闇討ち仮面
「3」においていた番外編です。
内容は全く変わっていません。
緑の風吹く、初夏。
ハテノ村に不穏な噂が1つ舞い込んだ。
闇討ち仮面
そう呼ばれる怪人が、夜な夜な現れるという。
村の中、実際に闇討ちされたという一部の男共は戦慄していた。
彼等は大体次の犠牲者の予想がつくという。
しかし顔を青くさせたまま忠告に走ることもなく。
見棄てることを責めるなとばかり、後ろめたそうに顔を背ける。
それぞれがきっちり全治3週間の怪我を負い。
闇討ち食らった若い男達は、特に念入りに顔面攻撃を食らって。
一時的に人相の変わった顔を情けなく歪めて。
「俺達は怪人の怒りを買っちまったんだ…!」
皆一様に、ぶるぶると震えて縮こまっていた。
「闇討ち仮面? なにそれ」
自分の知らない間に広まっていた噂。
そのことに不覚と呟きながらも、リアンカの手元は止まらない。
ただひたすら、ひたすらにがりごりごりごりがりごりごりと角を砕き続ける。
薬効のある、とある動物の角をサラサラの粉末にすること。
それが今の彼女の使命だ。擂り粉木を握る手にも熱が籠もる。
「知らないの、リアンカ」
「うん、知らない」
「僕が知ってることを君が知らないなんて珍しいね」
「そうだよね。噂に疎いむぅちゃんに、新しい噂を聞くとは思わなかった」
「無理もないわ~。だってあれ、襲われているのは男の人ばっかりだもの」
「え、そうなの? ばっかりって、もうそんな何人も襲われて…?」
「リアンカったら、本当に知らないのね?」
「えー? 被害者村人なのよね? なんで私知らないの?」
「それは相手がかなり限定的かつ、完治するまで引き籠もるからだよ」
「引き籠もる? 限定的って、なに?」
疑問符をいっぱい、踊らせて。
首を傾げるリアンカに、同僚2人は呆れた顔を見せる。
そこにはなぜか、侮蔑と嘲笑が入り交じっていた。
リアンカに対してではない。
被害にあった、男達を笑っている。
特にメディレーナの嘲笑いは背筋がぞくっとするくらいだ。
「犠牲者にはね、共通点があるのよ?」
「ほほう? なんだか事件性がある言葉ね」
「…メディ、犠牲者って言うと殺されたみたいだよ」
「あれ、誰も殺されてないの?」
「殺されてないわよー実際には背中から木刀で襲いかかられた挙げ句、顔面打撃に加えて目に謎の薬を点眼された後、トドメに簀巻きにされて一晩木に吊されるだけらしいから」
「充分に酷い大惨事だと思うのは私だけかな。加害者はどんな恨みがあるの?」
「まあ、事件と言えば事件だけど。あまりにも馬鹿らしい共通点だよ」
「最初は被害者達も隠していたし、それが共通点とは思っていなかったの。だけどね?」
「もう、めぇちゃんったら意味ありげに引き延ばさないで教えて?」
くすくすと笑う同僚の目は、笑っていない。
そのことで逆に楽しげな予感が湧き出てしまう。
不謹慎ながら、リアンカはわくわくしていた。
そして、子供の様に目を輝かせて続きをせがむリアンカに、同僚は告げた。
「だけど、男達には例のカリスマ画伯の特定の著作を購入したって共通点が--」
「みなまで言わずとわかったわ」
最後まで聞く必要はなかった。
一方その頃、お隣の魔王さんち(魔王城)。
「おい、リーヴィル…その怪しげな仮面は何だ」
「はっ 陛下!? …………………見ましたね?」
「! お前!?」
「見られましたからには、陛下…」
「まさか、最近巷で評判の、闇討ち仮面は…!?」
「………見なかったことには、させませんよ」
黒い憎悪(やや逆恨み風味)に囚われた死霊術師が、新たな被害者を作り出そうとしていた。
後日…
ハテノ村に、新たな怪人が現れた。
闇討ち仮面と行動を共にする、通称闇討ち仮面2号だ。
彼等はエロ画伯から徴収した販売リスト片手に、暫く復讐の闇討ちに精を出したという。
販売から1年を待たずに一部も残さず地上から姿を消した、幻の作品がある。
--『新米女教師りっちゃんと20人の淫獣たち』
それは作者の強い意思で絶版となり、新たに目にすることは叶わなかった。
だが伝説と化したからこそ、望む者は尽きない。
伝説の復活を、本の復刻を望む者達の熱い声は、終ぞ途絶えることが無かったという。
声を納めなかったその者達がどうなったのか…
それは、魔王城の魔王お目付役の顔色から、推して知るべし。
やがてその話題に誰も触れなくなるまで。
根絶の草の根活動が終わるまで。
要した時間は、20年にもなったという。