こんな幸せが欲しかったわけじゃない
「いらっしゃいませ」
この言葉に乗り、俺はいつもと同じものを頼み、いつもと同じ席に座る。そう、ここは、とあるファーストフード店。
そしてここでいつも考える。…これは俺が欲しかった幸せじゃない。
一年前、俺はこのファーストフード店で3年間バイトをしていた。ここはみんなが仲良し、まるで家族のように俺を優しく包んでくれる空間だった。
そしてそこには一人の女性(以後、夏)がいた。
夏は一つ年上の女性だが無邪気な可愛らしさに惹かれ、好きになるのにそう時間はかからなかった。夏は一つ年上の女性だが無邪気な可愛らしさに惹かれ、好きになるのにそう時間はかからなかった。始めて自分からアドレスを聞き、始めてデートに誘った女性だった。始めて二人で映画を見たり、俺には全てが始めてずくしで、毎日が新鮮だった。それから8か月程たっただろうか。夏とはいつしか何でも言い合える仲にまでなっていた。俺が夏に告白をしたのもこの頃だった。
「友達としか思えない」
あの頃の俺はこの言葉の意味がわからず、ただ、泣いた。いつか夏を振り向かせる、それはいつしか異常な行動にも現れていた。
そんなしつこい俺に対しても、夏はいつもと同じ笑顔で、誰よりも明るく接してくれた。俺が一番安心できるその笑顔で。
それから新しい春がきて、俺は専門学校に進学していた。
そして忙しくなりバイトもできなくなり、夏とも接することがなくなったのもこの頃だ。
俺には彼女ができた。
新しい環境に新しい出会い、そして平凡な幸せの中にいつしか俺の中での夏の存在は薄れていった。
そんなある時、俺の耳に一曲の曲が流れ込んで来た。
その曲は昔夏と見た映画の主題歌だった。
その時はまだ懐かしいくらいにしか思わなかったが、夜テレビをつけるとその映画のアニメ版が放送されていた。まるで一年前を思い出させるかのように。俺の中で、何かが浮かび上がってきた。それは昔、夏と一緒に遊んでいた頃の、夏を追いかけていた一番楽しかった時期だ。あの頃の気持ちが蘇ってくる。そして自分の中で自分が自分に問い掛ける。
「お前が欲しかったのはこの幸せか?」
と。俺には自分のその問い掛けに答えることができなかった。一年前に戻りたい。こんなことを考えながら、また今日も一日が終わっていく。