Happy Halloween!
「3」に置いていたのと同じ物です。
内容に変更はありません。
「Happy Halloween!」
聖なる夜、という表現が似合いの静かな季節。
秋の最中の不思議な行事。
魔境という不思議な存在が元々有り触れる地が、更に賑やかになる日。年に一度の狂乱を呼ぶ、魔性の夜。
ハテノ村では、先祖の霊を迎える時期になっていた。
各地から子供が拾われて伝統文化がごっちゃに混ざり合う村では、各地の似たような風習が混じり合い、独特の祭りが行われようとしていた。
当然ながらそんな祭り、勇者は初めてである。
来たる日にうきうきと準備を進めるリアンカから、説明を受けた。
「先祖の霊?」
「はい。先祖の霊とか、魔女や精霊とか、異郷のイキモノが活性化する時期なんですよ。その辺蠢く感じで」
「一気に嫌な感じになったな。その表現はどうかと思う」
「私に見える訳じゃないから、実際にどうかわかりにくいんですよねー。まぁちゃんやせっちゃんなんかは、なんか猫みたいに中空に視線を彷徨わせてたりしてリアルに怖いし」
「ああ、彼らはな…」
「まあ、それはさておき」
「置いておくのか。それで良いのか」
「はい。それでなんですけど、異郷の者共が這い出してくるだけじゃなく、下手すると生者に余計なちょっかいをかけてくるんですよ」
「リアンカ、本当に先祖を敬っているのか?」
「異郷の者って一纏めにしたら先祖以外も入っているので問題なしです」
問題がある気がしたが、勇者は話が進まないので口を噤んだ。
それに気をよくしたリアンカが、先を続ける。
「まあ異郷の人達は悪戯好きですからね。それで、異郷の人達の余計なちょっかいを封じつつ、混ざって遊ぶ為に生者は意表を突いた仮装をするのが伝統です」
「………意表を突く必要はあるのか?」
「あります、あります。予想外の格好ってのは個人の雰囲気を非日常に紛れさせ、気配を掴めなくする役割があるんですよ。ほんのちょっとの仮装をするだけで雰囲気って変わるでしょ? その『雰囲気が変わった』って効果が、異郷の住人には良く効くんです。結果的に生者の気配が掴めなくなるんですよ」
「それでも、意表を突く必要性がわからない」
「そのうちわかりますって」
「…わかりたく、ないな」
納得のいかない顔をする勇者をやりこめ、リアンカはにこにこ笑っている。
相当機嫌が良いなと思いながら、勇者は思った。
余計なちょっかいをかけられないとしても、余計な騒動には巻き込まれる予感がすると。
勇者の勘は、鋭かった。
そして、あっという間に当日。
勇者は仮装をすると承諾した覚えはなかったのに、何故か仮装させられつつあった。
「な、なんだこの服! これはもう服じゃなくてキレじゃないかっ? 露出度高すぎて服だと思いたくない!!」
そう言いながらも、勇者にはそれ以外に着る服がない。
何故なら今朝早く、勇者の寝間着以外の着替えは全て村長夫人(確信犯)によって洗濯されてしまっていたのだから…。
「――で、なんだこの格好は?」
不機嫌を隠す気もなく、勇者が己の衣装を用意した犯人であろうリアンカに問いかける。
皆が思い思いに仮装して、集まった宴会会場。
腕を組んだ勇者様の姿は様になるが、実のところ腕を組むのは少しでも自分の体を隠す為である。
そんな勇者の涙ぐましい努力を、魔王と村娘が盛大に笑った。
もう容赦もなく、本気で笑った。
「さすが超絶美形ーっ!! 良くお似合いですよ、勇者様!!」
「全然全くもって嬉しくない!!」
「絶対に着せてみせるってリアンカが言ってたけど、本当に着させられたのかよっ!」
「まぁ殿も知ってたなら止めてくれ!」
「嫌だよ、面倒。それにその方がおもしれーだろ」
「酷い!!」
「魔王ってのは非道なもんなんだよ」
「くっ…普段畑を耕して植物を褒め称えたり、村の子供と遊んでやったりしている癖に!」
「それはそれ、コレはコレ」
「こんな時に魔王らしさなんて発揮しなくてもいいだろう!?」
「俺は自分のしたいようにするが、そこに他人の意見は殆ど介在しねーの」
「………少しは介在するんだな」
「まーな…」
賑やかに、己のさせられた仮装を否定したくて堪らない勇者。
そんな彼の仮装は…
………彼が仮装させられたものは、 淫 魔 だった。
清廉な美貌に、チラリズムを超えた大胆衣装が、妙な雰囲気を作り出していた。
今、この勇者様に流し目で見られなんかしたら、免疫のない娘さんだったら鼻血を吹き出して気絶するだろう。
そう思わせるだけの、妖しさがある。
現に、免疫どころか耐性すらあるはずのリアンカや他のみんなだって、何故かこの勇者を前にドギマギしていた。
意図せず、頬に血が上る。
そんな自分を自覚しながらも、不安定さなんて一気に立て直し、深呼吸でリアンカは平静さを取り戻す。
そして何事もなかったような顔ですらっと言った。
「これが一番、勇者様にぴったりかなって思って」
「どこが!?」
ハッキリ言って、性格や私生活まで清廉な彼にとって、淫魔など対極にあるようなものだ。
だがそう言って否定する勇者に、無情にもリアンカは言った。
「性格じゃないの。その女の人を引きつけ引き寄せどうしたって魅了しちゃう生き様を考慮した結果です」
「…………………」
言い切られて、勇者様がしょんぼりと項垂れた。
否定したくとも言葉が見つからないようで、とても寂しそうな顔をしていた。
「まあ、何はともあれ勇者様。今宵の祭りの賑やかさを存分に楽しみましょう? 年に一度の折角の夜です。雰囲気に酔わないと勿体ないですよ」
そう言ってにっこりと笑うリアンカの笑顔。
その仮装は毒々しさなど欠片もない、平和で牧歌的、素朴な衣装だったけれど。
それでもその平和さにそぐわない、何やら心騒ぐような怪しさが漂う。
祭りの夜の、非日常。
初めて体験する騒々しさの中、勇者は…
どことなく、空気に浮かされていくのを感じる。
いつしか自分も楽しみながら、不思議な夜に混ざり込んでいた。
「Trick or treat?」
リアンカのその言葉に、盛大に困らされるまでは。
それぞれの仮装
リアンカは小人さん。植物で飾った緑の三角帽子と草を編んで作ったベスト。大きなドングリで全身を飾る。
まぁちゃんは吟遊詩人の格好。折角なので英雄叙事詩を詠って喝采を受けた。
せっちゃんは竜。あに様手製のかぶり物。リリフがモデル。
りっちゃんは髑髏を頭に被り、毛皮の服を着た異教のシャーマン。
画伯はマーメイド。貝殻のブラと自前の尾っぽで超ノリノリ。
→普段は人の足だが、セイレーンの血により水に濡れると足が魚に。
副団長さんは巨人。毛皮と棍棒装備。
むぅちゃんは黒い猫耳と尻尾を付けた獣人の姿。
めぇちゃんはお花の妖精。花片を重ねたような形のドレスに生花をこれでもかと飾り、頭にも生花の花飾り。背中に蝶の羽。