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アンチテーゼ  作者: ナユタ
第一章  逃避行編
1/7

001 光と闇の邂逅

『世界に白い光など存在しない。ならば……正義のアンチテーゼは、何か?』



 記憶の片隅に残る問いは、あの時と同じように今も答えが見つからない。






 それは正に青天の霹靂であった。


 双子の天使が描かれた巨大なステンドグラスが割られた。色とりどりの破片と共に、逆光に照らされた闇が一つ降り立つ。

 大理石の壁に沿って渦を巻く階段が何重にも存在する薄暗い踊り場、巡回中の騎士団と思われる二人が慄きながら身構えていた。割れた隙間から差し込む日差しに包まれた侵入者は両腕を広げ、今にも襲い掛かろうという二人へ掌を向ける。

 その一瞬で、二人は呆気なくその場に崩れ気絶した。掌からは電流が放たれたのである。鎧は意味を成さない。

「アホか」

 侵入者は二人を一瞥もしない。光の中から姿を現したのは、灰色のフードに顔を隠した明らかな不審者であった。腰にはククリの様な刃の曲がった形の剣が二本。茶色の長いコートを身につけており、そのポケットに熱の残る両手を入れた。

 予定より下の階に潜り込んだらしい。容易い相手ではあったが、なるべくこれ以上見つからずに済ませたい。既に屋内が騒がしくなっていくのが侵入者にも感じられた。しかし「アイツ」がうまく注意を引いているようだ。

 侵入者は騎士を跨いで上階に続く階段を急ぎ足で駆け上がっていく。上を見上げると吸い込まれる様に高い。事前の調査は何度かしたものの、目的地に辿り着くのは骨が折れそうだ。


 広大な建造物なだけにやはり侵入者は迷ってしまった。似た感じの廊下や階段ばかりが続くのだ。その間に下階から追って来た数名の騎士団員に距離をかなり縮められる事になる。その距離、もはや階段一つ分。

 侵入地点の上、向かい側の場所に辿り着いた時だった。ようやく諦めたのか、侵入者も遂に足を止める。

「ウィジャ教の有する騎士団を甘く見るな。たった一人で相手にできるとでも思ったか!」

 他の者とは鎧が多少違う、隊長と思わしき騎士が勝ち誇った様に叫んだ。その騎士が指示を出すと、一斉に数名の騎士団員が階段を駆け上り始める。

 余計な問題を引き起こすのは極力避けたいのだが、こうなった以上は仕方がない。侵入者は溜息を漏らし、冗談混じりに答える。

「思ったね、おそらく出し抜けるだろうって」

 少しビッグマウスだったかもしれない。完璧には遂行できていないからこそこんな状況に陥っている。

 階段を駆け上って来る騎士団員に対し、侵入者は冷静に電流を流した。次々に気を失って落ちていき、最後尾に居た隊長は踊り場まで退く他にない。

「貴様、霊気使いネクロマンサーか……!」

 侵入者はフードの奥から微かな笑みを見せた。この場を楽しむかの様な余裕すら伺わせる。

「お勤め、御苦労さん」


 数分後、侵入者はある一つの扉の前で再び足を止めていた。今回の目的地にようやく辿り着いたのだ。見るからに古い扉だが、鍵は掛っている。準備良く針金を取り出して鍵穴をいじってみる。扉は簡単に開いた。入る前に左右を見て追手が居ない事を確認し、重い扉を開いて部屋へと入る。

 中はいかにも豪華で、且つ何処か荘厳な雰囲気を併せ持った空間であった。天蓋の付いたベッド、素人目には無駄に大きな木製テーブル、窓からは白で統一された街―――シャングリラのパノラマを一望できる。

 そこに窓の外を眺める一人の少女の後姿があった。

 侵入者が取っ手に付いた鍵を閉めると、その音に反応して少女がこちらを振り向く。白く美しい髪は腰の辺りまであり、サイドテールにしている。緩やかな装束を身に纏っており、整った顔立ちではあるが童顔だ。肌は白く、長らく陽の光を浴びていないことがよく解る。出で立ちは神々しささえ感じられ、蒼く澄んだ瞳が侵入者を凝視していた。

 侵入者はフードから顔を出す。ここまで来たら隠す必要はあまりないと判断したのだ。

「動くな。声と『守護霊』も出すな」

 侵入者である黒髪の青年は眼光鋭く少女を見つめ返した。腰に備えてある右の剣の柄を左手が掴む。

「何にしても、私を殺そうとしてるんですよね。だったら、従う必要はありません」

 青年は無表情だ。ところが心は何故か揺れ動く。彼はそれを振り払うべく問いかける。


「ウィジャ教最高指導者、煌位アリゼ・ソロウ。間違いないな?」

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