冬のメスカマキリ
今日の鍵言葉は「本能」「かまきり」「おいしゅうございます」「どこでも子供かよ」
私はかまきりになっていたようだ。
ダンナがわたしに
「そろそろ冬だから早く俺を食べてかわいい子供を産んでくれよ」
といった。私は本能のままに何も考えずにダンナを食べる。ダンナは私にじっとニコニコとしながら食べられている。
手から食べた。カマの先のとげも痛いと感じつつ食べた。彼は痛いだろうにニコニコしていた。
私は本能のままにどんどん食べてしまう。後は顔だけになった。私は両腕で彼の顔を抱いている。
ココロでは悲しく「ごめんね」「食べたくないよ」と思うのだけれど、身体は何の迷いもない。
私は彼を食べ終え一人ぼっちになった。
枝の上に羽を広げて坐っている。周囲のメスたちは次々と卵をうみ始めるのだが、
私は卵が産めない。卵の産みかたを忘れてしまったかのように、身動きができない。
なんだよ、あんなに大事な人をパクパク食べといて、一番大事な役目が果たせないなんて。私は彼の子孫を残せないダメカマキリだったなんて。変な本能で彼の命を奪っておいて、彼の子孫を残せない。役立たずもいいところだ。何のために彼は笑顔で命を絶ったのか。
もう、カマキリ的に役に立たなければ鳥にでも食べてもらおう。そう思い葉っぱの表に立つ。
しかし鳥に食べられようとする瞬間に、本能が顔をだし瞬時に葉っぱの裏に逃げて難を逃れてしまう。
考えたら彼が命をささげてくれたんだ。自分から捨てるのはやっぱりバカみたいなこと。死ぬ勇気もなく、したたかにのんびり生きていくことに決めた。
やがて冬が来て。
私は淋しく一人で立ち枯れて枝と同化し、冬の一部になる。