【読切】テーマパークの魔女は
『さあさあ皆様ようこそ憩いの地、テーマパーク・…………へ! ここでは今日も沢山の人々が集まり、各々がやりたい事を好きに楽しんでおります。 皆様の協力の元、毎日違ったイベントを開催しておりますが、特に当パーク名物、ショッピングモール二階での大規模なマジックショーは必見です! それでは皆様、…………にてお待ちしております!』
近代建築ばかりの世界には場違いの、白髪で魔女のローブと帽子を身に纏った少女が一人、そんな世界の空を飛ぶ。
狂った世界を見下ろす彼女の瞳には、今日も涙が流れるのであった。
〜とある男子校の生田くん〜
僕はとある男子校の二年生の生田。
身長の低さと中性的な顔立ちのせいで、友達には実は女の子なのではとよくからかわれます。
今日は修学旅行二日目の朝。
何故かここまでの記憶が曖昧なのだけれど、昨日の僕達はどこかのテーマパークのホテルに宿泊したみたい。
そんな僕は、朝から同室になったクラスメイト達とはしゃいでいた。
「いやー、最高だな! 班別行動でこんなとこ来れるなんてさ」
親友のタツヤが笑う。ただ、彼はさっきから少し眩しそうに、右側のこめかみ辺りをしきりに押さえていた。頭痛でもするのかと聞くと、
「んー? なんか熱っぽいっていうか」
とへらへら笑う。
その隣のショウタも、少し足を引きずるようにして歩いていた。靴擦れかと聞けば、
「なんか足首が重くてさ。でも全然歩けるから平気」
と笑った。
皆、良い友達で、僕は皆が大好きだ。
途中、先生が部屋に入って来てウルサイと注意されたが、それでも僕達はニコニコで次の予定の時間までを、部屋で楽しんだ。
そんな中、僕は不意に部屋の窓から外を眺めた。
すると、一筋の白い光のような何かが目の前を飛び去って行った。
凄く早くて、僕の動体視力では何だったのかよく分からなかった。
「…気のせいかな?」
今日最初の予定は、ホテルのエントランスに集まる事。
「お前ら遅いぞ!早く座れ!!」
既に集合していた担任の先生に怒鳴られ、僕達は自クラスの列の最後尾に座った。
いつもは出席番号順で並ぶのだが、今日は来た順で並んでいた。
全員の集合が確認されると、二年部の学年課長が大きな声で注目を呼びかけた。
「えー、今日はこのテーマパーク内で一日自由行動です。皆さん、敷地外に出る事は禁止ですから、絶対に出ないでくださいね。何かあったら、このホテルに帰ってくること。それから…………」
修学旅行前に担任から散々言われた長ーい話を聞く。眠い、眠すぎる。
しかし、僕の退屈と眠気は次の瞬間吹き飛ぶ事となった。
「えー、最後に、このテーマパークの方にここについての説明をしてもらいたいと思います」
学年課長に呼ばれ現れたのは、白髪で、魔女の格好をしたとても美人な女性だった。
「おぉ……!」
周りの男達から感嘆の声が漏れる。かくいう僕も、その姿に見惚れていた。
魔女は、静かに話を始めた。
「はじめまして。私、このテーマパークの総支配人…のような立場の者です」
優雅に礼をする魔女。控え目な胸の谷間がチラッと見え、男子校の生徒たちの視線は釘付けになる。
そんな視線に気が付いているのか、魔女は妖艶に微笑み、説明を続けた。
「当テーマパークのモットーは『救い』。ですので皆さんにはこれからこの場所で自由に行動してもらいます。先生方から聞いていますが、いくつかのクラスは出店を希望されていましたよね?既に、全ての準備は整っていますので、該当する生徒の皆さんは所定の場所に行くだけですよ」
ひと呼吸おいて、その魔女は宣言した。
「では皆さん!今日一日、当テーマパークをお楽しみくださいませ!」
皆が大歓声を上げ、我先にとホテルの外に飛び出して行く。
パーク内を練り歩く中、ふと奇妙なことに気がついた。
すれ違うのは、僕たちのような制服姿の高校生か、小さな子供を連れた家族連ればかり。カップルらしき姿が全然いない。
「健全な遊園地やな」
と友達は笑ったが、それだけじゃない。マップを見ても、ここには「絶叫系アトラクション」が一つもなかった。
「なぁ生田っ!ちょっと疲れたしどっかの建物入らん?」
友達の提案で、僕達は取り敢えずあのクソでかいイ○ンモールみたいな建物を目指す事にした。
その道中。友達がトイレに行くと言い出し、僕が一人、小さな公園のベンチでスマホをいじっていたら。
「お暇なのですか?」
突然綺麗な女性の声で話しかけられ、頭を上げると、そこには魔女さんの姿が。
「えっ、あっ、ぅす…」
緊張のあまりキモい返事しか出来ない僕を見て、魔女さんは朗らかに笑った。
「やっぱり君は面白いね。じゃあこれ、持ってて」
そう言って、魔女さんは僕の右手に何かを握らせた。
右手を開くと、そこには神社で売られているようなお守りがあった。ただ、握った瞬間、手のひらに何かが深く突き刺さるような、鋭い痛みが走った気がした。
「絶対に無くしちゃ駄目だよ? その痛みを忘れないで。良い?」
顔を上げると、もうそこに魔女さんの姿は無かった。
その後、モールの中に入ると、まず目に入ってきたのは巨大なエスカレーターだった。
「えっ、長くね!? てか何で二階までしか無いん」
「下りのエスカレーターも無いしな。変なの」
僕達は笑い合った。
時刻は夕暮れ。僕は疲れ果てたので、友達に二階の探索を任せ、一人、一階のコーヒー屋で休む事にした。
ガラス壁の先にある巨大エスカレーターに、さっきとは桁違いの数の人間たちが乗って上に上がっていくのが見えた。
(パンフレットに書いてあった『二階での大規模なショー』ってやつか。俺も後で合流するか)
〜家族でやって来た菊池さん〜
私は菊池、二十二歳のOL。
今日は久しぶりに実家に帰ってきたので、両親と十歳の弟・蓮と共に車でテーマパークへと向かっています。
お父さん曰く、大変道が混んでいたため、時刻は既にお昼前になっていました。
「取り敢えず、入場してしまおうか」
そのテーマパークはとても奇妙で、客がお店を経営したりする面白いコンセプトでした。あっ、あと驚いたのは、ジェットコースターとかが一切無いんですよ。巨大な自由広場といった感じです。
施設内はかなりの客で溢れており、パっと見た所、修学旅行中の高校生と家族連れが多いなと思いました。
早速目の前に飛び込んできたのは、男子高校生達が営むお好み焼きと焼きそばの屋台群でした。
「いらっしゃいませー!!」
眩しい青春に対し、私は無意識に目を逸らします。
両親は楽しそうに屋台で買い物をしています。ふと隣を見ると、弟の蓮がパーク入り口から少し離れた場所にある、大きなショッピングモールを一心に眺めていました。
「蓮〜?何見てるの?」
すると弟は突然私の手を握り、小さな声で震えて言いました。
「…お姉ちゃん、帰ろう…?」
「え…?」
しかし次の瞬間、お父さんに
「飯買ったぞ〜!」
と呼ばれると、蓮は
「やった〜!」
ところっと様子を変え、走っていきました。
去り際、私は振り返りました。蓮が見つめていた先には、魔女の格好をした白髪のお姉さんが居て、こちらを眺めているように感じられました。
両親の元に行き、家族団欒を楽しみながら食事をしました。
ただ、少し不思議だったんです。あんなに美味しそうな匂いがしていたはずの焼きそばも、お好み焼きも、口に入れるとなぜか砂を噛んでいるように、まったく味がしなかったから。……疲れているのでしょうか。
時刻は夕暮れ。
「そろそろ本命のモールに行こうか」
私達はショッピングモールを目指して歩き出しました。
ここで、私は異変に気が付きました。周りの人達全員が、無言で、憑かれたようにモールを目指して歩いているのです。まるでそれ以外の選択肢がないように。
モールに着くと、大量の人が二階へと続く上りエスカレーターに吸い込まれていました。
「私は、そのショーとやらはいいかな」
若干引いてしまった私は、両親にそう伝えました。
「そう?じゃあ蓮、行きましょ」
両親に手を引かれた蓮は、何かを訴えかける目をしながらも何も言わず、黙って二階に上がっていきました。
一人になった私は、外の壁の窪みに腰掛けました。
夜空を見上げると、色々と思いだしてしまい、自然と涙が流れてしまいました。
夢だった化粧品の会社。でも現実は雑用ばかりで、上司のセクハラパワハラに耐える日々。
「あと…あと何年頑張ればいいの……」
我慢してきた言葉を漏らした、その時でした。
「……そっか。そうなんだね」
振り向くと、さっきの魔女さんが、とても辛そうな表情を浮かべて立って居ました。
「……ねえ、凛花さん。家族は、好き?」
「はい。家族は皆、優しくて、暖かくて。家族は私の『帰る場所』なんです」
その答えを聞いた魔女さんは、更に辛そうな顔を浮かべました。
「……そっか。帰る場所、か」
魔女さんは何かを決心したかのような表情を浮かべると、悲しそうな笑みで言いました。
「なら、この後始まるショーを見に来てよ。あなたの家族も、上で待っているから」
強い風が吹き、目を閉じ、開けた時には魔女さんは居なくなっていました。
私は立ち上がり、ショーを見る為にショッピングモールへと戻って行きました。
自分のズボンのポケットに入っていたはずの『お守り』が、いつの間にか跡形もなく消え去っている事にも気付かずに。
〜私は笑顔を終わらせる〜
ショッピングモール二階中央、巨大ステージ。
魔女は、箒に跨がって虹色の光を降らしながら登場した。
魔女が杖を振ると、巨大な積み木のお城が崩れたり、動物の人形が観客に暖かさを伝えたり、景色が変わったりと、幻想的なショーが続いた。
観客は皆、尋常ではない笑顔で、瞬きすら忘れたように熱狂している。
やがて会場に大きな大きな虹が掛かり、動物の人形達が優しく手を伸ばした。
観客も、それに釣られて手を伸ばす。
その時、魔女の声が会場内に響いた。
「この公演を持ちまして、当園は閉園をさせていただきます。皆様、長い間お疲れ様でございました」
魔女がそう言い終わると、観客の身体が優しい光に包まれ、ゆっくりと空に浮かんでいく。 そして動物人形達に抱きしめられると、光の粒へと変わっていった。 一階から二階へ上がってきていた生田も、合流した友達と共に空へと登っていこうとした。
しかし、自分だけが何故か光に包まれず、三人の友達において行かれてしまった。
いや、それだけではない。右手のひらが、焼け焦げるように熱く、痛いのだ。お守りを握りしめたこの右手が、強烈な力で彼を「下(一階)」へと引き摺り下ろそうとしている。
「お前らだけずるいって!!」
生田が叫ぶと、三人の友達は振り返った。
「「「生田。お前はまだ来んなよ」」」
彼らは満面の笑みだった。
だが、その笑顔を見て、生田の心臓は凍りついた。
タツヤの右側のこめかみは大きく陥没し、どす黒い染みが広がっていた。
ショウタの足は、膝の関節からあり得ない方向へぐにゃりと折れ曲がっていた。
彼らだけではない。光に包まれて空へ昇っていく観客たち――高校生や家族連れ全員の体が、潰れ、折れ曲がり、血に染まった無惨な姿へと変わっていた。あの女性も、原型をとどめていない両親と弟に抱きしめられながら、光の中へ消えていく。
全員が、凄惨な姿のまま、満面の笑みで空へ昇っていく。
「うわあああああっ!!」
生田は右手の激痛に引かれるまま、逃げるように一階へと転がり落ちた。
その瞬間、強烈な白い光が視界を焼き尽くした。
一人を残し、他全てが光の粒となり空へと登っていった。
皆に『救い』を与えた魔女は呟いた。
「私の…帰る場所…か」
誰も居なくなったパークを空から見下ろす。魔女の魔法で用意された屋台やイベントは、既に夢の様に散り始めていた。
「やっぱり、ここは夢の跡地だよね」
〜???〜
『えー、臨時ニュースです。先日お伝えした高速道路上での大規模玉突き事故の続報です。その場で死亡が確認されず救急搬送された、バスに乗っていた男子高校生一名と、乗用車に乗っていた22歳の女性ですが……22歳の女性は先程、死亡が確認されました。男子高校生一名は一命をとりとめ、現在命に別状がない状態にまで回復したとの事です』
無機質な白い病室。強烈な消毒液の匂い。 ベッドの上で目を覚ました生田は、ゆっくりと視線を落とした。
ずっと「お守り」を握りしめていると思っていた右手。
そこには、事故の衝撃で掌に深く突き刺さった、血まみれのバスのエンブレムの金属片が、まだしっかりと食い込んでいた。
2024年に投稿した作品のリメイクです。
当時よりは読みやすいものに出来たはず……。




