛陣をなぎ倒し、まるで三日月型の可視可能な斬撃が地面を滑るように、敵陣地の後衛陣の方まで迫っていく。
空中へと投げ出されたドンさんが、自身の着地より後衛への支援を優先。それにより、後衛陣の前に薄い緑色の盾が形成されるのが見えた。
「立て直せ!!」
肩からぐしゃりと落ちたドンさんは素早く立ち上がり、状況を把握するかのように辺りを見渡した。
ダリアの竜属性魔法を至近距離から受けたのは、薙刀巨人と槍使い。
盾弾きによる確定criticalも相まって、薙刀巨人の頭上に表示されたLPバーが全損しているのが見えた。
槍使いの方は僅かにLPが残っている様子。予めドンさんが張っていた防御技によるものか、仕留め損ねたらしい。
なんにせよ、体勢を立て直させる訳にはいかない。
「全力だ!!」
体に緑と紫のオーラを纏った港さんが、槍使いに向け、凄まじい速度で駆け出した。
咄嗟のことに、阻害技が出せないドンさん。相手チームは完全に混乱していた。
蘇生魔法を展開する回復役の上空に現れた赤色の魔法陣と、黒色の魔法陣。視界隅で杖を振るうダリアと、後方に現れたケビンが、魔力を練る。
「さっき魔法で倒した筈の召喚獣達が……」
「ありゃ闇属性魔法の中の幻影系魔法だぜ」
立ち上がれない槍使いに対し、簡単に答えた港さんが拳を振り下ろす。
僅かなLPで耐えられる筈もなく、薙刀巨人同様に槍使いも地に伏した。
「参ったね、こりゃ」
全てが作戦だと知ったドンさんが、やられたと言わんばかりに頭を叩く。
この博識のリーダーが魔法を見破ってくる可能性も考えてはいたが、技能だけ見ても数万種あるとされるFrontier Worldの、これまた膨大な種類がある魔法の一つを看破するのは人間業の域を超えているだろう。
召喚獣のシステムを理解していたのはさすがに驚いたが、結果として相手を完全に油断させてくれた。
「混乱に不意打ち。これで後衛陣が殲滅されれば、形成逆転ですね」
真っ当な手とは思わないが、格上相手になら許される作戦だろう。
槍使いを撃破した港さんが、ドンさんと対面する俺の所へ駆けてくる。
「幻影魔法はやられたなあ。まさか俺にミスリードさせたのも作戦?」
「いえ、それは“棚ぼた”でした」
「参ったね、こりゃ」
相手後衛陣に業火と、黒槍の雨が襲い掛かる。
回復魔法に気を取られた青魔法士が水属性魔法を使えない、今が絶好の機会と言えた。
立ち込める砂埃から視線を外した港さんが、ドンさんに向き直り、口を開く。
「じゃあ、最後にセイウチおじさんをボコって終わりだな」
腕を回す港さんが一歩踏み出し――――横から伸びた光線によって貫かれた。
「……え?」
咄嗟に――攻撃が来た方向へと視線を向けた俺に、第二波が迫っていた。
俺はドンさんに対し、隼斬りを使う事で緊急回避を行う。
「これも避けてくるのか!」
あくまで余裕の雰囲気を崩さないドンさんは、俺の苦し紛れの不意打ちにも対応してみせ、剣と盾がぶつかり合った。
二度目の光線をも体に受けた港さんはLPを全損させ、糸の切れた人形のようにその場に崩れ落ちる。
視界隅に映るケビンが、溶けるように消えるのが見えた。
相手の後衛陣は、濃い色の光のドームで守られていた。その中に、杖を突き出すプレイヤーの姿も見える。
ダリアとケビンの魔法を防ぎつつ、港さんを討ち取った光線を発動した魔法職。
あの状況下で防御と攻撃を並行して行うなんて……いや、今はそんな事に頭を使っている場合じゃない!
――港さんに蘇生薬が使えるか否か。
対面する盾役の隙をつき、強力な魔法を使う後衛の攻撃を避けつつ、ボックスから薬を取り出せるのだろうか?
『部長! 港さんの蘇生を優先してくれ!』
『了解ー!』
アイテムを取り出す仕草――よりも先、取り出す仕草に“入る段階”で、ドンさんは大盾を突き出し、斧を繰り出し、その隙を与えない。
これが盾役だと言うのか?
即座に蘇生させるのは不可能だと判断し、部長に蘇生を一任する。
「うちのエースは俺じゃないし、巨人のエリーゼでもないんだよ」
唐突に、無邪気な子供のような口調で語り出すドンさん。
後方で、蘇生された薙刀巨人と槍使いが起き上がるのが見える。
「うちのエースは“聖なる星の礫”を使った、現在魔法職最強と名高い《賢者》の彼だ。ここまで温存していたんだけど、そうも言ってられなくなったからね」
後衛陣の一人が杖を振るい、ダリアの周囲と俺の周囲に魔法陣が現れる。
最初の聖なる星の礫の時よりも少ないものの、この状況下では避けられない。
「……」
『まだやれる』そう訴えているような目でこちらを見つめるダリアに目配せし、盾を装備した左手を上げた。
「降参します」