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介抱


温かいスープが喉を通る。

あまりの美味しさについ大きな溜め息が漏れた。


「薫ちゃん、本当に大丈夫?」


現在私は自室で里佳に介抱されていた。

本日の一件を一体誰から聞いたのかは知らないが、心配してお見舞いに来てくれたのだ。

まだ体は重かったが、何とか食事をとるだけの気力は戻ってきた。

今日のあの出来事は完全なる一つの「イベント」だろう。しかもホラーゲームのイベントだ。

未だに信じたく無いと思っているが、どうやら私はホラーゲームの主人公らしい。「かおる」という主人公の名前と「千神学園」を「せんのかみがくえん」とも読めるあたりで、間違いない。

恋愛ゲームの悪役で、尚且つホラーゲームの主人公なんてどう転んでも詰みだ。

もう多方面にバッドエンドフラグしか立っていない。理不尽すぎる。

しかも、ホラーゲームは孫が好きだっただけで、私が実際にプレイしたことは一度も無い。孫が熱く語っていた話と、たまに隣でプレイしているところを見て得た知識くらいしかない。今日の例のイベントが、最初のイベントであるのかもわからないのだ。

ただ、幸いなことに「門番さん」の名前はよく覚えている。こいつはゲーム内でもかなり厄介なヤツだった筈だ。

いきなり窓を割って、主人公のことを追いかけてくる。確定演出もあるのかもしれないが、孫は「ランダム出現」と言って嫌がっていたのを覚えている。

ランダムって、本当にいつでも襲ってくるのだろうか。リアルでもそんな鬼畜設定になっているのか。無理すぎる。

だが、私がこのゲームの主人公だということは、ハッピーエンドも迎えることは出来るということだ。


「薫ちゃん? ボーっとしてるけど大丈夫?」


ふと思考の中に柔らかい声が入ってきた。

横を見れば、心配そうな表情の彼女と目が合う。


「だ、大丈夫だよ、スープも美味しいし!」


勢いで返事をしたせいで話が噛み合っていない気もするが、そこを気にしている場合ではない。

彼女には恋愛ゲームの主人公という役目がある。

絶対に私がホラーゲームの主人公だということを悟られてはいけない。

いや、彼女の恋の邪魔をする悪役としての役目もあるのだが、それどころじゃない。それはひとまず放置だ。私が重労働で死んでしまう。本当に死ぬかもしれないところに立たされている。

攻略方法も知らない、セーブも出来ない、やり直しなんか出来ない一発勝負の人生。ナイトメアモードでも選んだ気分だ。


「そういえば、里佳の方はどうだったの?」


現実逃避をしたくなり新たな話題を投げかけると、彼女は分かりやすく頬を染めた。

何かありましたね、里佳さん。

その様子が可愛らしく、こんな精神状態でも気になってしまう。


「何があったの?」

「いや、えっと……」


焦っております。

悪役らしいけど普通にこの状況を楽しんでいます。

こんなに普通に仲良くしてしまっていていいのかは謎だが。まぁいいだろう。

私が勝手に自問自答している間に、彼女は一大決心をしたように息を吸い込んだ。


「私ね、今日生徒会長さんに会ったんだけど、その……」


モジモジしている。やっぱり小鳥遊里佳は可愛い。


「生徒会に入らないかって言われて……」

「それで?」


話の続きを食い気味に促す。

彼女は明らかに何かがあった顔をしている。

まあシナリオ通りなら、その発言後に頬にキスをされる。

彼女の慌てようから、されたんだろうと予想はつくが。


「ほ、ほっぺに……」


そこまで言って彼女は顔を赤くしたまま黙り込んだ。


(私が命の危機にさらされてる時に宇田川先輩とイチャイチャか)


一瞬だけ恨めしい気持ちが湧く。

いや、もしかして烏野薫というキャラも本当はホラーゲームの主人公で、命の危機感じてるときにいちゃつく面々が気に食わなくて悪役になってしまったのかもしれない。多分そんなことはないだろうけど。

つらつらと一人考えていると、食べていたスープがちょうど無くなった。


「あ、私片付けてくるね?」


話題から逃げる様にそそくさと私の手から食器を取り上げ、彼女は部屋を出て行く。

一人になりお腹がいっぱいになったところで、ベッドにゴロンと仰向けになった。

この後どのような怪異に巻き込まれるのか、正直ほとんど分からない。

だが、バッドエンドを迎えることと、恋愛ゲームの内容に齟齬を生じさせてしまうのだけは嫌なので、なんとしてでも自分でゲームをクリアさせなくては。


「情報が多すぎる……どうしたらいいんだ私は……」


独り言を呟くと瞼を閉じた。

もう頭も体も赤信号を告げている。

ウトウトしてきたので、ここで考えることを諦めた。

兎にも角にも、こうなってしまった以上やるしかない。

疲れた体を休めるように、私は眠りに落ちた。


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