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勇者と魔王とイソギンチャク 上

ちょっと長くなりそうなので、途中で区切っています。

多分上下か上中下くらいで書けると目論んでおります。


一応、リクエストの仲良し勇者と魔王を書こうと思ったんですが…

………どうしてこうなった? なことになっております…。



「何故、こんな事に…」

「言うなよ。意味もない」

 寒風吹きすさぶ、北海の浜辺。

 勇者と呼ばれる青年と、まぁちゃんと呼ばれる魔王は二人浜辺に佇んでいた。

 防寒装備もままならない格好で。

 

 特に、まぁちゃんが寒い。

 まぁちゃんの格好が寒い。

 見ている方が寒くなるくらいに薄い。

 まぁちゃんは完璧に普段着のままの格好で。

 肩が出ているは腕が剥き出しだは服の布地は薄いはで。

 どう見ても、流氷がぷかぷかしている海でするような格好じゃない。

 

 一方勇者様の方は、まぁちゃんに比べればマシでも冬の格好にはほど遠い。

 服も生地が分厚い=防寒とは限らないという典型で。

 おまけに防寒具の一つもない。

 首に巻いているスカーフは、夏物に替えたばかりだった。


 → 勇者はチワワのようにがたがた震えている 



 何故、こんな薄ら寒い場所に二人がいるのだろうか?

 答えは簡単。きっとみんなも分かるはず。


  Q.どうして勇者と魔王が北海にいるの?

  A.リアンカの無茶ぶり。


 答えが正解だったひと、手ぇ挙げてー。

 そう言いたくなるくらいに簡単すぎる展開ですが。

 一昨日のこと、リアンカちゃんが言ったのです。


「薬の材料が、切れた…」

 

 浮かない顔で、薬棚を漁る少女。

 困ったことに、切れた材料は常備薬用の素材の一つ。

 手空きの時に材料採集に行こうと思いつつ、事態は悪化した。


 薬が、常備薬だっただけに切れてしまったのだ。


 最近、勇者様の修業が激しくなり、生傷が絶えなかったせいもある。

 リアンカの予想以上の早さで、例年になく大量の薬が消費されてしまったのだ。

 切れた薬とは、リアンカが勇者様用に調合した傷薬だった。

 困ったことに、勇者様は薬物耐性を付けるときにやりすぎたせいで、人間用の薬が効かない。

 実は魔族用の薬を転用していることは、勇者様には内緒だ。

 だがその魔族でさえ、無茶が多い為に傷薬を多く必要とする。

 特に今は、来年に魔族の武闘大会を控えているわけで。

 修業研鑽に励んでいるのは、勇者様だけではなかった。

 そして一部の大雑把な者達が、リアンカに無断で勝手に傷薬を拝借していたのだ。

 当人達は後で言おうと思ったと言う。

 金はリアンカの集金箱にちゃんと投入していた。

 だが彼等が申告しなかったせいで、消費に対するリアンカの把握が追いつかなかったのだ。

 気付いた時には、傷薬の在庫は零であった。

 しかし傷薬は必要で、常に数を用意しておかなければならない。

 先にも述べたが魔族には無茶をする馬鹿が多く、しかも今は特に馬鹿な挑戦をする者が多い。

 それに誰より、魔族に生命力で劣る(多分)勇者様により必要だった。

 

 薬は零。

 材料も零。

 代用できるような素材も使い尽くした後。

 …となると、やることは一つ。

 薬を作るには材料が必要なのだ。

 リアンカは急遽、予定になかった素材採集に赴かなければならなくなった。

 そして作業効率と時間の短縮を考え、リアンカは勇者様にお願いすることにした。 

 薬の使用頻度が一番多い勇者様が、断るはずがないと分かっていながら。


 修業にもなれば、一石二鳥だよね。


 何のてらいもなくそう言いきったリアンカに、勇者様は戦慄した。

 以前の修業旅行を思い出して。

 今度はどんな無茶が待ちかまえているのかと警戒して。

 その予感は、まず間違いなく大当たりだ。


「磯巾着を獲ってきて下さい」

「イソギンチャク?」

 いつも使っている薬の成分など知りたくないが、やむを得ない。

 勇者様は鸚鵡返しに確認を取りながら、遠出の準備を整える。

「はい。コキュートス地方の浜辺に生息する巨大磯巾着が標的です」

「…大きいのか?」

「鯨を補食するくらいには」

 勇者様が、ガタタッと音を立てて椅子からずり落ちかけた。

「く、くじら…?」

「メイン食材はマッコウクジラらしいですよ」

「マッコウクジラ………シロナガスクジラでなくて良かったとでも思うべきなのか…?」


 マッコウクジラ:雄の体長は16~18m、雌の体長は12~14m。

   成長した雄には体長が20mを越えるものもいる。


 それを捕食する磯巾着を、獲ってこいとリアンカさんは仰る。

「それは本当に磯巾着なんだろうか…」

「勇者様、魔境に生きるアドバイスを一つ教えてあげます」

「ん、なんだ?」


「細かいことを気にしたら、負けです」


「それはもう知ってるよ!!」

「でも勇者様って、実践できてないですよね」

「く…っ」

 何だかんだと煙に巻かれて、勇者様は磯巾着を求めて旅立つことに…

 ただし、彼はコキュートス地方のことをよく知らなかった。

 そして彼の不幸は、下僕の竜に

「コキュートス地方の浜辺まで行ってくれ」

 …と、一言で現地まで行けてしまったこと。

 更に下僕の竜と仲が悪く、助言をしてもらえるほどの関係ではなかったこと

 この二つが、災いを招いた。

 つまり、凍え死に一歩手前だ。

「し、死ぬ…」

 とって返そうにも、薄情者の竜は勇者様を現地に投げ捨てると既に一人だけ帰ってしまった後。

 壺に収める隙さえ見せず、竜は「冬眠してしまう!」と帰ってしまった。

 ちなみに、勇者様に遠方の竜を呼び寄せる手段はない。

「詰んだ……」

 何だかんだ言いつつも悪運が強いメインキャラの一人が、まかり間違ってもこんなところで死ぬとは思えないが…だからといって油断召されるな。何が起こるか分からないのが人生。

 限界の果てを垣間見た勇者様は、膝から浜辺に崩れ落ちた。

 勇者様の脳裏に走馬燈が駆けめぐろうとしたその時、助けてくれたのは…



 朦朧とした意識がはっきりと周囲を認識できるようになった時。

 勇者は洞窟で目覚めた自分に気がついた。

 風が遮られ、寒さがマシに感じられる。

「此処は…?」

「がう」


 目の前に、熊がいた。


「う、うわあああああああああっっっ」

「がうがうがああああああああああっ」

「って、何を張り合って叫んでるんだ!」

「がおう!?」

 こんな状況だというのに、威嚇の威の字もない雄叫びを上げた熊。

 その威厳の欠片もない雄叫びに、ついうっかり勇者様はツッコミを入れていた。

 勇者の拳固で殴られ、沈む熊。叫んだだけでこの仕打ち。

 勇者様、珍しく超理不尽。

 凍死しかけた鬱憤故だろうか? それは咄嗟に殴ってしまった勇者様にも分からない。

 しかし目覚めれば目の前に熊という、人間の生存本能に危機を訴える事態だ。

 勇者様は肩で息を吐き、警戒心を高めている。

「ぐまー。ぐまぐまー」

「…ん?」

 ふと、足下から可愛らしい声がした。

 まるでぬいぐるみが喋ったような声…

 

 足元を見ると、ぬいぐるみがいた。

 いや違った。動いた。


 ぬいぐるみ改め、小さな熊がいた。


 子熊というわけでも無さそうだが、その背丈は勇者様の膝までしかない。

「こぐま…?」

「ぐまー!」

「って、待て待ていや待て! 熊が『ぐまー』なんて鳴くか!?」

「細かけぇこと気にすんなよ」

「喋った!!?」

「ぐまー。ぐーぐまー」

「喋っただろ!? 今さっき喋ったよな!?」

「ぐーまー」

「今さら何も知らない無害なマスコットぶるなよ! 白々しいから!」

 小さな熊は、問い詰める勇者様にも素知らぬ顔だ。

 ちょこちょこと勇者様に殴り倒された大きな熊の元まで行き…


  ざしゅっ


「がおん!!?」

 爪を思いっきり出した小熊のビンタ一発で、大熊は現実に戻ってきた。

 小さくない犠牲を、その身で払って…

 しかし割と平気そうだった。

 よく見ると至る所に小さな熊サイズの爪痕が刻まれているので、慣れているのかも知れない。

 とんだバイオレンス小熊だ。

「がおぅ……」

 申し訳なさそうに縮こまる大熊。

 その背に小熊はよじ登り、勇者様へと振り向いた。

「ぐまっ ぐまぁ」

「な、なんなんだ…この熊」

 ついてこいと示すように、少し行っては振り返るという行動を何度も繰り返す。

 やがて勇者様は諦めたように体の力を抜き…

 ……そもそも、洞窟の出入り口も同じ方向だ。

 仕方なしと割り切り、勇者様は奇妙な熊たちについて行った。

 その先に、何があるとも知れなかったけれど。


「ぐま!」

 到着というように、足を止めた大熊の上で小熊が声を上げる。

 そこはひやりと冷たい氷柱の群れが乱立している青白い場所。

 その一際大きな氷柱の中に、勇者様は見知った姿を見付けて目を見張った。

 驚愕、恐怖、動揺――ありとあらゆる感情が駆けめぐり、信じられないと感情を叫ぶ。

 目は、何度も目にしたものと同じ顔に縫い止められ、瞬きすらできない。

 動揺を抑えられず、勇者様の体が傾いだ。

 狼狽え、覚束無い足が勝手に崩れ落ちそうになる。

 咄嗟に壁に手をつきながら、勇者様は顔を手で覆わずにはいられなかった。





「ま、まぁ殿―――っなんて、なんて変わり果てた姿に……!」










「いや、俺じゃねぇし」

 存外冷静な声は、勇者様の背後からもたらされた。

 目を見開き、背後を振り返った勇者様が見たものは、

「ま、まぁ…殿……?」

「おう」

 それこそ紛れもなく、魔王その人だった。




さて、氷の中のまぁちゃんそっくりさん…

まぁちゃんとの関係は…!?


A.先代魔王

B.親戚

C.ドッペルゲンガー

D.マネ○ネ

E.クローン


 さあ、どれだ!

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