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【完結済】ミラディナは恋することをやめた   作者: 米野雪子


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再会




「ミラディナ、ちょっといいか?」


「お兄様…どうしたんですの?お客様がいらっしゃったのでは?」


「ああ、その客がお前に会いたいそうだ。おいで、紹介しよう」


「え?どちら様ですの⁉︎ 私、こんなラフな格好で…」


「気にしなくていい。いいから、おいで」


「お、お兄様⁉︎」



何だか慌ただしく、お兄様に呼ばれ来客と対面させられる羽目になり、

よく分からないまま手を引かれて連れて行かれる。


一体、誰だというの?


この本家領地には、夏と冬の長期休暇以外は来ていなかったから、

知り合いはあまりいないはずだ。


有無を言わさない様子で、応接室のドアが開け放たれた。



黒い騎士服に身を包み、

豊かな黒髪の男性がソファにゆったり座って、紅茶を飲んでいる。

そして、赤紫の瞳をこちらに向けた。



「やあ、リトルプリンセス」


「…え…」


「おやおや、忘れてしまったのかい?

 会うのは5年ぶりだね。ミラディナ」


「…ミハイル叔父様⁉︎」


「そうだよ。小さなお姫様とはもう呼べないね。見違えたよ。

 すごく素敵な淑女になったね」


「お、お久しぶりです。

 先ほどの馬車は、叔父様だったのですね⁉︎」



叔父様は、お父様の年の離れた弟だが、

祖父の後妻の連れ子で、血は繋がっていない。


12歳の時、魔力過多で魔力暴走を起こしてしまい、

その責を負わされる形で、魔獣の多い辺境に追いやられ、

魔獣討伐の騎士団の団長を務めている人だ。


今は自身で鍛練した制御力と、念のため開発された

魔力制御の魔具をつけているので、魔力暴走は問題はないらしい。


夏と冬の長期休暇に本家領地邸に遊びに来ると、

叔父様もいらっしゃって、いつも可愛がって遊んでくれた。

私にとっては、もう一人の兄の様な存在だ。


王太子妃候補になってから、特に後半は妃教育と学院の生徒会活動が忙しくて、

ずっと本家領地邸に来ていなかったから、会うのは5年ぶりだった。



それにしても、叔父様…全く老けてないわ。



相変わらず美しい赤紫の瞳と豊かな黒髪。

騎士特有の逞しい体つきは健全で、背も高いから威圧感がある。

黒髪は親族の中で、私と叔父様だけだから親近感もあって、

彼の本来の優しさもあり、私は彼に懐いていた。



「それじゃ、私は仕事があるから失礼するよ。

 あとは二人で積もる話もあるだろ⁉︎」



そう言って、お兄様は手をひらひらして部屋を出て行ってしまった。

久しぶりすぎて、緊張し立ち尽くす私に手を差し伸べ、

ソファに座らせてくれた叔父様。さすが紳士、スマートですわ。



「元気にしてたかい?」


「え?ええ…元気ですわ。叔父様も息災でしたか?」


「ああ、相変わらず辺境の魔獣討伐と領主経営の日々だよ。

 こんな時期に、ここに来るのは珍しいね。学院は大丈夫?」


「ええ…学院はもう単位は取得したので、あと半年は休学いたしました」


「さすが優秀だな。休学するのか…そうか…

 なら、よければ辺境に遊びに来るかい?」


「はい‼︎ 叔父様さえ、ご迷惑でなければ‼︎」


「よし、決まり。来月に辺境で大きな祭がある。

 それをミラディナに見せたいんだ」


「まあ、楽しみです。ありがとうございます」


「妃候補の方は順調?筆頭妃候補になったんだろう?

 王子様のお嫁さんになる夢は叶えられそうかい⁉︎」


「……あ…」


「…どうした?」



ああ、まだ叔父様は知らないのだわ。

どうしよう…応援してくれていたのに…

でも、どうせ後から分かることだし…誤魔化さずに報告しなくては。

心配されないように、落ち込んでいる事を悟られないように…



「実は、妃候補は辞退いたしましたの」


「…ん?」


「国王陛下には、すでに受理をいただいております」


「辞退って言ったのか⁉︎……何があった?」


「………殿下は…私では、駄目だったみたいです」


「なんだ、それは…王太子に何か言われたのか?」


「私が悪いのです…気負いすぎて……嫌われてしまいました。

 それに、彼は…他に恋する方がいらっしゃっる様で…

 私は………邪魔、だったようです」


「……………」


「応援していただいたのに…

 ご期待に沿えなくて、申し訳ありません」



叔父様の顔が見られない。

この優しい人に、気を許すと泣いてしまいそうになる。

俯いて、なるべく感情的にならないように淡々と言葉を並べる。


すると、布が擦れる音がして叔父様が立ち上がっていた。

そして、私のすぐ隣に腰を下ろし、大きな腕の中にフワッと抱き込まれた。



「可哀想に、辛かっただろう…」


「……私、…頑張り、ましたわ…」


「うん、知ってる。昔からミラディナは、頑張り屋だったからね」


「ふふっ…ありがとう、ございます」


「10年もよく頑張ったな…

 一番女性として輝く綺麗な時期を…無駄にされて、

 正直こちらとしては腹立たしいが…

 ミラディナがそれでいいのなら、私は何も言わないよ」


「沢山の学びは身に付きましたので、無駄ではありませんわ。

 ご理解いただき、ありがとうございます」


「ミラディナの魅力が分からない…見る目がない愚かな男など、気にするな。

 …お前は世界一美しくて、聡明だ。私はミラディナを誇りに思う。

 自信を持っていい」


「まあ、褒めすぎですわ。身内の贔屓目も過ぎると盲目ですわよ?

 でも、嬉しいです。…ありがとう…ミハイル叔父様…」



泣きそうな顔で、無理に笑顔を作る美しく成長した姪。

柔らかな黒髪をそっと撫でる。

成長したとはいえ、今にも折れそうな華奢な体が痛々しい。

こんなに細い肩に、重積を背負い耐えていたのかと思うと堪らなくなる。


もっと気を配ってやれば良かった。

しっかりしているからと、安心してしまっていた自分を悔いた。


彼女は、必死に背伸びして頑張っているだけで、

まだ大人ではない。


あんなにキラキラとした目で、

王子様のお嫁さんになると話していた子が辞退するなど…

どれだけ君は…思い悩んで苦しんだのか。



私は君に、笑っていて欲しかった。



魔力暴走を起こして、邸を吹き飛ばし破壊した私を皆恐れていた。

まるで腫れ物に触るように扱われ、そのよそよそしい態度に、

制御魔道具を装着していようが、私自身避けられているのを感じていた。


仕方ないとはいえ、孤立していく自分の境遇に怯え、

自責の念に押しつぶされそうな葛藤の中で、苦しみもがいていた。


だが、その出来事があった後でさえ、君だけは私を心配して寄り添い、

変わらない態度で無邪気に接してくれたんだ。



あれが、どれほど嬉しかったか…

私の心を救ってくれたか…



だから、幸せになって欲しかった。


自分の夢を叶えて欲しかった。



こんな顔をさせるのを知っていたら、

この手を絶対に離さなかったものを────。




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