第五話 《ノア》から《ツクヨミ》へ
《アマテラスシステム》を目の当たりにしてから2日が経った。なぜか萩原聖夜が学校を中退することになり、パソコンクラブは解散の危機に陥っていた。その日は崇は法事の為に早退したのでパソコンクラブは俺一人しか居なかった。パソコンクラブは最低でも4月末にはなくなるという。それまでに部員が一人増えればいい話なのだが。後3週間程度で入ってくる人はあまりいないだろう。
「鷹矢。」
「……聖夜。」
振り向くと私服姿の聖夜がいた。《アマテラスシステム》のことや《ノア》のことを話そうとしたが聖夜の言葉に遮られた。
「……崇はいないよな?」
真剣な表情の聖夜の言葉に鷹矢は頷いた。聖夜は向かいの椅子に座り、こう告げた。
「……実はさ《drop of sun》を作ったのは俺なんだ。」
「聖夜が?」
そう、と聖夜は頷いた。
「《アマテラスオオミカミ》は知ってるな?そいつに憧れて入ったんなら知ってて当然か。俺はそいつにパソコンゲームの世界に帰ってきて欲しくて三年かけて《drop of sun》を作った。そして《アマテラスオオミカミ》を傷つけると思わしき者を次々と排除していた。それが《ノア》だ。」
頷き、ん?と思考が停止する。そして聖夜を凝視してしまう。
「……聖夜が……《ノア》?」
「そ。」
「何で《ツクヨミ》を狙ったんだ?」
そう尋ねると聖夜は目を伏せてこう言った。
「三年前、《アマテラスオオミカミ》が消えたのは自分への妬みから暴走したフレンドが日本全体を危機にさらした事件を起こしたからだ。」
三年前の事件は崇から聞いていた。それで《アマテラスオオミカミ》は消えたのだと。聖夜の言おうとしていることは大体理解できる。
「だから……警戒してた。いつか《アマテラスオオミカミ》を傷つけるんじゃないかって。」
「そっか。」
「でも……。犯罪は犯したからな。それでお願いがある。いつか《アマテラスオオミカミ》は帰ってくる。その時は俺の代わりに頼む。」
「……代わりに?」
聖夜は頷いた。
「俺は《アマテラスオオミカミ》の相棒だった。もう二度と《ノア》と名乗ることは無いだろう。」
「分かった。……でも《アマテラスオオミカミ》の相棒になれるかな?」
聖夜はきょとんとし、笑った。
「それは本人に聞かないとな。」
そう言って聖夜は笑いながらパソコンクラブを去った。鷹矢は意味ありげな言葉におろおろする。
聖夜が屋上に上ると松三浦咲枝がいた。
「……話は聞こえていたわよ。」
あぁ、そうか。鷹矢との話を聞かれていたか。
「《ツクヨミ》。私が消えた後に入ってきたプレイヤー……。」
「そう。まさか天地鷹矢とはね。あいつはこれから強くなっていくだろう。」
「……《ノア》。復活するならド派手にやるのが私、《アマテラスオオミカミ》だよね?」
咲枝は微笑みながらそう言った。聖夜はそうだなと頷いた。これから面白くなりそうだな、と咲枝は笑った。
「でも……その前に試さないとね。」
咲枝は妖しい笑みを浮かべた。