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【完結済】ミラディナは恋することをやめた   作者: 米野雪子


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11/17

辺境の街へ



関門で入地手続きを終え、大きな重い扉の門を潜って馬車は進む。

深い森と山の中、要塞と見まごうグルリと高い壁で囲まれている辺境の街。


街のゲートにブドウと季節の様々な草花が装飾され、

店先や家の玄関口にも、同じような装飾で祭りの準備で華やかになっていた。

ランタンが一定の距離を取りながら紐で吊るされ、夜はさぞ幻想的だろう。

今回開催されるのは、ブドウ祭りだ。

この辺境は、広大な葡萄畑がありワインの名産地なのだ。


馬車の窓に貼り付いて街の様子に目を輝かせていると、

高い丘に聳え立つ、黒く重厚な古城が見えてきた。

ああ、懐かしい。

全然変わってない、叔父様の邸。



「お待ちしておりました。

 ミラディナお嬢様、お久しぶりです」


「ご無沙汰してます。イオエル、息災でしたか?」


「はい、この通り元気にしております。

 お嬢様は、すっかり美しい淑女になられましたね。

 見惚れてしまいました」


「ふふっ、ありがとう。5年ぶりね。もう私も17だもの。

 イオエルは全然変わらないのね。むしろ、若返ったかしら?

 相変わらず洗練された身のこなしで素敵だわ」


「ははははっ。勿体無いお褒めの言葉、光栄です。

 さ、お部屋をご用意しておりますで、体をお休めください。

 侍女殿と侍従殿、護衛騎士殿も中へどうぞ」


「ありがとう、お世話になるわ。…叔父様は?」


「当主は、公務に出ております。

 晩餐までには戻りますので、ご心配なく」


「まあ、相変わらずお忙しいのね…」


「主に、祭の準備や手配の調整ですよ。

 今年はお嬢様が参加されるので、いつもより張り切っておられます」


「ふふっ、楽しみだわ♪こんな風に街に出るのも、久しぶりだもの」


「頑張ってきた自分へのご褒美と思って、存分に楽しんで行ってください」



ああ、多くは語らないけど、彼も知っているのだわ。


相変わらず優しくて気が利く家令だ。



片眼鏡で碧眼、スラリとした長身でスタイルがよく、

ウェーブヘアのロマンスグレーの初老の男性だが、

その年齢でも綺麗に老いており、醸し出す大人の色香がある。

叔父様の生い立ちや事情を理解した上で、

自ら付き従ったという、元傭兵の忠実な家臣。



私は、久しぶりの古城を見上げて、中へ足を踏み入れた。




* * * * * * *




「頼むから、同行してくれ!」


「無理です」


「私の側近だろう!」


「そうですが、生徒会の執務が忙しいのです。ミラディナ公爵令嬢が

 抜けてしまったし。…さらに余計な仕事を増やす殿下のせいで、

 まだ単位も取れてませんし…これでも私、やる事が腐る程あるんですよ?

 お陰様で胃がボロボロです」


「ヴァニ…頼む…」


「私の次に弁が立つ、ニーレ殿がいいのでは?」


「お前と同じ理由で断られた。アイツは神官補佐の務めもあるし…」


「では、ラピレ殿は」


「私の尻拭いは、もう嫌だと言われた。

 それに、魔法学科の野外遠征訓練があって忙しいそうだ」


「人望ないですねぇ…」


「アスラは護衛騎士として同行はしてくれるが、脳筋だし…」


「大体ですね、殿下は単位全部取れたんですか?」


「まだだ。でも、1ヶ月あれば取れるから出発は来月になる」


「……1ヶ月…」


「もしかして、それくらいなら都合つきそうか?」


「無理ですね」


「……そういえば、ウルドレット皇子殿下が、

 ミラディナ嬢と仲良かったな。領地に遊びに行くとも言っていたし、

 彼女の様子も聞きたいし、同行をお願いしてみるか…」


「は?隣国の皇子を自分の尻拭いに利用するんですか?

 ダメでしょ。どこまでバ…常識ないんですか」


「聞くだけ、聞いてみる。少しでも可能性に縋りたい」


「はあ…どうぞご勝手に」




* * * * * * *




「嫌だよ」


「な、なぜだ?」


「前も断ったけど。俺、君嫌いだし。

 なんで親友のミラディナ嬢に酷いことした奴に、

 今の彼女の状況とか、教えなきゃいけないの?」


「領地に行ったのだろう?彼女はどんな様子だった?」


「行ったけど、教えな~い」


「彼女は、私の妃候補なんだぞ?」


「だから何?俺には関係ないじゃん。

 自分の妃候補と連絡する手段も持ってないなんて、本当君ダメだね」

 

「私だって、こんな強引な手段…迷惑なのは重々承知だ。

 だが…母上の…王妃殿下の命令で…」


「何それ。最悪‼︎ 自分の意思じゃないんだ?

 やっぱ俺、君大嫌いだわ。どこまで彼女を馬鹿にする気だよ‼︎ 」


「そんなつもりはない。謝罪をしたいのは本気だ。

 それに、私は彼女を嫌ってなどいない」


「君の気持ちなんて知らないよ。何その中途半端な八方美人。

 本当に分かってる?ミラディナ嬢の献身を裏切って傷つけたんだよ?

 あれだけやらかして、今更彼女に許しを乞うわけ?」


「言ってみなければ、分からないではないかっ!

 彼女は冷たい態度を取っても、ずっと私の側にいてくれたのだ」


「君は彼女の優しさに付け込んで、好き勝手やった挙句、

 他の令嬢にうつつを抜かして彼女の尊厳を踏みにじった、ただの最低男。

 いい加減自覚しなよ。

 ああ、それと彼女のお陰で、俺もう単位全部取得したし、

 明日から休学して一時帰国するから。一応言っておく、じゃあね~」


「えっ?あっ、…まっ……え?」



すっかり人望を無くし、皆にそっぽを向かれる王太子殿下は、

自らの行いを悔いていた。


そして、ようやく、その要がミラディナ公爵令嬢だと気がついたが、

10年間、何をしても辛抱強く、いつも側で尽くしてくれた、当然の存在。  

その彼女の心がもう離れてしまったことを認められずにいた。

直接会って本人の口から聞くまで、到底納得できない。


誰にでも優しく、平等な博愛主義。


彼の場合は、悪い意味の軽率で短絡的な楽観主義であった。

絶対権力に守られ、周りの者達に傅かれていた者には、

自分が拒否されるなど、そう簡単に受け入れられないのだろう。




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