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着脱自在の化けの皮

今回の夢の鍵言葉は「マツコ」「ファスナー」「何枚もってんだどんだけ」何がなんやら。

「よろしくお願いしまーす」

私は周囲にお辞儀をしながら照明がまぶしいスタジオに入っていく。


驚いたことに、私はテレビに出られるような人になっていたらしい。しかも、そこそこ需要のあるような人材になっていたみたい。パフか何かをもったいい匂いの人が「少しはたきます」とか何とかいって私の顔をパフパフする。私はお礼を言って顔を上げた。目の前にはモニターがあり、パフパフされている私の姿を映し出しているはずだ・・・。


って、これは・・・。ま、マツコDX????


と思うくらいの巨漢な私。しかも女性ではなくオネエっぽい。限りなく。


ちょっと待ってくれと思うまもなく本番がスタート。

例のごとくバラエティー番組でオネエキャラの私はいじられる役。幸い私は与えられた役割はとりあえずこなせた模様。「お疲れ様でしたー」的な、和やかな雰囲気で現場を終えることができた。

しかし納得いかない。私がオネエになるなんて。私は普通の主婦なのに。


楽屋に戻ってマネージャーらしき人物に「どういうことなのだ」と問い詰める。私はこんな巨漢ではないし、オネエでもない。


マネージャーらしき人物はソファーにふんぞり返ってコーヒー片手にタバコを吸っていた。

鏡の前でときどき自分のカリカリの髪の毛をいじっている。私が大声を出そうとすると、面倒くさそうに振り返り、頭のつむじを指差す。


何だお前。その人差し指をくるりと回してみろマジでヌッコロスぞ。


「ファスナー」マネージャーはそう言って、つむじをつまむような動作をした。私も彼のまねをして自分の頭に手をやってみた。なにやら怪しげなものが手に触れた。


「それをぐーーっと引っ張って。」マネージャーはひっぱる動作をする。

コーヒーを飲み干してゴミ箱にスローイン。

言われたとおりに引っ張ってみると、マツコ風の外見がぺろりとはがれて、いつもの私が現れた。足元には脱皮した蛇皮みたいに、きぐるみが落ちている。


「いいアルバイトでしょ?違う世界を体験できるっていう報酬があったじゃない」

金じゃないのかよ。私は少しむくれた。こんなアルバイトする予定もなかったし。


するとマネージャーはタバコの煙をぷはーとはいて言う。

「あのさ。普段からきぐるみきてすごしているようなモンでしょ。体型は。

そういううるさいこと言わない。それに、わかったでしょ?」

マネージャーはきぐるみを拾い上げた。


「自分みたいな一般の、何のとりえもないような普通の主婦なんかよりさ。こういうキャラ作ってるほうがずーっと需要あるんだってこと。素のままのオタクなんていらないのよ。」


世の中の需要だけで自分の価値を決めるわけじゃねぇ。自分がすきかどうか位は自分で決めてやる。


「でも、実際はそうでしょう。素のままのあなたを求めるモノズキいないわけよ。あなたは何らかの形で補って繕わないと世の中には不適合なの。ちょうどいいんだよきぐるみは。インスタントでお手軽だし。

繕っているっていうことがまるわかりだから、周囲もそういう風に軽く接してくれるし。ブーム過ぎたら忘れてくれるし。要は。」


マネージャーは私の頭を軽くたたいて言った。


「何着きぐるみ持ってるか、で、世の中の渡りやすさがきまるのよ。もっと要領よく、もっともっとって、生活質をお手軽に高めるんだったら、お手軽なきぐるみをもっとたくさん持てばいいの。きぐるみだってことを忘れないで、中身を鍛えながらさ。とりあえずの措置としてきぐるみ着せ替えちゃえばいいわけじゃない。うまくやろうよ。頭使いな。姑息だなんだって言ってるうちは変われないから。」


何枚も着せ替えていくうちにさ、きぐるみきていることがわからなくなったり。

繕わない自分がどういうものか説明できなくなったりするのも嫌なんだ。


変わることってそんなに大事か?でも現状が不満なら変わるほうがましだろうか。


中身を鍛えるってことがどれだけ難しいか。怠惰に30数年過ごした私は身にしみている。

特に、ここ数年の自分の没落がどれだけ著しいか。一人だったころと比べて何でも考えてしまい、「結婚で足かせをつけられた」気分になって落ち込むことばかり。


急場しのぎに「嫁」「主婦」「妻」のきぐるみを作ってはみたんだが、きぐるみを脱ぐ場所がどこにもないんだ。どこにも。しかも急場しのぎだからきぐるみ自体あんまり評判よくない。新しいものをつくるやる気が沸かないんだよなぁ。

私が頑固に固持しようとしている「自分」なんてものは本当にたいしたことなくて、やっぱり世の中にとってきぐるみの私のほうが、価値があって求められているのかもしれないけれど。


きつい話だ。きつい。


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