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第六話

 四月も終盤に入ると教室内にもグループが形成されており、生徒達はそのグループを中心に高校生活を送ることとなる。グループの形成のされ方は色々とあるが、遥が所属するグループは偶然入学時の席配置が近かった者同士で形成されたグループである。

 いや、グループと表現して良いものかと遥は疑問に思わないこともなかった。


「そうだ、はるかゴールデンウィークなにか予定入ってんの?」


 昼休み、購買で買ってきたパンを教室で食べながら一つ後ろの席に座る隼人が遥にそう話かけた。

 遥も隼人も部活動には入らず今に至るため新しい交遊関係はさほど広がっておらず、先日の行われた席替えで席が離れた所になった今もこうして遥と共に行動している。つまるところ遥の所属するグループは遥と隼人の二人だけであった。


「残念なことに予定は何もないー、青春してる年頃のはずなのになー」


 同じく購買で買ったパンを食べつつ遥が答える。


「俺もないー。あったとしても中学の時のやつらと遊ぶくらいだろうなー……なんでだ……ソッコーで友達百人作ってさー、もっと青春色した何かが俺を待っててくれているハズだったのに……」


 紙パックのコーヒー牛乳に刺さったストローを口にくわえたまま隼人は机に突っ伏す。


「隼人も似たようなもんなんだなー。なんでだろーなー。わからないなー」


 イチゴ牛乳で口内のパンを胃に流し込み遥は答える。

 わからないとは言ったものの、なんとなく遥には理由は分かっていた。

 遥と隼人の二人組というのが問題であった。眉目秀麗文武両道を地でいく遥と、大柄な身体に低い声を持ち、本人は大人しくしているつもりだろうが言動にヤンチャを隠しきれていない隼人。

 どちらもどことなく近より難い雰囲気を出していて、その二人がいつも一緒にいるのだ、ワザワザお近づきになろうとする者は少ないだろう。


「菊池さんと楠木さん誘ってどっかいくかー?」


 仲良くなってみれば、隼人が未だに二人を苗字にさん付で呼ぶような、今時珍しい純情硬派な人間と分かるのに。


「そうだなー。それもいいかもなー」


 なんとなく言いました、といった風に隼人は装ってはいるが、行きたくて仕方無いという空気が遥には伝わって来る。女の子と遊びに行くという特別なイベントがしたいのだろう。


「でも、あっちにも予定があるだろうし、難しいかもなー」


 わざと意地悪に遥は言ってみる。遥も隼人も予定は無いようなものだ、如何様にも合わせる事はできるのだが。


「ちょっと俺聞いてくる!」


 そう言って隼人は立ち上がり、別の席で昼食を取っている二人に近づいて行く。二人が席替え後も一緒に食事を取っていところまでは遥達と同じだが、遥達とは違って各々友人を増やしたらしく四、五人で固まって昼食をとっていることが多く、あまり四人で話す事はなくなっていた。

 隼人が二人に声をかけ、何かを話している。話し声までハッキリとは聞き取れないが、なにより今重要なのは二人と一緒に食事をしていた他の女子生徒が顔をひきつらせている事だろう。だから友人が増えないのだ、と遥はボンヤリとそれを見ながらイチゴ牛乳を飲み干す。

 隼人が大袈裟に身振りでなにかをアピールする度に他の女子生徒の顔がひきつる。そこまで怯えてあげなくても良いんじゃないか、と遥が隼人を憐れみ始めた頃、菜奈が笑顔で両手で頭上に丸を作り遥に合図を送ってきた。隼人の交渉が成功したのだろう。


「二人ともオッケーだって!」


 とても素晴らしい笑顔をした隼人が遥の下へ帰ってくる。二人の約束と共に他の女子生徒の怯えも手に入れた英雄の帰還である。


「細かい話はまた後でーってなったんだけどさ、水内さんも一緒に遊ぶことになったから!」


 水内さん?と遥は聞き返す。菜奈達のグループの誰かだろうがどの子だか遥にはわからない。


「うん、水内さん。楠木さんの横に座ってるクラス代表の!」


 そう説明されて遥にも顔と名前が一致した。クラス代表決めの際に単独立候補反対票無しで当選したちょっときつめの目をした真面目そうな女の子の筈だ。


「それは意外だね。あんまり遊びとか行かない感じの子かと思ってた」


「もともと楠木さん達三人で遊びに行こうってなってたらしくてさ、まだ内容決めてないし、なら俺達も一緒にどう?って感じ」


 なら納得である。彼女は遥が誘ったとしても断られる気がするのだ、隼人が誘って乗ってくるとは思えない。と、遥が大層失礼なことを考えているとは露知れず、隼人はどこか良いところあるかなーと携帯で何かを検索し始める。隼人に尻尾があれば左右に忙しい事だろう。


「せっかくのゴールデンウィークだしー水族館とか行くか!?それともやっぱ遊園地!あ、でも人数奇数だとあれか!ならせっかくだしもう一人誰か誘うか!?」


 確かに、何にするにせよ、奇数よりは偶数の方が良いだろうと遥も思う。

 彼女達も一人人数が増えたところでそれを不満に思うような人物ではないだろう。


 だがしかし


「でも俺達友達いねーしなー……」


 小さく隼人が呟く。


「別にいいんじゃない?五人で行ってもさ。きっと楽しめるよ」

 

 遥がそう言うが、でもーせっかくならーと隼人が食い下がる。

 隼人の考えていることが遥にもわからないこともない。何かと偶数の方が行動しやすいし、なにより三対三という男女比率を重要視したいのだろう。

 その気持ちはわかる。


 だかしかし、友人がいない。


 遥の頭の中に一名比較的よく話す、というよりはよく話しかけてくる人物が浮かんで来てはいたが、あえてその人物の名をあげることはしない。


「中学の時の奴ら……は違うよなー。だったら五人のがいいよなー。やっぱ五人でかなー」


 誰かいねーかなー、と呟きながら教室を見回す隼人の視線が一点で止まる。


 やはりそこにいったか。確かに彼は俺にもお前にも気軽に声をかけてくれる少数派だし話してみれば面白いし良い奴だった。

 だが、まて、彼は絶対に男女交際が得意な人間ではない。お前は彼が女子生徒と話しているのを見たことがあるのか!俺はない!

 早まるな!まて!


 という遥の思いも届かず隼人はその人物の名を呼ぶ。


「宇部!ちょっといいか?」


 出席番号三番宇部康治。


「拙者を御呼びかな?」


 そう言いながら近づいてくる彼に得体の知れない不安を感じる遥であった。

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