殿下の後悔
「最近なんで避けるんですか?殿下」
「いや…ほら、やはり未婚の男女が二人きりで会うのは、
良くないんじゃないかな?
君とは友人だけど…周りの目もあるし、誤解されるだろうから、
これからは控えないか?」
「そんなの気にしません。勝手に誤解してればいいんだわ。
ほんとに貴族って陰険ね!
あっ!もしかしてあのミラディナとか言う人に、何か言われたんでしょ⁉︎」
「え?いや、彼女は…」
「あの人、殿下と二人きりで会うなって、何度も注意してきたんですよ。
身分が違いすぎるし、マナーもなってない私とじゃ殿下の醜聞に
なるからって!高位貴族か何か知らないけど、ミラディナって本当に嫌な女!
虐めですよ、虐め!」
「呼び捨ては流石にまずいよ。エリア嬢…」
「え、何⁉︎ なんでそんな事言うんですか…
殿下だって嫌ってたじゃない。それに学院は平等でしょう?」
「平等と言っても、それは学院内で話すことが許されているだけであって、
身分差は変わらないよ。卒業しても同じ付き合いが出来る訳じゃない。
だから、その辺は流石に弁えないと…
それに社会に出て、社交でそのままだと君が苦労するんだよ?
ミラディナ嬢は、それも含めて注意してくれたんだ。
あと、誤解があるようだけど、私は彼女を嫌っていたのではない。
口うるさく言われるのが嫌で、避けていただけだ」
「…今まで…そんなの言わなかったじゃないですか…
それに、なんであんな女を庇うんですか⁉︎」
「あんな女って…エリア嬢、ミラディナ嬢は、
王家の臣下、エヴァーグリーン公爵家のご令嬢だ。
血筋的にも王族と身分は変わらないんだよ⁉︎」
「だから何だって言うんですか?ただの爵位じゃないですか。
たまたまその家に生まれただけで、その女が努力して得たものじゃないもの。
私だって、好き好んで低位の男爵家に生まれたわけじゃない!」
「それを言うなら、私もたまたま王子として生まれだけだ。
いいかい⁉︎ 高位貴族は、その分責務が重い。
皆、小さな時から厳しい英才教育を施され、我慢して子供らしい
育ち方ができないんだ。だから…自由に立ち振る舞う、
君が魅力的に見えて…羨ましかったんだな…私は…」
「そうでしょう⁉︎ 子供の頃から我慢を強いられるなんて可哀想です。
だから、そんな身分なんて関係なく自由にすればいいんですよ!
私がいつも言ってるじゃないですか。あなたはそのままでいいの!
殿下もそんなの気にしないで、自分の思うままに生きればいいんです」
「ああ、そうだな。君の言っている事も理解できる。
でも、その反面、責務を背負って努力して、
覚悟を持って、その立場の矜恃を全うしようとしている人たちに、
君の発言は凄く軽率で失礼だし、無礼だよ…」
「さっきから何なんですか…どうしちゃったんですか?殿下…」
「私は、将来この国を担う国王になる。学生だからと気を抜きすぎていた。
卒業までに、パートナーとなる王太子妃候補達と親睦を深めて、
自分自身も律していかなければならないんだ。
だから、エリア嬢、君とはもう二人きりでは会うような付き合いはできない。
すまない…」
「学生だからこそでしょ⁉︎
卒業したら、しがらみだらけになるじゃん?今だけなんだよ⁉︎
なんで自由を謳歌できる時を自分で縛っちゃうの?」
「私たち王族は個ではなく、公を優先しなければならない。
国を背負う覚悟のない、爵位関係なく自由に生きられる君には…
多分理解できないよ…」
「分からないよっ!私は、そんなの気にしないし関係ないもの!
一人の人間としてブラッド殿下と向き合ってるもの!
それの何が、そんなにいけないの⁉︎」
「ありがとう…でも、もうやめよう。
残念ながら、その考え方は分かり合えそうにないね」
「…殿下?……え? 待って⁉︎ ねえっ‼︎ 意味わかんないっ‼︎」
冷静になってみれば…彼女の言っている事は、
自己中心的な言葉を言い換えた、綺麗事ばかりだった。
決して優しさではない、ただの聞き心地のいい無責任な甘い言葉。
私は、何を見ていたんだ…
エリア嬢に偉そうなことを言ったが、
一番覚悟が持てていなかったのは、私だ。
そして今はもう去った、
まさに努力の結晶…
ミラディナ嬢の凛とした横顔を思い浮かべていた。
* * * * * * *
「領地の視察同行?
ご一緒したいですけど…お仕事の邪魔では?」
「来週にでもお前さえ良ければ。少しは気分転換になるだろう?
大分街並みも変わったんだ。
それに、農作物の育成状態もミラディナの意見が聞きたい」
「分かりました。ありがとうございます、お兄様」
「ついでにドレスでも買おう。もっと動きやすいのが必要だろ?」
「…お兄様、甘やかしすぎですわ」
なんだか、こんな風に甘やかされていると、子供の頃に戻ったみたい。
何も思い悩むことがないって、こんなに毎日楽しいのだわ。
ずっと忘れていた。この浮き立つ気持ち。
「少しお庭でも見ようかしら…」
「お嬢様、日焼けします。日傘を…」
「いらないわ。もう、そんなの気にしなくていいもの」
「でも、あんなに気を遣っていらっしゃったのに…」
「いいの。ここでは公爵令嬢じゃなくて、一人の女の子でいたいの」
庭をゆったり散歩していると、門の前に馬車が止まる。
「あら、お客様かしら…」
「ええ。立派な馬車ですね。プルシアン様のお客様でしょうか?」
門が開かれ、邸の中に招き入れられた。
近くをすれ違った馬車の窓から、誰かこちらを見ていたが、
影になってよく見えないその方に、私は軽く会釈してその場から離れた。




