王妃の帰還
「どういう事です?陛下!」
「まあ、落ち着きなさい」
「私は了承しておりませんわ。
隣国の祭事交流で私がいない隙に、なぜこんな事に…
ミラディナ公爵令嬢が、候補を辞退したなんてっ!
しかもそれを受理⁉︎ なぜ引き留めなかったのです?
陛下は何を考えているのですか⁉︎」
「何より本人が辞退を望んでいたのだ…公爵殿も同意していてな…
それに、こちらが無理を言って候補に引き入れたのだ…
強くは言えんだろう?」
「何の為に私が苦労して…引き入れたとっ‼︎ せめて保留にしてればっ…
あの娘ほど王妃に相応しい者はいないでしょう?」
「それは、私も分かっておる。
丁度良い…影の報告書と側近からの嘆願書がある。
読んでみるといい。理由がわかるだろう。
ほとんどブラッドの有責だがな…」
「なんですって⁉︎」
公務で他国から帰還した王妃殿下は、激昂していた。
お気に入りの王太子妃候補が、知らぬうちに辞退していたのだ。
ブルブルと報告書と嘆願書を凝視して、足元に乱暴に投げつける。
「ブラッド第一王子をこれへ‼︎ 早急に‼︎」
苛烈な性格の王妃が、王太子とは呼ばなかったことに、
国王陛下は嫌な予感とともに、頬に一筋の汗が伝った。
* * * * * * *
「殿下が、王宮に呼ばれたようです」
「王妃殿下が公務より帰還されたタイミングだな」
「報告書と嘆願書も提出ずみです」
「あ~これは…間違いなく、王妃殿下の逆鱗に触れたな」
ボソボソとヴァニとアスラが生徒会室の隅で作業しながら呟く。
トントンと書類を揃え、席を立って伸びをするヴァニの表情は晴れやかだ。
「肩の荷が降りました…あとは王妃殿下に任せましょう。
まあ、お前たちは何をしていたんだと、お叱りは受けると思いますが」
「そういえば、エヴァーグリーン公爵家に送った謝罪文の返事はどうなった?」
「謝罪は受け取らないそうです。
もう終わった事だ、今後一切関わりたくないと…
国王陛下とは、王太子殿下の有責と10年費やした娘の妃教育諸々に対しての
慰謝料増額の支払いで話も済んでいるそうです。
あと断罪の件も、追加で慰謝料を払うことで手打ちになりました…」
「それ、許さないって言ってるも同然だろ?
臣下が王家に向かって、随分強気だな公爵家」
「可愛い娘、もとい妹君を邪険に扱われたのですから当然でしょう。
あの公爵家は裕福で商会の協力者も多く、貿易も盛んで土台が揺るぎない。
最近なんて農作物も土壌改善して、量産し始めてますからね。
おまけに辺境での魔獣討伐率も一番高く、おかげで王都に魔獣が
入り込んで来ないんですから。王家の後ろ盾なんて必要としてません。
むしろ王家の方が、その富にあやかっている。
忠実な臣下でいて欲しいなら、これ以上刺激しない方がいいのですよ」
「公爵家にしては、権力ひけらかさないから気がつかなったけど凄まじいな。
いつでも独立できそうじゃん」
「ええ、そういう事です。
ミラディナ公爵令嬢を王妃にすれば、賢い王妃と公爵家の富が
手に入る訳です。強引に妃候補に引き入れた、王妃殿下の計略は
見事に愚かな息子に崩されましたがね」
「あちゃ~…それは激昂するわ。殿下大丈夫かね?」
「自業自得です。優しさと甘さを履き違え、そして、あの流されやすさと
優柔不断は、国を担う最高権力者としては、外交では頼りないばかりか、
押し負けます。だから、そのカバーの為のミラディナ公爵令嬢でしたのに…」
「殿下…廃嫡されたりしないよな?」
「さあ?私には分かりかねます。変わらねば、それもあり得るでしょうね。
まだ10歳とはいえ、第二王子ウィルアルド殿下が控えてますし」
「うわ~…俺、修道会騎士団か衛兵に転職希望出しておこうかなぁ…」
「おや、宮廷騎士団は辞めるのですか?」
「俺は嫡男じゃないからな。
側近辞めるなら、もっと、気楽に騎士やりたいだけだよ。
こういう駆け引きっつーか、揉め事?苦手なんだ」
「いいですねぇ。私は家柄的に逃げられませんから…
臣籍降下して、研究官にでもなりたいです」
「ニーレとラピレは、側近外れても元々の仕事が出来るもんな。
その辺の憂いがなくて羨ましい」




