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おかしなできごと

流血、暴力表現があります。

ご注意下さい。


本日最後の授業は新入生向けの説明会だったので、体育館へ移動をしようとした。

だが、廊下に出た瞬間、何か嫌な風が頬に触れる。

1番最後に教室から出たので、教室には誰も居ないし、廊下にも私一人しか居ない。

居心地の悪い感覚に、何故だか前世の記憶が頭を過ぎる。

私の中学生の孫もゲームに熱中していた。だが、好んでやっていたのはホラーゲームだった。

あのスリル感が止められないんだ、とか言って楽しんでいたので、恋愛ゲームもスリルがあるよ、と言ったらそれは違うと怒られたことを思い出す。

自分はホラー耐性がそこまで無かったのでプレイすることはなかったが、孫が夢中になってやっていたゲームを横から眺めることは多々あった。

そういえば、そのゲームも学校が舞台のホラーゲームだった気がする。

誰も居ない教室を背に、一人廊下に佇んで居て……。

心なしか、廊下の空気が冷たくなった気がした。


「……誰かいる?」


刹那、開けておいた筈の教室の扉が勢いよく閉まった。

驚いて振り向くと、今度はパアアアンと音を立てて廊下の窓にヒビが入る。

いきなりの出来事で、思考も体も停止する。


(何!?)


上手く現状を理解していない脳は回転が遅く、体が一気に冷たくなったことにも気がつかなかった。

本能的に恐怖を感じる。

――此処にいてはいけない。

思考より先に足が動いていた。

もう授業は始まっている時間だ。それなのにチャイムが鳴った音はしなかった。いや、そんな事を言っている場合では無いことぐらい予測がつく。

おかしいだろう……勝手に扉が閉まり、勝手に窓が割れたのだ。

上手く働かない思考で一体どうしようかと考える。

考えれば考えるほど、頭が真っ白になる。

訳もなく、本能のままに階段を必死に駆け上がっていた。

ここは……何階だ? ここは何処だ?

まだ入学したばかりの学校で、校舎の仕組みなど全然分かっておらず、何が何処にあるのかサッパリだった。

だが逃げなくては、確実に、まずい。



パリン



数歩先にある天井の小窓が、音を立てて割れた。

しかし足は止まる筈無くそのまま割れた窓の方へと突っ込む。

咄嗟に目をきつく瞑った。


「――っ!!」


頬に熱い鋭い何かが滑る感触。

その後に衝撃が全身を襲う。

咄嗟に出た自分の両手は頭を守るように置かれていた。



ガシャンガシャン



しばらくの沈黙の後にその場にヘタヘタと座り込む。足に力が入らない。

怖かった。

その一心である。

意識しなくても聞こえてしまうほど大きな音で心臓が鳴っていた。

はあ、はぁはあ…と不規則な呼吸の後に、自分の全身が震えているのに気がついた。

両手でぎゅっと体を抱きしめると、ようやく現状が分かってくる。


自分の辺り一面に広がる硝子の破片。

割れた窓からは四月の風が入り込んでいる。

つまり私は頭から硝子の雨を浴びたらしい。

幸い、自分の咄嗟の判断で頭は守られたが、よく見ると腕や上履きに硝子の破片が刺さっている。

足や腕からじわりと滲んだ鮮血に、嫌でも視線が行ってしまった。


(……何が起きたの)


静まりかえっているこの場所が、逆に怖い。

だが動こうにも体に力が入らないのだ。

次第に落ち着きを取り戻した思考が、ようやく働く。

此処は二階だ。しかも普通の教室が連なる西側ではなく大きな多目的室のある東側。

教室からはかなり離れていたので、この騒ぎは誰も気付いていないらしい。

無我夢中で走ってきて、こんな人気のない場所に来てしまうとは。

そう思っていた時、背後で足音が聞こえる。

振り返ろうと首を捻ると、強い力が肩を掴んできた。


「大丈夫か!?」


焦ったような、驚いたような声。何処かで聞いたことがある、気がする。

ぼんやりと視線を上げると、目を丸くしている青年が居た。

何か恐ろしい物を見た顔。

私と目が合うと、青年の綺麗な黒い瞳が一瞬揺れる。


――綺麗な目だな。


そう思った辺りで、気が遠くなっていくのを感じた。



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