ナイト帝国へ
「この刺繍の繊細さ、豊富な素材の布地…素晴らしいですわ」
「でしょー。来て良かったでしょ?」
「ええ、興奮が抑えきれません!」
ウルドレット皇子の母国、ナイト帝国。
繊維産業の工場の見学に来たミラディナは目を輝かさせていた。
「ウルドレット皇子殿下のお召し物が、いつも素敵でしたが、
やはりこういう事でしたのですね?」
「歴史が長いからね。ほら、こっちは麻でさらさらしてるから夏に重宝するんだ。
君の国には、まだ無い素材でしょ?」
「まああああ~…風がよく通って涼しそうですわ。
これで夏用のワンピース作ってみたいです」
「あっちの衣服部門に見本あるよ、見てみる?」
「はいっ!」
こちらに来てから、楽しくて仕方なかった。
服飾も豊富で、エチゾチックな雰囲気で素敵だった。
ナイト帝国も強みの繊維産業でそろそろ外交貿易を始めようと考えていた所、
タイミングよく、第二王子のウルドレット皇子の遊学でサンレッド王国との
繋がりができた。そして、橋渡し役になってくれそうな人物の誘致を前向きに
検討していたという。
そして、皇子の強い希望もあり、
一番初めの招待客として、私に白羽の矢が立ったのだ。
高位貴族の公爵家の令嬢との伝手は、向こうにとっても好都合なのだ。
「そろそろ、お昼にしない?」
「え?ああ、そうですわね。時間を忘れてしまいました」
「帝国は、魚介が中心の料理が多いんだけど、食べられる?」
「大丈夫ですわ」
本国では食べられない新鮮な魚介類の料理。
基本トマトベースの味付けで、野菜や果物も豊富に使われている。
見たことのない物ばかりだったが、飾り付けも美しく、
皇子が食べ方を丁寧に教えてくれたおかげで、どれも美味しくいただいた。
料理レシピも輸入したい衝動に駆られたが、欲張ってはいけない。
その土地の気候に合った素材でしか出せない味があるのだ。
こちらの国は暖かい気候だし、観光誘致もいいかもしれない。
「市場にあるフルーツも全然違いますのね…」
「みんな甘くて美味しいよ」
「いい国ですわ。みんな笑顔で…」
「基本、天気がいいからね。それも関係してると思う。
天気が良ければ、作物も豊作だし、海も近いから魚介も豊富。
正直、飢饉を体験したことないんだよ、この国」
「それは、凄くいいことですわ」
「どう?前向きに考えてくれる?」
「勿論ですわ!お父様とお兄様に話をつけます」
「兄上が次期皇帝になるから、俺は貿易の外交担当になる予定なんだ。
だから、ミラディナ嬢が窓口になってくれるとすげー助かる」
「まあ、そうですの。それは私も好都合ですわ」
「ずっと工場見学ばっかだったし、明日は観光でもどう?」
「ええ、是非!」
真っ青な青空で晴れ渡り、どこも美しい街並みだった。
基本的に道路や建物は白い素材で作り、屋根を赤や青、黄色とカラフルに。
小窓に花々のプランターを飾り、統一感があって可愛らしい世界観。
山並みに街が作られている為、坂道が多いが、
まるで不思議の国へ迷い込んだような細い小道にワクワクするのだ。
「可愛らしい街ですわね…」
「俺もこの国好きだよ、平和で。でも、時々退屈に感じてしまうんだよ…
贅沢だけどね。だから、君の国へ遊学に行ったんだ。
ここだけじゃない、どこか別の国へ行って、色々知りたくてさ」
「贅沢ではありませんわ。
未開の地へ降り立ち、命を落とす方もいらっしゃいますが、
そういう好奇心旺盛な方達のお陰で、発展へと繋がったのですから」
「ふふっ、やっぱいいなぁ~。君とは建設的な会話ができて楽しい」
「それはウルドレット皇子殿下もですわ」
「あのさ、ミラディナ嬢の叔父様って、ブルネイ領地の辺境伯だよね?」
「ええ、そうですわ」
「俺、あの人に助けられたことあるんだよね」
「えっ?」
「遊学前に、サンレッド王国の学院へ見学にきたんだ。
その時少し道に迷ってさ。魔獣が多発する辺境に足を踏み入れてしまって、
案の定襲われたんだよね。そこに偶然見廻り中の辺境伯が颯爽と現れて、
あっという間に魔獣を倒して助けてくれたんだよ。格好よかったなぁ…」
「まあ、そうだったのですね」
「うん、道案内したら、さっさと姿消しちゃって、お礼したかったのに…
どこの誰だか名前も聞く暇もなくてさ。
やっと突き止めたら、君の叔父様だったんだ。
だから、今度お目にかかれないかな?ぜひ、お礼したいんだ」
「ふふっ、寡黙な叔父様らしいわ…分かりました話しておきます」
「ありがとう。黒髪で赤紫の瞳の長身の男性だよね?」
「ええ。ミハイル叔父様です。優しくて強くて格好いいの」
「あれ…もしかして、ミラディナ嬢…」
「はい?」
「その叔父様のこと、好きなの?」
「ええ、大好きですわっ」
「いや、男性として…」
「えっ⁉︎…な、ななな何をおっしゃいますの?」
「あ~…なるほどぉ…」
「か、揶揄っていらっしゃるのね⁉︎」
「ううん。でも、俺、失恋したみたい…」
「え、それは…どういうこと、ですの?」
「もうちょっと君が落ち着いてからって、思ってたんだけど…
俺、君が好きなんだよね…」
「ま、まあ…申し訳ありません…私、気がつきませんでしたわ」
「いや、本当は諦めていたんだよ。君、王太子妃にほとんど内定してたし…
でも、辞退したって聞いて、不謹慎だけど内心喜んでいたんだ」
「お気持ちは、大変嬉しいのですが…申し訳ありません…」
「あははっ、そっかぁ、仕方ないよね。でも、友人ではいてくれるよね?」
「ええ、勿論ですわ」
「俺、君のこと好きだけど、
でもそれ以上に、一人の人間として尊敬してるんだ。
凄い知識量と淑女の気品は、君の努力の賜物だもの」
「ありがとうございます。光栄ですわ。
私もウルドレット様の明るさと、聡明さにいつも救われていますのよ。
友人でいてくれて、本当に心強いです」
「でもさぁ、もし、その…叔父様と上手くいかなかったら、
俺は、いつでも受け入れるからね?」
「まあ~…ふふっ」
予想外のウルドレット皇子からの告白だったが、
拗れることなく、友人のままでいられてホッとしていた。
彼は、別段気にしている様子も見せず、その後もいつも通り振る舞ってくれた。
そして、私は先行して繊維産業の貿易を進めるため、本家領地に一旦戻った。
お兄様とお父様は、帝国との新たな取引と繋がりに大手柄だと大喜び。
取引選定、契約交渉、搬入経路の確保、通関手続き、支払い処理などを
迅速に進めてくれて、帝国とエヴァーグリーン公爵家の商会での
貿易が始まったのだ。
ナイト帝国のイメージは、ギリシャのミコノス島です。




