側近の憂鬱
「え~、皆様お揃いで…」
「ご機嫌よう、ヴァニ様。お時間いただき感謝いたしますわ」
放課後のサロンの一角で、ズラリと並ぶ3人の王太子妃候補達。
ゴクリと喉を鳴らす。
この雰囲気は、あまり良くない。
「それで…どういったご用件でしょうか?」
「王太子殿下の事ですわ」
「ですよね~…」
「私達、皆で意見が一致しておりますの。
殿下がこれ以上、私達を邪険にするのなら…」
「ちょっと、お待ちくださいっ‼︎」
「な、なんですの?」
「その…早まらないで頂きたいたいのですっ…」
「早まる?」
「殿下の皆様への対応の事で、ご不満があるのですよね?」
「勿論ですわ。これ以上、私達を侮辱するおつもりなら、
私達全員、妃候補を辞退したく…」
「うわあああああああっ‼︎」
両手で頭を抱え、体を前に折り曲げて叫ぶヴァニに、
皆ぎょっとして固まった。
「ああああっ!あのバカ王子‼︎ だから言ったじゃないかぁっ!
やっぱりこうなるんだぁああああっ‼︎」
「……ど、どうしましたの?」
「だ、大丈夫ですの⁉︎…どこかお加減が…?」
「…失礼しました……取り乱しました…」
「あなたも、大変ですのね…」
「恐れ入ります……
…ああ、胃薬どこだったかな…ちょっと失礼…」
「……………」
ゴソゴソと愛用の革鞄の中から丸薬を取り出し、
ゴクリと飲み干し、大きな息を吐く。
しばらく何処か遠くを見つめていたが、
ぐるんっと勢いよく王太子妃候補達の方へ向き直る。
まるで死を覚悟したような顔である。
「お待たせいたしました。覚悟は出来ました。
お話を伺いましょう」
大方予想通りだった。
男爵令嬢との逢瀬に夢中になり、学院内で話もできず、
親睦を深める為に設けられた、週一回のお茶会も何度も無視され、
こちらを蔑ろにする殿下に嫌気が差している。
これ以上無礼な対応が続くようなら、候補を辞退したい。
そして、そんなに男爵令嬢が好きなら、
後見をつけて淑女と妃教育を施して、王太子妃にすればいい。
ツラツラとご令嬢から殿下に対する苦情が述べられた。
彼女たちの怒りは尤もで、
目の前で堂々と浮気するような男など、誰でも愛想を尽かすだろう。
「ええ、お気持ちは分かります…すっっっごく‼︎
私も何度も注意いたしましたしっ‼︎
ですが、もう少しお待ちいただけませんか?
最近、やっと殿下も反省し始めているので…」
「…今更ですわ」
「ええ、承知しております。
流石にミラディナ公爵令嬢に、愛想を尽かされたのが堪えたのでしょう」
「…は?」
「今、何とおっしゃいまして⁉︎」
「ミラディナ様に、愛想を尽かされた?」
「どういうことですの?」
「 あ 」
「ヴァニ様⁉︎」
「ミラディナ様が、最近学院に居ない事とも関係ありますの⁉︎」
「あ~……」
「ちゃんとお答えになって‼︎ 」
最 悪 だ。 胃が破けそうだ。
内密にしてたのに、自分で口走ってバラしてしまった…
いや、どうせその内、分かるのだから正直に話そう。
ここで下手な誤魔化しは悪手になる。
「実はですね…そのうちお知らせをしようと思っていたのですが、
ミラディナ公爵令嬢は、王太子妃候補を辞退されましてですね…」
「は?」
「え…聞き間違いかしら…辞退とおっしゃいまして?」
「はい…国王陛下の承認も頂いており、決定事項です」
「な、な…なんですってぇっ⁉︎」
「ミラディナ様がいらっしゃないなんて!では、私も辞退します!」
「私も辞退いたします!」
「私は才媛のミラディナ様にお近づきになるちょうどいい機会だと、
候補を一応受け入れたんです‼︎ あの方が王太子妃にほぼ内定でしたから!
私も辞退を希望いたしますわ!」
「うわああああっ!悪化したぁあああっ‼︎
ちょっと待ってくださいって!落ち着いてくださいっ‼︎
あれ?ひょっとして皆さん、そもそも王太子妃になる気がないんですか?」
「王命ですもの。家のために仕方なく受け入れましたの。
でも、ミラディナ様がほぼ確定でしたし、参加すれば体裁を保てますでしょ。
ですが、あの方は殿下を誰より敬愛していらしたのに…辞退されたとなると…
やっぱりアレですわよね⁉︎」
「そうですわね。むしろ、ずっと良く我慢してらしたわ。
本当に酷い態度でしたもの…」
「愛があるゆえの献身と叱咤でしたのにっ…それをあのバ…殿下が…」
「あの、アレとは?」
「あの男爵令嬢は、婚約者のいる殿方達にも気安く娼婦のようにベタベタして
婚約相手の女性たちに顰蹙を買ってますのよ?
それが原因で一部の女生徒から、嫌がらせを受けているらしいですわ」
「そう、それで証拠もないのに、ミラディナ様を疑われて!」
「王太子殿下まで、一緒になって皆の前で…まるで断罪のようでしたわ」
「ミラディナ様がお二人の距離感を注意してきたのが、
気に入らなかったのでしょ?
貴族としての常識ですのに…下らない意趣返しですわ」
「何ですって⁉︎ それは、私も知りませんでした。
なんて事だ…そんな侮辱を公爵令嬢に…
あの一応伺いますが、本当にミラディナ様が嫌がらせを?」
「するわけないじゃないですかっ‼︎ ご本人も否定しておられました!
私達には、護衛も王家の影も付いていますのよ?
疑うのであればご確認になって!
それに、あの方は生徒会もこなしていらして、毎日お忙しいのに、
嫌がらせなんかに割いてる時間なんてありませんわ!」
「しかも、男爵令嬢と殿下の思い込みだけの証言ですのよ?
そんなバカな事あります?」
「その件は、お恥ずかしながら私は知りませんでした。
しかし…これは不味いですね…
確たる証拠もないのに…断罪まがいの事をしたんですか…」
「彼女のお人柄を存じてますし、嫌がらせの現場も誰も見てません。
皆も庇って反論したので、あちらも分が悪いと思ったのか、
それ以上は追及はしてきませんでしたが…
あの時の男爵令嬢の勝ち誇った顔ったらっ‼︎
お可哀想に…ミラディナ様…酷い侮辱を受けられて、
その後、平静を装っていらっしゃいましたが、
目に見えてお元気がありませんでした」
「それは…王家の影に裏を取り次第、王太子殿下に確認いたします…
ミラディナ公爵令嬢にも、流石に謝罪しなくては…
今は休学なさっているので、本家領地に使いを出して…ああ…また胃がっ」
「まあ、休学なさっているのですね…卒業パーティーには出席なさるのかしら…
お会いして、今までの教えの御礼を伝えたいわ」
「お元気になさっているでしょうか?心配ですわ…」
「でも、待って。ミラディナ様がご辞退したとなると、
私達の中からになりますの⁉︎」
「嫌ですわ!あんな浮気男!」
「やっぱり私達も辞退いたしましょう‼︎
王太子殿下は、男爵令嬢を娶ればいいのです!」
「だ、だから!ちょっと待ってくださいってぇえええええっ‼︎
あの馬鹿には、キツく言っておきますのでぇぇっ‼︎」
ヴァニは、本日2度目の丸薬を革鞄から取り出し飲み下した。




