きょうもおそらがあおいから
リクエストがありました!
リアンカやまぁちゃんの幼少期、どう遊んでいたかとのことですが…
期待通りに書けたか分かりませんが、その一風景を投下します♪
幼子バージョンなので、不穏な遊びよりも平穏な遊びでお送りします。
2/3 後書き付け足し
6/8 場所の移動
きょうもおそらがあおいから
みんなでおててつないで、あそびにいこう?
今日もお空が蒼いから
魔境の奥地、魔王城。
そして隣接する人間の村、ハテノ村。
誰もが「近っ!?」とツッコミを入れずにいられない、この立地。
だけど無邪気な子供達にとっては、他人の思惑なんて無関係。
近いことは良いことだよね、と。
仲の良い子供達は、傍目にどんな異常の居住環境も気にしない。
ただただ笑って、今日も罪のない顔で遊ぶだけ。
お手々繋いで、仲良く駆けて。
そしてお世話係を混迷に突き落とす。
これは、そんな無邪気な子供達の遠い日一日。
罪など何も知らぬげに。
ただ遊んで笑って、駆けて過ごした小さな頃。
リアンカは六歳。
せっちゃんは四歳。
そしてまぁちゃんは十歳だった。
ついでに若いのに胃痛に悩まされていたりっちゃんは十六歳だった。
「殿下! でぇんーかぁあああああ!?」
「いねぇ!! また勉強サボってばっくれやがった!」
「くそっ この機にこの前枕に蛙詰められた報復しようと思ったのに!!」
「うわーお☆ 超ご愁傷様! 俺の枕じゃなくて良かったぜ!」
「てめぇもあの糞餓鬼にやられりゃいーんだ!!」
混じり気無く黒い城の中、猛者と呼ばれる男達の声が木霊する。
その失礼な、全然敬っていない台詞と共に。
「報告します! 殿下のお姿は城内の何処にも…っ」
「聞こえていましたよ! それと君達、主君のご子息に何て無礼な発言ですか!」
城内をくまなく回り、子供の姿を探していた兵士達。
捜索を依頼した少年に報告に上がったら、手加減無しに杖で殴られた。
捜査状況を知らせあうにしても、あの口ぶりはないだろう。
うっかりにも程がある。
リーヴィルは頭を抱え、出かける支度をした。
もう、彼の主は城内にはいないだろう。
既に外を探すべき段階だが…探して見つかるとは限らないのが、彼の主である。
ひとまずは、隣のハテノ村まで行くべきだろう。
村長の家に行けば、何かしらの手掛かりは見つかるはずだ。
リーヴィルの主とする、魔王子バトゥーリ。
彼の一番仲良しである、村長の子リアンカ。
そして二人についていっただろう、魔王女セトゥーラ。
三人の子供達の行方は知れない。
だがリアンカを連れ出す際、魔王子はリアンカの両親に何かしらの断りを入れて連れて行く。
もう二年以上振り回されているリーヴィルは、最近ようやくそれに気付いたばかりだった。
「みーむぅみーめもぉー」
「るーみゅみゅみぃ~」
「………なあ、それなんの歌だ?」
ご機嫌でお手々繋いで、二人の幼女が草原を歩く。
その後ろを歩きながら、まぁちゃんはしきりに首を傾げていた。
疑問を向けられた幼女達は、上機嫌に「ららん♪」とくるりん回ってターンを決めた。
実に息が合っている。
同時に回りながら、間の手は繋いだままだ。
空いた方の手に握っていた花の穂をびしぃっとまぁちゃんに向けて、二人は言った。
「るんるるん♪」
「らんららん♪」
「おーい、答えになってないからー」
呆れ眼でまぁちゃんが目線を合わせようとしゃがむと、まず従妹がその膝によじ登り始めた。
それに続く形で、次は妹が少年の背によじ登り始める。
「おーもーいーかーらー」
「あにぃ、うそいっちゃめっにゃの!」
「そうそう! まぁちゃんこないだ、牛かかえてた!」
さすがに幼女が二人程度では、牛程も重くないだろう。
えへんと少年の膝の上、胸を張る幼女。
背によじ登った幼女は兄の首に手をかけてぶら下がる。
「こーら、首絞まるだろ?」
そう言いながらも、少年は少しも苦しさを感じていなさそうだ。
「お前ら、いつも楽しそーで良いな」
「まぁちゃんだってたのしそ、よ!」
「あにぃ、たのしぃくにゃいの?」
「はいはい、兄はいつだって笑顔ですよー。お前等には」
「にこにこなら、たのしいの!」
「えがおだったら、たのしぃよね!」
お子様達は超単純。
まぁちゃんが子供達の顔を掴んでにこーっと笑ってやると、それだけで納得できる生き物だ。
「まったく! お前らな? 歩くの疲れたんならそう言いなさい!」
「つかれてにゃいのー! ぜんぜんつかれてにゃいの!」
「ま、まだまだ歩けるもん!」
「はいはい、意地張ることばっか覚えやがって」
ケラケラと笑いながら、少年は自分にのし掛かる幼女達を抱え直した。
年齢差に加え、基礎的な能力差もある。
体力の違いは、最初から少年にとって織り込み済みの事情だ。
だからこそ、ちびっ子共が疲れたら抱えることなど、少年には当たり前。
「ほら、しっかり掴まってろ。落ちるなよ?」
そう言って、自分でも落とさない様にしっかりとちびっ子達を捕まえた。
せっちゃんはまぁちゃんに肩車して貰い、ご機嫌で兄の白い髪を掴んでいる。
鷲掴みにされても痛い顔をしないのは、慣れているだけか気遣いか。
リアンカはまぁちゃんの左腕に子供抱きされ、肩の上に座るせっちゃんと再び手を繋いだ。
「まぁちゃんも、手!」
「むーりー」
「ええ!?」
「いや、驚くなよ。俺の両手は塞がってんの! 左手はお前、右手はお弁当!」
「おべんとう!」
「おひるごはんにゃの!」
「だったらしかたない、ね」
「しかたにゃーなの」
リアンカの母親が持たせてくれた籐のバスケット。
その中身に思いを馳せて、ちびっ子達はキラキラと目を輝かせていた。
「まぁちゃん、今日のお昼はどこでたべるの?」
「ああ、碧玉水晶の泉まで行くぞー。今は丁度、花の頃だからキレイだ」
「お花? お花のかんむり、つくれる?」
「冠ぃ? ああ、作れる作れる。ただし、白い花しか咲いてねーけどな」
「かんむり! うわぁたのしみ!」
「きらきら? ふわふわ? ひんにゃりん!」
「ひんにゃりんって、なんだ…。ああ、もう、楽しみなのは分かったから暴れるなよなー」
大はしゃぎで笑い転げる子供達を抱えて、まぁちゃんは歩くペースを上げた。
幼子達に合わせていた歩調はぐんぐん速度を増し、面白いくらいに景色が移り変わる。
駆ける犬程のスピードで歩くまぁちゃんの首にしがみつき、ちび達は大いに歓声を上げた。
「到ー着ー!」
泉の淵に辿り着き、ぽんと一度跳ねてまぁちゃんは着地した。
両足を揃え、ちびっ子達の重みも感じさせない確かな足取り。
「とおちゃあく!」
「とぉりゃっくー!」
一度跳ねた震動で、ちびっ子達は大笑いしていた。
きゃははははっと笑い転げ、大喜びだ。
降りたがる幼女達を、まぁちゃんは求められるまま地面の上にそっと降ろした。
優しげな手つきに、従妹や妹へのいたわりが見える。
しかし、元気なちびっ子怪獣達はそんなお兄ちゃんの気遣いなんのその。
正に怪獣! と言わんばかりの奔放さで飛び跳ねる。
「いっずみいずみ!」
「おっはにゃ! おっはにゃ! まっちろおはにゃー♪」
「おいこらー、水辺で跳ねるなー。落ちてずぶ濡れになっちまうだろ!」
年長者の声も聞く耳持たず、子猫の様に奔放で気まぐれだ。
本当に子猫の様に「にゃんにゃんにゃん♪」と歌っている。
だけど子供は気が変わるのも早い。
そうそうに厭きたのか、他に気を取られたのか。
跳ねるのを止めた子供達は、てててーとまぁちゃんの元へ駆け寄り、足下にまとわりついた。
「まぁちゃんまぁちゃん、お水がきれい! みどりいろであおいろで、ゆらゆらしてる!」
「緑色は碧玉水晶だな。天然の魔石だから考え無しに取るなよ。蒼光は水底から光が出てるからだ。
間違っても、面白そうだからって泉を覗き込むんじゃないぞ? 俺が側にいない時は特に!」
「あにぃ! ぎゅってするのー!」
「はいはーい。後で大車輪してやるから、足にしがみつくのは止めよーな。歩きにくい」
「にゃー!」
「にゃー!!」
「お前等、本当に楽しそうだよなー」
無邪気にしがみつき、懐いてくるちびっ子達。
普段振り回されようと、能力に開きがあって色々我慢しなければならなかろうと。
何だかんだ自重して、一緒にいる為に能力を加減して。
四六時中一緒にいてしまうのは、やっぱり二人が可愛いから。
無心に慕ってくれる幼子達が、まぁちゃんは何よりも可愛い。
どんな時だって一番に頼りにされていることが、誰に誉められるよりも誇らしかった。
「さーて、弁当だ!」
「おべんとー!!」
「おひるなのー!」
子供達は直接青草の上に座り込み、バスケットの蓋を開ける。
まぁちゃんのお膝にはせっちゃんが座り、リアンカはおすまし顔でお皿を配る。
「なんと! 今日の弁当はサンドイッチと野菜スープ、デザートに苺ジャムクッキーです!」
「「きゃあー!!」」
「しっかり伯母さんに感謝して食え。いただきます!」
「「いただきます!」」
子供達は、のんびりとピクニックを楽しんでいた。
彼等を捜して駈けずり回る、リーヴィル少年の苦労も知らず。
「殿下ー! 殿下!?」
「あら、りっちゃん。いらっしゃい」
「村長夫人! 殿下方は…!」
「まぁちゃん達なら、ピクニックに出かけたわよ? 明日には帰るって」
「あしたぁ!?」
りっちゃんの声が、ひっくり返った。
「ええ、明日」
「………いつも思うんですが、村長夫人」
「はい、なんでしょう?」
「なんで幼いご息女が数日ぶっ続けで村の外を出歩いて、あなた方は平然としているんですか!!」
人間とは思えないその肝の太さと大らかさに、りっちゃんは本気で戦慄していた。
人間とは、弱いものである。
それが幼子となれば、殊更に。
だというのにこの婦人の、この放置っぷりはなんだ。
子供が可愛くないのか?
否、可愛がっている姿をこの目で何度も目にしている。
子供が心配じゃないのか?
いつもいつも笑顔で「いってらっしゃい」と見送る彼女の姿に、疑惑は募る。
ネグレクトかと一時疑いもしたが…家にいる時は、確かに甲斐甲斐しく世話を焼いている。
だというのに、何故にバトゥーリが絡んだ時はこうまで放任になってしまうのか。
「あら、だって」
しかし村長夫人はりっちゃんのそんな気苦労も知らぬげに、おっとり笑う。
それはそれはもう、外の麗らかな春の陽射しと同じくらいに、おっとりと笑う。
「まぁちゃんが一緒だもの。心配なんてないわ」
「甥っ子さんを過剰に信頼しすぎじゃありませんか!?」
本気で驚愕する魔族の少年に、村長夫人はとどめを刺した。
「大丈夫よ」
その笑顔は慈愛に満ちて、聖女の如き風格がある。
後光の差す様な、後ろ暗さの一点もない笑顔で村長夫人は言った。
「万一にもリアンカちゃんが傷物になったら、その時はまぁちゃんに責任取ってもらうから」
「罠!? 罠ですか、これぇ!!」
「あらあら…結果として傷物になった場合であって、そうならなかったら強要したりしないわよ?」
「その物言い、お嬢さんが大怪我したら本気で嫁に取らせる気ですね!?」
「あら、可愛い娘に怪我を負わせるんだもの…当然でしょう?」
「殿下ぁぁああああっ!!」
リーヴィルは、今までの人生で一番、主が幼い従妹を守り通すことを祈り願った。
知らないところで主の嫁取りが決定するなど、冗談でもない。
本人達が、村長夫妻の思惑を知っているか否かは分からないが…
どうやら幾ばくかの自由と少年の背には、想像以上に重い責任が乗っかっていた様である。
そんなことも、知らぬげに。
一点の曇りもない、抜ける様な青空。
その下で、子供達は笑い、遊び、跳ね回る。
未だ幼い女の子と従兄妹達は、輝く様な笑顔ではしゃぎ喜び、じゃれ合っていた。
「にゃー!」
「にゃー!!」
「はいはい、にゃーにゃー」
「やっぱり子供達は自由に育ててあげたいわよねー。まぁちゃんが見ててくれるなら安心だし、好きにさせてあげましょう」
「殿下、殿下!? リアンカ嬢は無事ですか!?」
「なんだ、帰るなり藪から棒に…今までリアンカの心配なんて特にしてなかったろ」
「事情が変わったんですよ! それで、無事なんですか!?」
「…お前、俺のこと舐めてんの? 俺がついてるのにつまらない怪我負わすわけねーだろ」
結局まぁちゃんの鉄壁の守りにより、リアンカちゃんは骨折一つせず。
すくすく元気に育って今に至ります。




