聖メリー学園高等部1年2組 学級裁判
スピンオフしすぎですが。
勇者様こにゃんこ物語の設定で、ラーラお姉ちゃんとそのまわりについて。
報告一点
先日、みけ犬さまが「みてみん」にて素敵なイラストを描いてくれました。
リアンカちゃんとまぁちゃんと、せっちゃんの絵です。
とても素敵で、可愛らしい絵ですよv
詳しいことは活動報告に描いているので、興味のある方はどうぞ♪
あ、あと「みてみん」にさり気なくこにゃんこ物語のイラスト投稿してみたので、気が向いた方は見てくれると嬉しいです。
ちょこなんとお座りして、こてんと首を傾げて。
見上げてくる、三対のつぶらな瞳。
いつもの朝、いつも通りの道。
毎朝挨拶してくれる、馴染みの赤い子猫。
だけど今日は友達を連れてきたのか、傍に更に二匹。
まだちいちゃなちいちゃな黒い子猫と、赤い子猫よりちょっと大きな美々しい子猫。
声をそろえて、ごあいさつ。
「にゃー」
「みゃあん」
「にぃにぃ」
――ごはん、ちょうだい♪
「き、きゃあああああっ! こ、子猫ちゃんが三匹に増えてるー!」
嬉しい悲鳴を上げて、女子高生ラーラちゃんが思う様に子猫と戯れた朝。
存分になでなでして、肉球ふにふに。
満足するには短い時間で、存分に遊び倒す。
今日のおやつはアンパン三個。
足りるか不安になって、自分の分まで子猫に投資。
自分のおやつが無くなったことも気にならないくらい、ラーラちゃんはご満悦。
しかしそんな彼女の上昇気流なご機嫌を見る間に下降させる事態が、この後に起ころうとは。
仏様もお釈迦様もご存じないに違いなかったが、異界の俗物な神ならば知っていたかもしれない。
そんな、一日。
その日、彼は転入初日を迎えようとしていた。
路上で。
より詳しく言うならば、現在の彼は爆走中だ。
手には食パンを一斤抱えている。
なんとベタなことだろう!
彼は転入初日に寝坊をやらかし、初日早々遅刻の瀬戸際。
それを回避するため、食パン抱えて疾走していた。
口にまぐまぐと食パンを押し込んでいく。
何の味付けもされていない食パンは、まるで消しゴムのように味気なかった。
それでも食パンは離さない。何故なら成長期だから。
成長期の一言で片付けられる食欲は、朝食抜きを回避するのに必死だ。
「く…っ このままでは、遅刻してしまう。初日なのに!」
何とか最後の一口を口に収め、まぐまぐ。ごくん。
飲み込んだその時、気もそぞろとなったその時に。
彼は、更なるベタ展開に突入しつつあった。
ちょうど曲がり角だ。
彼は喉に詰まりそうな食パンに気を取られ、注意を払えなかった。
「きゃあっ」
愛らしく、女性らしい丸みを帯びた声。
それが悲鳴を上げて、衝撃に跳ね飛ばされる。
「!?」
やらかした、と。
彼が思う間もなかった。
ぶつかった、二人の身体。
しかし彼は己の走っていた勢いを殺しきれず……
慣性の法則に負けた。
二人は路上に倒れ込む。
馬鹿みたいな速度で走っていた彼が、少女を押し倒す形で…
気付いた時には、彼はか弱い婦女子を体の下に敷いていた。
彼の先程まで食パンを掴んでいた右手は、少女のあらぬところに。
鞄を掴んでいたはずの左手は、少女の際どいどころかギリギリアウトなところに。
彼の膝は少女の足を割り、そして顔は………
Oh…なんということでしょう。
彼の顔は、少女の口に出すのも哀れで憚られる場所にありました。
誰が哀れかって?
勿論、少女が、に決まっています。
少女は何の破廉恥刑かというような目に遭っているのですから。
それも見ず知らずの、行きずりの男から。
これで平然と何も感じずにいられるような、そんな少女ではありませんでした。
むしろ繊細で、ちょっとしたことに怯えてしまうような少女です。
目を恐怖と衝撃で見開き、未だ自分がどんな状況にあるのかも理解しきれない顔の少女。
恐怖にか緊張にか、それとも衝撃でか、少女は身動きも出来ずにいました。
唇が震え、目に涙が溜まります。
彼は少女のそんな状況を察していたわけではありません。
ですが、こちらも驚きと衝撃で、凄まじく動揺していました。
自分の状況もよくわからないまま、とにかく立とうと。
慌てて立ち上がろうとして、体重を支えるため両手に力を込めて…
もにゅっ
両手に伝わる柔らかな感触に、硬直しました。
まさかそんなはずはないと、再度確かめるために力を込めると。
むにむにっ
衝撃的な感触は、先程よりも柔らかく感じました。
冷や汗と脂汗が、ナイアガラのように噴出します。
そして、少女も。
いつまで経っても離れないどころか、少女の身体を好きなように揉み倒す手。←青少年の無意識。
少女のぎりぎりまで酷使されて擦り減っていた精神が限界を迎えました。
簡潔に言うと、堪忍袋の緒が破裂。
「い、いつまで…! いつまで、触ってるんですか!」
滅多にないことで本当に珍しいのだが、少女の怒りが発露した。
父親(元ヤン)直伝の掌打を溜めなしで彼の顎に叩きつける。
「ぐっ……!?」
クリティカルヒット!
衝撃で、頭に凄いダメージが。
頭をくらくらさせながら、襲い来る衝撃に逆らいきれずに上体が浮く。
体と体の間に隙間ができたところで少女は膝を素早く動かし、彼の急所に一撃。
硬直してラーラちゃんの隣に倒れ込んだ青少年。
彼の下を素早く抜け出すと、ラーラちゃんは涙目で怒鳴り付けた。
「ばかー!!」
そう叫び置いてから、彼を一瞥することもなく逃げるように走り去っていく。
振り返りすらしない、揺れる黒髪。
その背中を、痛みに身悶えながら彼は必死に目で追っていた。
何も言えなかった。
謝罪すら。
そのことが、胸の奥深くで蟠る。
それと、同じくらい。
涙を浮かべて睨みつけてくる少女の顔が、記憶に焼き付いていて。
眼裏から消えない面影に、胸の奥で何かが揺れる、音がした。
そして学校に遅刻した。
「えー…転校生の、備中鈴我くんだ。みんなよろしくしてやれ」
「備中、鈴我です。よろしくお願いします」
そう口にして頭を下げる傍らで、備中鈴我は凄まじく気まずい思いを味わっていた。
きっちり三十分遅刻して辿り着いた学校。
授業にきっちり食い込んでしまったが、恐る恐る教室に向かうと何と言うことはない。
幸いにして一限目は転入するクラスの担任による授業だったらしい。
授業を一時中断して、担任は備中の紹介をしてくれた。
…が、それはいい。
いや、悪いのだが、今はいいことにしよう。
問題は他にある。
備中の心の冷汗は、既に20ℓだ。
これが実際の汗だったら、当の昔に脱水症状を起こしているレベルである。
原因は、明白。
今朝、セクハラ以上猥褻強要以下の振る舞いをしてしまった相手。
あの少女が、教室内にいるのである。
備中は必死に目を逸らし、間違ってもそちらの方を見ないように努めている。
相手の顔を見るのが怖かったが、しかしひしひしと突き刺さる視線を感じる。
そちらを見てしまえば御終いだと、備中は顔を引き攣らせている。
幸いにして担任は備中の顔面を緊張によるものと判断。
特に気にせず、教室内を見回して…
昨日の内に用意しておいた、空席の位置を確認する。
窓際から二列目、一番後ろの席。
そしてそこは、問題の少女の隣でもあった。
「よし、それじゃ備中の席は黒野羊の隣で…おい、どうした黒野羊!? なんで涙ぐんでるんだ!」
これじゃあ先生が虐めたみたいだろと、三十代手前の青年教師が狼狽する。
間違ってもいきなり泣くような少女じゃないと思っていた。
繊細で小心で内気だが、弱い少女じゃないと。
それなのに何故、泣きそうな目で睨んでくるのか。
異常な事態と誰もが捉えた。
一番後ろの席だったので誰も今まで気付いていなかった。
少女のただならぬ様子に、心配そうに声をかける者達。
毛先の赤い、派手な金髪の少年が少女の横に来て屈み、泣き出しそうな少女を見上げる。
「ラーラどうした? なんで泣いてるんだ。担任が何かしたか? シメようか?」
「おい、白鳥! なに物騒な提案してる!? 職員室に呼ぶぞ!」
担任の悲鳴は黙殺された。
今はそれより、泣きそうなラーラのことがクラスの一大事だ。
小鹿の様な柔らかな色合いの髪をした少女がラーラの背後から寄り添い、そっと肩を叩く。
「ラーラ、どうしたの? 何か悲しいことでもあった? 転校生がどうかしたのかしら…」
学級委員長を務める少女の鋭い言葉に、放っておかれている転校生の肩がびくっと震えた。
皆の注目は、現在泣きそうなラーラに注がれている。
転校生なのに、転校生だから蚊帳の外。
それに一命を救われた備中は、現実でも冷や汗を流し始めていた。
「レオくん、千夏ちゃん…」
潤んだ声は、本当に泣きそうで。
特に親しい二人を見上げ、ラーラは唇を震わせる。
焦りと、どう言っていいのかわからない不安と。
零れそうな涙をレオが拭い、引き攣りそうな頬を宥める様に千夏が撫でて。
「ゆっくりでいいから、どうしたのか言ってみろ、な?」
「大丈夫よ。気にしないで吐き出しちゃいなさい」
優しい二人の言葉に、感極まったか。
ラーラはゆっくりと、意識して呼吸を深める。
絶対に泣かない。
そんな決意が透けて見えるような。
最後の死刑宣告が、目の前に迫っている。
緊張から息を呑み、備中は体を強張らせてラーラに視線を注ぎ…
しかして、突然の闖入者が次の瞬間、全員の意識を掻っ攫った。
「せんせーい! ラーラの奴がそこの転入生に嫁に行けない一歩手前の痴漢行為を受けたってー!」
全員が、声の発生源…教室の後方出入り口に顔を向けた。
そこには派手な姿に制服を着崩した、空気の緩い男子生徒(複数)。
「見た奴がいまーす」
遅刻したことにも悪びれず発言するのは、犬耳フードを常に被りっぱなしの穂村君。
「俺見ましたー。見てましたー」
ひらひらと手を振るのは、頭を四色に染め抜いた一際ド派手な音木君。
「お前ら…遅刻だぞ」
あまりのインパクトある登場に、戸惑いを隠せない担任。
お陰で咎める声も弱い。
「「すいませーん」」
遅刻二名は、本気で悪びれない。
気にしないとばかり、音木君は更に追及せんと言葉を添える。
「詳しく言うとラーラの名誉に関わるけど、そこな転入生が朝から出会い頭にラーラのこと押し倒して、その全身で余すところなくラーラの悩ましげな部位をもにゅもにゅと……」
「言ってる、言ってるって」
「あ、ついでに証拠写真あるけど見る?」
そう言ってすたすた教卓に歩み寄り、担任に携帯の写メを提示する。
「そんじゃこれ、証拠に提出すっぜー」
「「「……………」」」
教室中を、重い沈黙が支配する。
転校生への視線は、歓迎するものから完全に犯罪者を咎める目つきになっていた。
困惑を隠さないまま、それでも厳しく睨みつけるのは学級委員長の狩野千夏。
逆に目の笑っていない薄笑いで構えるのは、ラーラの幼馴染で鉄板の隣人さん、白鳥レオ。
そんな異様な教室の中。
写真を確認した教師が片腕を天に突き上げた。
「――アウト!」
転校生への罪状が確定した瞬間だった。
授業はそのまま開始されることなく。
クラスは流れるように学級裁判へと移行する。
詳しい事情の丁寧な、時に執拗な聞き取りが当事者二人と目撃者に行われた。
陪審員達が厳しい顔で意味ありげに頷きを交わす。
「これもう、有罪でいいだろ」
「有罪で良いんじゃね?」
「でもなぁ、転んだのはわざとじゃねーんだろ?」
「そこが、なー…」
しかしながら一応は不可抗力。一応は。
最終的にわざとではないと、それが認められて無罪放免。
だけど何もお咎めなしというのも認められないというのが最終的な判決だ。
「取り敢えず、謝罪と詫びだろ」
こうして備中の刑は確定した。
気の優しいラーラが謝罪を受け入れるのは、目に見えている。
良い思いをして被害者面ができる上、許されることは確実。
備中に向けられる学級内の野郎共の目が、厳しさを増した。
それとは、また別に。
成り行きと事の起こりを吟味した担任が言う。
「こりゃ、黒野羊の心情を慮ると、このまま隣の席ってのは可哀想だな。女の子だし」
「「「当然ですー!!」」」
クラス中の女子が、担任の意見に賛同を見せる。
学級内における備中の地位は、転校初日にも関わらず底辺まで失墜していた。
その様子に、担任としては溜息をつきたくなる。
――こりゃ、暫く二人の位置を引き離して冷却期間を置いた方がいいな。
渦中のラーラちゃんと備中が落ち着けば、自然とクラスも落ち着くだろう。
次の席替えまでの一か月、あの状態の二人を隣同士に置くのはどう考えても得策じゃない。
「狩野…」
「なんでしょうか、先生」
「お前さ、隣の席で面倒見てやってくれない?」
「それは………」
「頼む、学級委員長。このままじゃ転校生が虐め…はないだろうが孤立する」
「………仕方ないわね」
言葉通り仕方なさそうに溜息を、学級委員長が。
それを確認して、担任はパンパンと手を打ち鳴らして決定を告げた。
「よし、それじゃあ安濃、備中と席を替わってやれ。
ちょっと監督した方が良さそうだから、備中の席は安濃と変わって真ん中の列最前席な」
「つまり、教卓のど真ん前ですか」
「不服か?」
「いや…不服を口にできる状況じゃ、ない、のはわかる」
「おし。賢い奴は生きのびるぞ」
青い顔でこくりと頷く備中の顔は、転校初日にして既に死相を浮かべているかに見えた。
ラーラお姉ちゃん→黒野羊 羅愛良
元ヤン警備員と剣道道場の跡取り娘の間に生まれた内気少女。
周囲を幼馴染みに固められている為、長い付き合いの友達が多い。
その代わりご新規さんの友達はあまりいない。
B→備中鈴我
人の好い両親が俺俺詐欺のカモに認定されてしまい、隣県に引っ越してきた。
お陰で中途半端な時機の転入、一週間後に実力テストという地獄が待っている。
勉強は前の学校よりずっと進んでいたので文字通り地獄である。
アルビレオ→白鳥レオ
ラーラお姉ちゃんのお隣に住む鉄板幼馴染み。名前は獅子丸と迷った。
父親は日本に帰化した貿易商で、元はギリシャ系アメリカ人らしい。
度々両親が地中海へ行ってしまうので、よく黒野羊家に預けられる。
エルティナ→狩野千夏
しっかり者の学級委員長で弓道部のエース。
面倒見が良いのでラーラお姉ちゃんも放っておけない。
備中の面倒も責任感から全うしようとして、気が付いたら気になる様に。
音木くん&穂村くん
→プロキオン&シリウス
ラーラお姉ちゃんとは幼稚園から一緒の幼馴染み。
喧嘩狂いの所謂不良だが呑気な性格故にクラスとも馴染んでいる。
部活強制の学校で、「現代戦術研究会」に所属している。
別に核戦争やらの論文を作る部などではない。
喧嘩好きヤンキーの巣窟=隠れ蓑で、通称ゲーセン。




