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愛の神の夢枕

最近、愛の神へのツッコミが多いので。

ちょいと書いてみました。

ライオット・ベルツ/2歳


 靄に包まれた様な不思議な空間。

 夢の空間。

 金髪碧眼の愛らしい幼児は、ぽつんとそこに独りぼっち。

 気付いてみれば誰もいないし、何もない。

 きょろきょろと幼児は、首を伸ばして空間の中を見回した。


「やあ、坊や。元気だったかな?」

「え…?」


 背後に、人の気配。

 振り返った幼児の前には、金髪の美しい美少年。

 顔を見て確認しても男女どちらか分からなくて、幼児は首を傾げた。

 でもよく見れば体つきが男なので、少年なのだと納得して頷く。

「坊や、歳はいくつになったかな?」

「にさい…。おにいさん、だれですか…?」

「僕は君を見守る神様さ。愛の神だよ」

「あいのかみ………って? あに?」

「ふふ…人間を恋愛地獄に突き落として右往左往させる神様だよ」

「……じごく、って? なんですか?」

「人間が生きてるって、何より生を実感できる環境のことかな」

「……………………むずかしい…」

「ライオット坊やにはまだ十年ちょっと早かったかな」

 ふふふと意味ありげに含み笑いを浮かべ、愛の神は坊やの頭を撫でる。

「でも、暫くは静かなものかと思ったけど…うぅん、予想より活性化は早そうだね」

「かっせい?」

「ちょっと気になったから、見に来たんだけど。

魂の輝きが増したし、思ったよりも早く僕の加護が猛威を振るいそうかも」

「やっぱり、むずかしい…なに?」

「言っても分からないと思うよ。これから大変だと思うけど、頑張るんだよ」

「た、たいへんって、なにが…」

 いきなり訳の分からないことを沢山言われて、二歳児の頭は混乱まみれだ。

 おろおろと挙動不審の子供を残し、少年の姿が急速に遠ざかる。


「頑張って、上玉の彼女をゲットするんだよー」




「な、なんのことなのー!? ……………はっ」

 目を覚ましたライオット坊やは、思わずきょろきょろと辺りを見回した。

 だけど、どこにも誰もいない。

「………? あれ、ぼく……なにを?」

 首を傾げても、何も分からなかった。



 朝。

 目を覚ましたライオットは、夢の内容を全部忘れていた。





ライオット・ベルツ/10歳


 靄がかった夢の中の世界。

 そこに金髪の美しい子供が一人。

 碧眼をぱちくり瞬かせて、きょろきょろと周囲を見渡す。

「ここ、どこ…?」

「夢の中さ」

「う、うわぁっ」

 頭上からの声に見上げると、背後から覗き込む様に見下ろす美少年。

「あ、あなたは誰…?」

「ふふふ。久しぶりだね、ライオット。また大きくなったみたいじゃないか」

「いや、だから誰ですか」

「…薄情だねぇ。僕のことが分からない?」

「分かってたら聞いてません」

「それもそうか。僕は愛の神だよ」

「神………?」

「うん。疑惑の目で見ても現実は変わらないからね」

「愛の神は、男神じゃ…」

「僕、おとこ」

「ふえっ!?」

 愛の神の言葉に、ライオット少年は慌てふためいて愛の神の全身を上から下まで矯めつ眇めつ。

 体の線が露骨に出ている、扇情的な姿をしていた。

 だけど肌が透けて見えるからこそ、その輪郭は確かに少年のソレで。

「男の、ひと…」

「そう。男の人」

「愛の神、なんですか…?」

「信じてくれる?」

「……………言われてみると、神様にしか見えません。やけに神々しいし」

「うん、勘の良い子は嫌いじゃないかな」

 上機嫌でライオット少年の頭を撫で回し、愛の神はにまにまと笑う。

「それで、その愛の神様が僕に何か用なの…?」

「ああ、そのこと?」

 愛の神は更に愉快そうに笑うと、自分に身長で追いついてきたライオットの頭を撫でる。


「最近、君に与えた加護が調子良いみたいだしさ。その分、なんか変なのも引っかかってるけど」

「加護? 何の話ですか…?」

「こっちの話」

「いや、気になるんですけど」

「だけどこの分なら、外的要因による刺激で坊やが恋愛に目覚めるのも遠くないかなって」

「れん…っ 恋愛!?」

 何故か、一気にライオットの顔が青ざめた。

 何か嫌なことでも思いだしたのか、胃が痛そうな顔だ。

「…なに、その反応。僕、今日は君の目覚めが近そうなのを喜んで激励に来たんだけど」

「あ、愛の神の、激励…っ? い、り…いりません! いりませんから!」

「……その反応は、ちょっと気にくわないな」

「だったら、こっちにも失礼がある様だし今日は帰ってください!!」

「えー…君に素敵な彼女ができるよう、激励かねておまじないにきたのに」

「おまっ…呪いなんかお断りです!」


 ライオットの切実な様子、その涙目。

 勢い込んでまくし立てる様子に、愛の神も怪訝な顔だ。

 だが聞く耳を持たないライオットの拒絶が凄まじく、仕方がないので今日は帰ることにした。


 

 朝。

 目覚めたライオットは、夢の内容を全く覚えていなかった。



 


ライオット・ベルツ/15歳


「君さ、どういうつもりなの一体」

「は…? 藪から棒に、誰なんだ君」

 勇者の目の前には、靄に包まれた様な不思議な空間。

 偉そうに仁王立ちして見上げてくる少年が、其処にいる。

 一見して男か女か分からない、神秘的な美少年。

 ふわふわとした金の髪と、長い睫毛が蠱惑的だ。

 変わった姿をしていて、身に纏っているのは紫と黒の薄衣を重ねた物だけ。

 露出度も高いが、それ以上にうっすらと透けた肌が目に毒だった。


 正し、ライオットにそっちの趣味はないので、何とも思わなかったが。


「君は、誰だ?」

「そんなのどうでも良いよ。毎回毎回、同じこと聞いて疲れない?」

「毎回…?」

「ああ、こっちの話。それよりも、僕の話の方が重要だよ」

 ムッとした様な顔で、少年がライオットに詰め寄る。

 異様な迫力があった。

「君、どういうつもりなの?」

「ごめん、主語を言ってくれないかな」

「女だよ、女ぁ!」

 ライオットが、ビシリと固まった。

「その気になれば100も200も愛を手に入れられるっていうのに、あの態度は何さ?

なんで一人も女の子を寄せ付けようとしないの! 選り取りし放題なのに!」

 憤然とまくし立てる少年を、宥める様に。

 しかし動転したライオットは「どう、どう」と馬に対する仕草で宥めにかかった。

 それでも一応は黙った少年に、ライオットは真剣な顔で言った。

「ひとまず、言いたいことは色々あるが…それでも、これだけは言わせてくれ。


  うちの国は 一夫一婦制 だ  」


「それがどうしたの」

「どうしたのってことは、ないと…」

「国王は愛妾側室娶り放題の実質一夫多妻制じゃないの」

「僕はまだ王子だ。あと僕、そんなに女の人いらない。僕は奥さん一人でいい。一人がいい」 


「あ、ちょっと安心した」

 

 女の人は一人で良いと言い切ったライオットに、少年がふわりと微笑(わら)った。

 慈愛に満ちた、嬉しそうな笑顔だった。

 きつく吊り上げていた眦が、柔和に緩む。

 いきなり予想外の反応に出られて、ライオットが戸惑いを浮かべる。

「………え?」

「一応、恋愛や結婚の願望はあったんだ」

「あ、………それは、まあ」

 普段、悲惨な目にしか遭っていない。

 そんな願望は死滅していてもおかしくない自分にも気付いている。

 ライオットは気まずそうに目を伏せてしまう。

 だけど、普段から酷い目にしか遭っていないから。

 だからこそ、思うことはあるのだ。

 自分の周りで首を出すのは、癖の強い恐ろしい女ばっかりで。

 誰よりも、平穏が遠いからこそ。

 

 ライオットは健全で、穏やかで、普通の恋愛や結婚に憧れていた。

 そんな自分を少し気恥ずかしく思っていて、誰にも言うことはなかったけれど。


 そしてこうも思う。

 恋愛や結婚よりも先ず、友達だよな、と。

 ライオットは男女間の友情にも憧れていた。


 一人うんうんと頷いて友情という言葉に思いを馳せるライオット。

 それを前に、少年は相好を崩したまま。

 本気で安心したという顔で、独り言ちている。

「まだ十代も半ばだっていうのに、女は寄せ付けないどころか修行僧みたいな生活送ってるし。

このまま修道院にでも入って、折角の才能と期待輝く未来を潰すんじゃないかって。

もう、本当にハラハラさせられてたから、ほっとした」

「才能って、なんのことだ?」

「ん? ハーレムを作る才能」

「そんなもの作ってたまるか!!」

 ライオット全力の、魂の叫びが空間に響きわたった。


 夢という不安定な空間の中、少年は…愛の神は、そんなライオットを笑って姿を消した。



「………なんか、変な夢見た気がする」


 朝。

 目を覚ましたライオットは、夢の内容を全部忘れた。



愛の神

 外見はふわっとした金髪の小悪魔系美少年。

 人心を振り回し、愛があれば全てを許されるという信念を持つ。

 扇情的かつ蠱惑的な格好をしている。

 体の線がもろに見えるので、辛うじて女に間違われることがない。

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