領地へ出発
お兄様は一足先に本家領地へ帰り、私は遅れて出発した。
「はあ~空気が美味しい…」
「お嬢様…」
「しがらみから、やっと解放されたわ♪」
「ブラッド王太子殿下のお嫁さんになるって…
あんなに頑張っていましたのに…」
「あの時は、まだ子供だったしね。こればっかりは仕方ないわ。
変に執着しちゃって、心を見失っていたのに気づいてしまったのよ。
人は簡単に変われませんもの」
侍女のリリアは、私より5つ年上だが、
侍女というより姉のような関係だった。
貴族同士の建前と、駆け引きばかりの気の抜けない会話や付き合いは、
少しの隙も見せられず、本音を隠し続けて心を疲弊させる。
彼女とは幼少の時からの仲なので、その必要がなく
私にとって飾らない付き合いのできる数少ない相手。
護衛騎士2名と侍従兼執事1名が騎乗で付き従い、
領地に向かう馬車の中で、流れる景色を見ながら
久しぶりに何も考えずに会話を楽しんだ。
ずっと殿下と妃候補達、貴族同士の派閥に気を配っていたから、
そのしがらみからも解放され、私の心は晴々としていた。
辞退した直後は、
泣きっぱなしで、時間はかかったけれど…
もっと早く捨ててしまえばよかった。
こんなに楽になるなんて…
他の妃候補達には、責任放棄して申し訳ない気持ちだが、
どなたもしっかりとした家柄と、教養を持ち合わせているご令嬢達だもの。
私が抜けた所で、何も問題ないでしょう。
あとは、あの方達で頑張って欲しいわ。
上位貴族は、政略結婚が多い。身分があるゆえの宿命だ。
家の為に割り切って婚姻して責務を果たし、
その中で信頼関係を築いていくのだ。
男女の恋情や愛などなくても、信頼があれば夫婦としてやって行ける。
でも、私は彼に恋をしてしまった。
そして、それは届くどころか…拒否され、嫌われてしまったのだ。
こんなに報われないなら、もう…恋などしなくていいわ。
次の政略結婚は、恋情に振り回されないように責務を全うしよう。
その為には、心を強く持たなければ。
* * * * * * *
「最近、学院でミラディナ様を見かけませんが、どなたかご存知⁉︎
私、相談したい事がありましたのに…」
「そういえば、そうですわね…」
「どうしたのでしょうか?お加減がよろしくないのでしょうか?
責任感がある方ですから、何かあったのでは…」
「そうですわね。いつものサロンにもいらっしゃらないし…心配ですわ」
「殿下に聞いてみますこと?」
「…ふん、また男爵令嬢とイチャついているんじゃない︎こと?」
「そうね…私達が近づくと、
まるで汚い物を見るような目でご覧になるし…嫌になりますわ」
「本当に。私達は王命で選ばれただけですのに…ご理解出来ていないのかしら?
少しでも信頼関係を築こうと、お互い知り合う時間を設けようと
しているお茶会も参加されませんし…
あんな低位貴族と逢瀬を重ねるなど…侮辱もいいとこですわ。
まるで盛りの犬のよう」
「はあ…最近考えますの、候補を辞退したいと」
「まあ!私もですわ!」
「あら、私も同じことを考えておりました」
「ご本人に指摘しても、全く聞き入れようとしませんし…
何を考えていらっしゃるのか…」
「…確か側近のあの方が、妃候補の担当の相談役ですわよね…
ヴァニ様に皆で掛け合いますか⁉︎」
「いいわね!そうしましょう⁉︎」
「その時に、ミラディナ様の不在の件も聞いてみましょう‼︎」
ミラディナ公爵令嬢が学院を休学し、王太子妃候補も辞退した事は、
表向きには秘匿にされていた。
王家の面子と、他の妃候補にも今までの王太子への不信感で
辞退者が次々出るきっかけになるのを防ぐ為だ。
ただでさえ、学院内での男爵令嬢との恋人同士のような
王太子の振る舞いは顰蹙を買い問題になっていた。
「おや、皆さんお揃いでどうしました?」
「ご機嫌よう、ヴァニ様。私達少々ご相談がありますの。
放課後サロンに来てくれませんこと?」
「あ、はい。勿論。
あの、妃候補様方お揃いという事は…その…」
「ええ。王太子殿下のご相談ですわ。
あなたお一人で必ずいらっしゃってね?」
「は、はい。畏まりました」
呼び出しを喰らってしまった。
しかも妃候補全員から。
嫌な予感しかしない。
あのバカ…王太子殿下のせいで…絶対碌なことじゃない。




