第四話 ノア、敗れたり。
―――次の瞬間、パソコンゲームのメールボックスにメールが入った。《ノア》からだった。一瞬驚いたが開いてみる。
『チェスをしませんか? ノア』
それがメールの内容だった。《アナザーワールド》は一対一でやるゲームもある。チェスが一番人気があった。崇に相談すると好意かもしれないしやってみたら?と判断された。
「そうだな………………………。」
しばらくは悩んだが、チェスを受け入れることにし、同意のメールを送った。
それから約10分後。
「あ、返信来たよ。」
「ふーん……。やるだけ頑張れ!」
崇にそう言われチェスを始めてみたが10分でチェックをかけられた。
「こいつ…策士だな。上手い。」
崇がそう言った。崇が言うのだから相当のゲーマーであることが分かる。その言葉に鷹矢は頷いた。気付かれないように仕組まれていて気がついたら近くに敵がいた。そんな感じだ。
「っあー!負けた!」
『あなたの負けですね。代償にアバターを破壊させて貰います。』
ディスプレイ上にそう表示された。そして慌ててウィルス予防バリアを張る。だが手遅れで《ツクヨミ》は痕もなく消えてしまった。
「嘘だろ!?」
一瞬のことで目の前で起こったことが信じられなかった。
(何なんだ……?今のは……。破壊ウィルス……!?)
「おい、なんか変なのでてるぞ。」
崇にそう言われディスプレイを見つめる。そこには新たなメッセージが表示されていた。
『アマテラスシステム発動 復旧システム連動しています。少々お待ちください。』
何のことか分からなく、きょとんとする。そして次の瞬間、《ツクヨミ》が元に戻っていた。
「え!?」
「…今のは一体…?」
俺たちは互いに顔を見合わせた。そして互いにハッとする。
「……《アマテラスオオミカミ》?」
いや、まさかそんな……と鷹矢は内心思いつつももしかしたら……と期待をしてしまった。
「クソッ!」
聖夜は屋上で悪態をついた。そして《ツクヨミ》が復旧したのを思い出し少し冷静さを取り戻す。
(あのシステムは間違いなく……。)
「………君が《ノア》君だったかー…。萩原君?」
聖夜はドアの方を見た。そこには松三浦咲枝がいた。眼鏡を外していたので気づくのに時間がかかった。
「…まさか……。君が……。」
「《drop of sun》。…私のために作ったんでしょう。嬉しかった。私がパソコンゲーマーだった時代の相棒が同じ学校にいて私の帰りを待っていたことがとても嬉しかった。お互い、顔も知らなかったけど帰ってくるのを待っている人もいたんだなって。でもね。あなたは犯罪を犯した。ハッカーなんて行為、許されない。…私を傷つける者を排除したかったなんて言い訳…聞きたくない。」
咲枝の言葉に聖夜はハッとした。そしてやってしまったことに後悔し、下を向く。確かに俺は今まで《アマテラスオオミカミ》を傷つけると思わしき者を次々と破壊したり個人情報を流したりした。
「…ごめん。確かにやっちゃダメなことだったな。お前を傷つけた者と変わらない!…気付かせてくれてありがとう。…でも何で俺が《ノア》なんて気付いたんだ?」
咲枝はうーんとつぶやいた。
「《ノア》はサンドイッチ大好きで人に薦めようとするからね。」
咲枝は笑いながらそう言った。
あぁ、そうか。始業式の日、確かにサンドイッチを松三浦にあげようとしたんだった。
「…私はゲーマー復帰するよ。そして君の作ってくれた《drop of sun》で君が戻ってくるのをずっと待っているよ。……またね。最高の相棒、《ノア》。」
そう言って咲枝はその場を去った。聖夜は微笑みそっとこうつぶやいた。
「…《アマテラスオオミカミ》。君ともう一度戦える日を楽しみにしているよ。」
まずは自分のしなければならないことをしよう。そして《アマテラスオオミカミ》に会いに行こう。