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勇者様の粘液まみれな一日

リクエスト番外編その2、です!

勇者様の一日を、とのことだったんですが…こんな感じでいかがでしょうか?


2/6 誤字訂正

勇者様の一日


 朝:目撃者リアンカ


 勇者様は、いつも夜明けの一時間後くらいに起きてきます。

 寝起きはそんなに悪くないようで、今日もお目々ぱっちりです。

「リアンカ、おはよう」

「おはようございます、勇者様。朝ご飯の卵、どうされたい?」

「ああ、適当に焼いてくれ」

「あいさー」

 我が家の朝ご飯は、卵が定番です。

 お隣のお婆ちゃんが飼ってる鶏が良い仕事しますよ!

 毎朝卵集めを手伝うと、お隣さんが必要分の卵を分けてくれます。

 それを新鮮な内にいただくのが、我が家の楽しみ。

 勇者様が身支度を調えている内に、オムレツを焼いて。

 母特性のソースでオムレツに「馴鹿」と書き上げたタイミングで、勇者様がやって来ました。

 今日もキラキラ、光が周囲に散って舞い踊ってますよ。

 陽光の神の加護ですね。

 副次効果らしいですけど、見事に神々しい…。

 朝の光の中で見ると、勇者様は一層格好良く見えました。


 食前の祈りを済ませてフォークを手に取った勇者様が、朝食用のプレートを見て首を傾げました。

「今日は、トナカイか…」

 オムレツの文字を確認してから、端っこをフォークで崩し始めます。

「捕まえてくるのは良いけど、魔境のどの辺に生息して…?」

「そうですね。村から北北西に歩いていったら今日の内に見つかるかも…ってところでしょうか」

「分かった。じゃあ今日はそっちの方へ行くことにする」

 あっさりと頷いて、一日の予定を決める勇者様。

 前は冗談半分、勇者様の卵に色々と書いて出していただけでした。

 でも滞在一週間目くらいから、勇者様が卵に書かれた物を獲って帰ってくるようになって…

 いつしか夕飯の材料リクエストと受け取られるように…。

 だって勇者様、何書いてもお土産に持って帰って来るんだもん。

 有難いことですが、なんか負けた気がする。


 夕飯に馴鹿(トナカイ)を仕留めてくると決めた勇者様。

 そんな彼に毎日の注意事項を伝えるのは父です。

「昨日、グールの群れが確認されたそうだ。解毒薬を多めに持って、気をつけて行きなさい」

「ありがとうございます。気をつけます」

「あ、勇者さん。良かったらマフィンどうかしら? 昨日楽しくなって焼き過ぎちゃったのよ~」

 口では伺いを立てながら、母。

 勇者様が返事をするよりも早く、お弁当バスケットにざらざらざらざらとマフィンを流し込む母。

 ちょ、母さん、溢れる! 溢れてるって!

 ぎょっとして勇者様も立ち上がり、慌ててバスケットから落下しそうなマフィンを受け止めます。

 それでもマフィンの投入を止めない、母。

「母さぁん!?」

「うふふ…本当に焼き過ぎちゃって」

「一体いくつ焼いたんだ!?」

 父さんがやんわりと母さんからマフィンの入った容器を取り上げ、私達はほっと一息。

 何とか溢れたマフィンもテーブルから落ちる前に回収できました。

「もう、母さんったら本当にお茶目☆なんだから」

「ごめんなさいね。でもマフィン、上手に焼けたのよ?」

「分かった。食べるから押しつけるのは止めなさい」

「この大量のマフィンをお茶目で済ますのか、この家は…」

 聞けば、母さんが昨日焼いたマフィンは総数409個。

 どう考えても焼きすぎだと思う。

 急遽、数を消費する為に朝ご飯の主食がマフィンになりました。


 朝ご飯を食べ終えた後、勇者様はお使いメモを持って家を出ました。

 もう日課となった、修業に励むそうです。

 お帰りは、夕日の沈む頃。

 きっと今日も、沢山のお土産を持って帰ってきてくれる。

 それは明日の夕飯に回すことになるのですが…

 律儀に頼んだ物を用意してくれる勇者様を、私達は笑顔で見送りました。




 昼:目撃者セトゥーラ


「るんるりんりらーん♪」

 今日もお日様ぽかぽかですのー。

 ペットのみゅぅちゃんも大喜び! 絶好のお散歩日和ですの。

「みゅぅちゃん、ご機嫌ですの」

「winnwinnwinn\\\」

「きゃあっ こんなところでじゃれついちゃめっなの!」

 そんなに舐めちゃ駄目なの。

 みゅぅちゃんのお口おっきぃから、頭が丸呑みされそうですのー。

 半ばあぐあぐと頭ごと甘噛みされてますのー…

 痛くはありませんの。

 でも暗くてぬめぬめしてて、舌がべろべろ~って舐め回してくるの。

 そのせいで、ちょっと視界と聴覚が封じられてしまってますの。

 お陰で歩けませんのー。


「…っ!!?」


 あれ? 誰かの息を呑む音が…

 うー? よくわからない…

 みゅぅちゃんの口の中、周囲の音があまりよく聞こえませんの。

 でも、誰かが勢いよく近づいてくるのは分かりましたのー。


「大丈夫か…!? いま、助ける!」


 誰かの真摯で誠実なお声が聞こえましたの。

 どこかで聞いたことがあるような…

 でも、良いお声ですの!

 聞き入っていましたら、頭全体を襲う衝撃(インパクト)! 驚きますの!

 ああ、ああ、みゅぅちゃんも驚いたんですのね。

 私を口に(くわ)えたまま、うごうご~ってしてますの!

 うごうごしながら私の体を押さえて、自分の体内に納めようとしているみたいですの。

 私のことを守ろうとしているんですのね!

 太い四つの腕で私を胸へと押さえ込み、体の節々から染み出してきた粘着質な…スライムっぽい粘液で私をくるくるーっって包んできましたのー…暖かくて、ぬーめぬめ~!

 確かこれ、みゅぅちゃんの保護膜ですの。

 防御姿勢全開ですの~。

 自分だけじゃなく、私まで守ろうとするなんて…感激ですの!

 腹部から触手も一杯出して、まとわりついてきてますの。

 少ぉしだけ、苦しいですの~?


「くっ 体内に取り込む気か!? 早くしないと、助からない…!」


 焦りいっぱいな何方かは、随分と慌ててますのねー?

 大変そうですのー。

 みゅぅちゃんの保護膜に包まれて、音がより一層遠いの。

 声の人は、何を焦ってますの?


 ぎぃん、ぎぃんと鈍い音、間断なく聞こえてきますの。

 何だか震動ごと体に響きま~す~の~?


「くそ…っ 何だこの鱗! 剣が通らないなんて嘘だろう!?」


 ぐわわんぐわわんひーびーきーますの~。

 みゅぅちゃんの体がゆっさゆっさ揺れて、興奮したように舌が私の頭に絡んできますの。

 きっと涎で頭べとべとになってますの。

 城に帰ったら女官さん達が泣いちゃうかもですのー。

 でもみゅぅちゃんがこんなに興奮していたら、仕方ないの。

 ゆさゆさ揺られながら、私は退屈な気持ちで一杯ですの。

 何もしないでいたら、眠くなって来ましたの~…


「………貴方達、何やってんの?」

 一連の遣り取りは、通りすがりの薬師が止めるまで続いた。



「………………………………………………ペット?」


 長い長い間の後で、勇者さんはとっても不可解そうに一言いいましたの。

「はい。みゅぅちゃんはペットですの」

「………いや、ちょっと待ってくれ。今、ペットの言葉の意味を思い出すから…!」

「思い出したって何も変わらないって。ペットはペットだよ」

「ペットって…どう見ても、彼女を消化しかけていたぞ!?」

「過激な愛情表現ですの~。せっちゃん愛されてますの」

「それで済ますのは絶対に間違っている!」

 勇者様は頭を抱えて、疑い深くみゅぅちゃんを見ていますの。

 みゅぅちゃんは恥ずかしがりやさんですの。

 にゅるにゅる~って体を揺らして、縮こまってしまいましたの。

「どう見ても、威嚇されているような気がする…」

「みゅぅちゃん、照れてますの」

「最近のペットは照れて触手を生やすのか!?」

 わあ、勇者さんすっごくびっくり~ってしてますのー。

「そもそもアレは、どういうイキモノなんだ…魔物、なのか?」

「僕としてはcreature(クリーチャー)って単語が頭に浮かぶよ。勿論、「化け物」って意味の方ね」

 勇者さんが呆然と呟いて、むぅちゃんが溜息を吐いて。

 お二人とも、何がそんなに不思議なんですの?

 距離を取られて、みゅぅちゃんが寂しがってますのよ?

「セトゥーラ姫…そのイキモノ? は一体…」

 距離を置いたまま、勇者さんが問いかけてきましたの。

 ??? みゅぅちゃんのこと、ですの?


「みゅぅちゃんはラッキーマウスですの」


 …………………。

 お二人が、しげしげとみゅぅちゃんを眺めていますの。

 恥ずかしがって、みゅぅちゃんがうにょうにょ~って。

 確認するようにうんと頷き、お二人の声がそろいましたの。


「「絶対に嘘だ!!!」」

 

 うそじゃないですの~。


「ラッキーマウスって、あれだろ!? 2.5等身の!」

「大体体長は成体で8㎝~14㎝、体重は蜜柑三個分くらいだったよね」

「全身は黒い毛に覆われ、顔の一部と腹部のみ白!

ドングリみたいな眼で、俊敏に動く齧歯類だ! 性質は基本大人しい!」

「黒くて細い尻尾に、大きい耳が特徴的だよ。主食は主に飛蝗などの昆虫を補食する雑食性。

胴から生えているのは首と四つ足と尻尾だけだったと思うけど!」

 思いつく限りと、お二人がラッキーマウスの特徴を上げてくれましたの。

 みゅぅちゃんも嬉しそうに体をふよんふよんと揺らしていますのー。

 良かったですのね、みゅぅちゃん。

 だけどお二人は「だが」と言い置いてみゅぅちゃんをビシッと指差してしまいましたの。

「「アレは絶対に違う!!」」

 良く通る声で断言されて、みゅぅちゃんが固まってしまいましたのー…。

 勇者さんもむぅちゃんも酷いですの…。

 みゅぅちゃんも悲しいんですのね…。

 私達は寄り添いあい、慰め合うようにくっつきましたの。

「く…っ ペットだと聞いた後でも襲われているようにしか見えない!」

「よくあんな凶悪なイキモノ、ペットにしたよね…」

「みゅぅちゃん、とても良い子ですのよ…?」

「良い子…ねえ?」

「その、姫は一体どういう経緯であのクリーチャーをペットに?」

「経緯ですの?」

 んー…と………。

 ………。

 ……………。

 ………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………あ、思い出しましたの!

「みゅぅちゃんは、錬金術師の方に人造ラッキーマウスとして生み出されたんですの」

「………やっぱりクリーチャーか…」

「しっ 話の腰を折るな」

「ところがみゅぅちゃんはミュータントだったそうですの」


   ミュータント【mutant】

  意味:突然変異の生じた個体や細胞。突然変異体。

  ※けして芸術家の名前を持つ忍者な亀に非ず。


「「……………………」」

「みゅぅちゃんは、ミュータントに生まれたせいで通常よりも弱い個体に…」

「待て。その錬金術師はどんな化け物を作るつもりだったんだ」

「それより気になるんだけど。みゅぅちゃんってもしかしてミュータントからきてる?」

「よくわかりませんのー…」

 もう忘れちゃいましたの。

「錬金術師の方が、みゅぅちゃんは弱い個体で二年も生きられないから廃棄する、と仰っていましたの。可哀想だと思いましたの」

「それで引き取った、と…」

「…あんな怪物のことで、なんだろう、このしんみりした空気」

「でも、あの巨体で二年…」

 勇者さんが、なんだか考え深げな顔をしていますの。

 リャン姉様が勇者さんは思い詰める性質だって言っていましたの…大丈夫ですの?

 忌避していたみゅぅちゃんにも手を伸ばし、よしよし~って撫でてますのね。末期ですの?

「そんなに儚いようには見えないのに…命とは、思うままにならないものなんだな………」

 憂慮するお顔で、優しく優し~くみゅぅちゃんを撫で撫でしてますの。

 みゅぅちゃんも気持ちよさそうに目を細めて、喉をぼみょぼみょ~って鳴らしてますの。

 でも。


「でも何だかんだもう六年くらい生きてますの」


「余命二年って話はどうした!?」

 わあ、勇者さんびっくり!

「錬金術師の方も定期検診に連れて行ったら首を捻ってましたの。

もうとっくに死んでる筈なんだけどなあって」

「その錬金術師も錬金術師で全く悪びれないな!」

「今は同じ個体を造れないか検討中だそうですの」

「こんな生物兵器を量産してどうする気だ!?」

「? 兵器って、なんのことですの?」

「……………わからないなら、いい」

 勇者さんは、どうしてか凄くお疲れのようですの。

 ファイト! ですの。


「わあ、みゅぅちゃん勇者さんが気に入ったみたいですの~」


「な、……姫!? そんな悠長に構えてないで、なんとか…!」

「みゅぅちゃん、勇者さんが大好きなんですのね♪」

「ひ…っ」


「……………うわ、勇者さん大変そうだ。何あの触手、気持ち悪い」


「みゅぅちゃんの愛情表現ですの~」

「あ、愛情表現で済ますのか!?」

 

 うねうね~

 ぐねぐね~

 みにょんにょんにょ~ん


 たくさんの触手にまとわりつかれて、勇者さんべとべと!

 みゅぅちゃんが初めてあった人にあんなに懐くのも珍しいですの。

 仲良くしましょ~ お友達になりましょ~って。

 勇者さん、本当に気に入られてますのー。


「きっ………き、きゃぁああああああああああああああっっっ!!!」


 魔境の森に、勇者の悲鳴がこだました。

 なんだか女の子みたいな悲鳴だった。




 夕:目撃者バトゥーリ


「それでお前、全身謎の粘液でべっとべとの上、来るなり『風呂を貸してくれ!』だったのか?」

 うわあ、呆れちゃうね。

 俺の前の前、情けねぇ顔で消沈しているのはアレだ。

 勇者様なんだってよ。

 確かそのはずの人間だ。

 だってのに今の姿はまるで深夜に保護された家出人みてぇだ。

「仕方ないだろう…間借りしている身で、あんな全身汚れたままリアンカの家には帰れない」

「…まあ、気持ちは分からんでもない。が、なんでそこで俺の(うち)に来るかねぇ。

リアンカの家なら汚しちゃ駄目で、俺ん()なら良いってか?」

「そう言う訳じゃない。けど、労力の問題もあるだろう? リアンカの家に掃除を代行してくれる使用人はいないんだ。まぁ殿も、自分で掃除する訳じゃないんだから少しは融通してくれ」

「まあ、あそこん()は伯母さんが家事大好きだしな。他人に家事任せんのは嫌だって言ってたよーな気がするわ」

「大体、まぁ殿の所のペットの仕業なんだから魔王城で責任もって貰うのは当然だろう」

「あー…魔王城(うち)のミュータントの仕業っつってたっけ」

「ああ。姫君はみゅぅちゃんと呼んでいた」

「あー、はいはい。ミュータント18号な」

「待て…! 突然変異体の癖に、一体どれだけいるんだ…!?」

「せっちゃんが纏めて拾ってきちまってなあ…30体だ」

「それはもう、最早突然変異でも何でもないだろう!」

「偶然意図せず誕生した謎の生物は間違いなく突然変異だろ」

「造った錬金術師連れてこい! 文句言ってやる!!」

「奴なら旅に出たぜ…ニライカナイを探すって言ってな……」

「くそっ 追っていけない彼方まで逃げたか…!」

「別に逃げたとは限らねーだろ。お前とは会ったことねーんだから」

「だけど胸の内から湧き上がる悔しさが!」

「落ち着け、落ち着け」

「……………熱くなって、済まない」

「ん、よし。もう後は気にせず風呂にでもゆっくり浸かってこい」

「ああ、その言葉に甘えるとするよ。風呂を汚すことになると思うが…」

「あんま気に病むなよ。確かに勇者の言う通り、うちのがやったことだからな。

後始末をするのは当然、俺の義務だろ」

「まぁ殿…」

「ただし、使うなら端ーっこの個人風呂使えよ。汚れるから」

「………わかった」

 勇者は追いやられた野良犬みたいにしょんぼりして、とぼとぼと風呂に向かう。

 あ、そうそう。

 忘れねーうちに渡しとかねーと。

「勇者、これ貸してやる」

 どうせ着替えもないんだろ?

 俺は全身ぐちゃぐちゃになった勇者に、適当に服を放り投げた。

「有難い…が、このデザインは……」

「借りる立場で文句言うなや」

「文句はない…ん、だが、その、露出激しくないか?」

「あ? 肩と脇腹と背中が開いてる程度だろ?」

 普段使いにするには、好みじゃない。

 けど着替えとして使うのに問題はねーと思うんだが…

「いい…やはり、貸して貰う立場で言うことじゃないから」

「そっか?」

 何が問題なのやら。

 青い顔しちまってよ。

「風呂入って、服洗濯して乾いたらさっさと帰れよ。

リアンカ達、絶対のお前の夕飯準備して帰って来るの待ってんだからな」

「ああ、言われずともわかっている」

 俺は首を捻って勇者を見送った。

 あーあ…足跡に転々とスライム状の何かが付着してらー……。

 見送る目が微妙な半眼になるのは仕方ねーよな、うん。


 その後、服が乾くまでの間に勇者とカードゲームに興じた。

 この前の借りを返してやる…!

 得意なゲームを選択して、勇者に突きつける。

 勇者と暇潰しにゲーム勝負をする様になって、何日になるかね。

 何となく前回負けた方が次のゲームを決めるのが定番になってきた。

 だから今日の勝負は俺が決めるぜ?


 スピード勝負で俺大勝利!

 良い気分で勇者にお持たせの酒瓶を授け、夕暮れの道を見送った。




 夜:目撃者リアンカ


「あ、勇者様おかえりなさい!」

「ああ、ただいま」

 少し疲れ気味の勇者様が、それでもにこやかに挨拶を返してくれる。

 今日も一日、きっと魔境の何処かで頑張ってきたんですね。

 何をしてきたのかは知りませんが、今日も草臥れて………ませんね。

 何故でしょう。

 なんだか、お風呂にでも入ってきたかの様にさっぱりしてるんですけど。

「今日の土産だ」

「あ、トナカイ」

 今日もリクエスト通り、大物を仕留めてきてくれたみたいです。

 でも………何この粘液。

 なんだか変な、深緋色でスライム状の何かがトナカイに付着しています。

 ほんの少しだけだけど…何これ。

「勇者様…」

「物問いたげに見られても、俺は答えないから。ちょっとソレについては思い出したくないんだ」

「……………一体どこでどんな目に遭ってきたって言うんですか」

 勇者様は、残念ながら答えてくれませんでした。

 困った様に苦笑して、私の頭をくしゃくしゃと撫でてきます。

 ちょっとぎこちなくて、撫でるのに慣れていない手。

 でもその手は温かくて、優しい手つきでした。

「今日のことは話せないが…まぁ殿の所に寄って、お土産を貰ってきたよ」

「またですか? 最近まぁちゃんと仲良しですね、勇者様」

「本当は、ちょっと葛藤もするけどな…少しは割り切らないと、人類最前線(ここ)じゃ生きていけない」

「それはそうですね」

「肯定するのか」

「しますよ、勿論」

 当然でしょと見上げてみたら、勇者様は困った様に笑って。

 もうすっかり慣れた私の家に、沢山のお土産も運んできたのでした。


 勇者様、今日も一日おつかれさま。

 また明日も、がんばってくださいね。

 



せっちゃん

 分け隔て無く慈悲深く。

 捨てられてる動物を見るとつい拾っちゃうタイプ。

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