後日談〜愛は連鎖する(3)
〜美砂サイド
明けた月曜日。
ずっと我慢していたけど、今日こそは聞き出してやるから。
行動を起こすなら展示会の打ち上げ後だと踏んでいた私と良介は、さりげなく真紀と周平君の動向をチェックしていた。一緒に帰ったのは分かっている。駅で確認したからだ。路線が違うが私と良介も赤松駅を利用している。だからこれは決して尾行、ではない。
良介は週末私の家に泊まることが多い。この土曜日もそのままうちに来ていたが、誕生日にかこつけて真紀にメールや電話をしようとする私をたしなめる。
「余計な茶々入れんな。奴らのことだから下手に動くとうまくいかなくなるぞ。俺、周平に恨まれんのごめんだからな」
私はメールくらいと思ったが、譲歩した。
「じゃ、明日。日曜なら良いでしょ?」
「・・・そうだな。夕方にしろよ。うまくいってもいかなくてもその頃には落ち着いてるだろ」
「ええ〜、夕方ぁ?」
不満だったが、日曜まで待って。いよいよ夕方になり、まず真紀の携帯に電話した。
「・・・」
出ない。大丈夫かな?まさかうまくいかなかった?慌てて周平君に電話する。
「・・・あ、」
繋がった、と思ったら、ぶちっと回線が途絶えた。その後何度電話しても繋がらない。真紀にかけても同じだ。
「よせよ、もう。野暮だ」
私の携帯を良介がパチンと閉じる。
「野暮って?」
「明日、聞けば?」
良平は意味深に、にやっと笑った。
そして月曜日。私にしては記録的に早く出勤した。家が遠くなったとは言え、真紀は相変わらず早く出勤しているはず。仕事終わりまで待てなかった。
おかしい。出勤になっているのにデスクに真紀はいなかった。行きそうなところを片っ端からあたり、たどり着いた休憩室。入ろうとした時、別な社員が中を覗いた後慌てて踵を返してゆく。
「?」
中を覗くと、真紀と周平君はそこにいた。あろう事かソファに横並びで、手を繋ぎながら!テーブルには色違いのマイマグ。周平は時折PCをいじりながら食べにくそうにサンドイッチを口に運んでいる。真紀はと言うと手を捕まれたまま、もじもじとサンドイッチを食べていたが、周平君の甘い視線が降りてくると真っ赤になりながらも嬉しそうに微笑みかえしていた。急転直下。誰が見てられないほどじれったいって?
「この〜バカップル!」
ひっ、といって真紀が手を離して立ち上がる。周平君は苦々しい顔で、
「お前。昨日何度電話してんだよ」
とぼやいた。こいつ、わざと出なかったんだ、真紀も。・・・ということは。二人をじっと見つめる。真紀は恥ずかしがって俯いているが、その作り立ての陶器のような輝かしい表情は隠せない。周平君はわざと唇を固く結んで眉間に皺を寄せている、嬉しい時の彼の癖。
「・・・良かったね、周平君」
心からの言葉が出た。真紀だって周平を好きだったろうが、この男の足元にも及ぶまい。ずっと見てきた。寡黙で冷静にみえるこの男の、真紀への溢れる愛情を。今度は真紀に声をかけた。
「良かったね・・・真紀」
「・・・何で泣くの、美砂」
気がつくと涙がこぼれていた。
「こいつ随分心配してたんだぜぇ」
遅れて顔を出した良介が、大きいタオルハンカチで涙をぬぐってくれた。
「おめでとさん」
「・・・まあ、いろいろありがとな。特に美砂には、ほんと世話になったよ」
周平の言葉がさらに涙腺を緩ませる。
「あんたたちが幸せになってくれないと、困るのよぉ」
おろおろする真紀と驚いて声も出ない周平に、良介だけが余裕をもって深い微笑みを湛えていた。と、思ったら。
「!」
突然腕をつかまれ身体が傾く。気付けば良介にきつく抱きしめられていた。
「お、おい」
いつも冷静な周平が声を上げた声に、良介はさらに抱きしめる腕を強くした。
「・・・よかったんだよな?美砂」
耳元で自信なさげな小さな声。思わず母親のようにとんとんと背中をたたいた。
「当たり前よ、馬鹿」
身体を離して良介を見つめた。いつになったら自覚すんのよ、私が貴方に首ったけだって。
「だーれがバカップル?」
真紀が怒ったように私の腕を叩いた。
「ほら、始業だぜ」
周平も良介を促した。
「わあ、こんな時間!」
真紀は食べた後を片付けると二人分のマグを持って立ち上がった。
「ほー、真紀が二人分持ってくんだ」
悔しいからもう一言からかってやる。
「バーナードカフェに行く時はいつも一緒って?」
「もう、うるさーい!」
ふと仰いだ窓から梅の古木が見えた。堅く節だった枝のあちこちにいくつもの膨らんだ蕾がついている。
もう、いつ春がきても、いい。
「さあ月曜だ、仕事、仕事」
4人は頭を切り替えて、それぞれの部署へと向かっていった。
Fin
真紀と周平のお話はこれでおしまいです。おつきあいいただきありがとうございました。また番外編などでその後の二人も書きたいと思っています。そして次は、この後日談で予想のついた方もいらっしゃるかもしれません。美砂のお話が始まります。沿線の恋にまだ終点はありません。各駅停車でおつきあい下さいませ。