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【完結済】ミラディナは恋することをやめた   作者: 米野雪子


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1/17

さようなら、初恋



彼は、私にとって理想の王子様だった。

幼い女の子が夢見る、美しくて優しい、

まるで童話に出てくる王子様。


だから、私は信じて疑わなかった。

彼こそ私の運命の王子様だと。


それから私は、積極的に彼にアピールして、彼のために色々世話をやいた。

それが全て彼に嫌われる要因になり、裏目に出ていたのも気が付かずに…



“恋は盲目” とは、よく言ったものだ。


私は、彼以外何も見えていなかった。



王太子になった彼には、王太子妃候補の令嬢が4名選ばれた。

その中に公爵家令嬢の私も含まれ、私は益々舞い上がった。


でも、私が努力すればするほど、彼の心は離れてゆく。

私が話しかけたり近づくと、彼は分かりやすく顔を歪ませた。



もしかして…嫌われている?


彼と、私は、運命なのに?


そんなはずない…だって…彼はいつも優しかったもの。



その彼の優しさは王子様としての

誰にでも平等に向ける、社交辞令だったのに、

浮かれきった私には、理解できていなかった。



彼の冷たい態度に薄々気づいた頃、

貴族学院で、彼の横に妃候補でも何でもない男爵令嬢が、

親しげに寄り添っている現場を何度も見てしまったのだ。


それを見た私は、嫉妬で憤慨してしまい、

低位令嬢の身の程知らずな行動を咎めて注意した。

殿下の隣に立つのに、最低限のマナーもなってない彼女に指導したのだ。

だけど、隣にいる私の王子様が彼女を庇い、

私を益々冷たい目で見るようになった。




それで私は、やっと、


自分は彼にとって、特別な存在ではないと…


嫌われているのだと…私の片思いなのだと…


まるで夢から醒めたように、その勘違いを自覚して自分を恥じた。




その事実を思い知ってからは、

もう…悲しくて…苦しくて…

絶望して一晩中泣いて、

この世から消えてしまいたかった。


そして、次に来たのは、怒りだった。

これまでの努力を無駄にされ、

こんなに愛している私を見ない王子様に殺意が湧いた。

激しい激情に呑まれて、周りの人間に怒鳴り散らして、

自分本位の考えに呑み込まれて、全てを壊したくなった。


でも、幼少の頃から受けた淑女教育が身についていた私は、

そんなことを出来るほどの勇気と愚かさはない。



聖女にもなれない、


悪女にもなれない、


中途半端な自分の人間性が憎かった。




……では、どうすればいいの?




私のこの溢れ出る、今にも爆発しそうな気持ちを…

どう治めればいいの?



この感情を無理やり抑え込んで、

悲しみ、もがいて、泣いて、怒り狂い、何度も堂々巡りの感情を繰り返し、

とうとう私は疲れきってしまった。



そして、何もしたくない無の感情が訪れ、ふと楽になった。




ああ、そうか…




こんなに苦しいのなら…手放してしまえばいいのだわ。



もう、恋なんて…執着なんて…しなければいいのだ。



そうして、私は王太子妃候補の辞退を決意して、

夢見る童話の世界から、残酷な現実に戻ったのだった。




* * * * * * *




「国王陛下からも、辞退の承認をいただきましたわ。お父様、お兄様」


「そうか。しばらく見ないうちに、すっかり淑女だな。

 思ったより元気そうだが…大丈夫か?」


「ええ、大丈夫です。お兄様。本家領地経営は順調ですか?」


「ああ、順調だ。発展していて驚くぞ。お前も見にくるといい」


「そうですわね。久しぶりに見てみたいですわ。遊びに行っても?」


「勿論だ。いつでもおいで」


「本当に良かったのか?ミラディナ。

 小さな頃から、あんなに王太子殿下を慕って努力していただろう?」


「はい。お父様。振り向いてくれない人を追い続けるのは…疲れました。

 それに、不思議ですが…あんなに苦しかった胸の痛みがなくなりましたの」


「そうか…努力した10年が無駄になってしまったな」


「そんなことありませんわ。学んだこと全て私の糧になっております。

 おかげさまで5ヵ国語が堪能になりましたし、執務もこなせますし、

 淑女のマナー講師も出来る資格も、女官として働く資格もありますわ。

 それより、私の我が儘で妃候補を辞退いたしました事、

 ご理解とお許しをいただき、ありがとうございました。

 そして…公爵家の令嬢として役目を果たせず、申し訳ございませんでした」


「気にするな。我が家は王家の臣下ではあるが、

 後ろ盾など元々必要なかった。

 王妃が聡明なお前を気に入って、成立させた妃候補だったのだ。

 長い間大儀であった…ゆっくり休むといい。お前はもう自由だ」


「はい。もったいないお言葉、誠にありがとうございます。

 もう学院の単位も取り終えましたし、卒業まで半年ありますが、

 先ほどお兄様にも伺いましたが、休学してお兄様の本家領地の邸に

 行きたいと考えています。よろしいでしょうか?」


「ああ、好きにするといい。卒業パーティーには参加するのか?」


「ええ、その頃にはこちらのタウンハウスに一度帰ってきます」


「そうか、分かった。…その、時期尚早なのだが…

 候補を辞退したのは遅かれ早かれ、他の貴族の耳にも入ろう。

 婚約者がいないお前には、恐らく多くの縁談の申し込みが来る。

 どう対応すればいいだろうか?お前の気持ちを優先したい」


「そうですわね。領地管理経営の学びで忙しいとお断りしてください。

 縁談は当分お受けする気になりませんわ。

 婚姻は、立場上しなくてはならないのは理解しておりますが…

 落ち着くまで、少し待っていただきたいのです。

 重ねて我が儘を申し訳ありません…」


「わかった。全て断ろう。

 ここまでのお前の頑張りは、私がよく分かっている。

 自分を誇るといい」


「ありがとう存じます。お父様」


「…しかし…こんなに美しくて可愛い健気な妹を悲しませて…

 あんなに尽くして!淑女教育をこなし!社交で王族との繋がりを作って!

 王妃殿下の公務補佐もこなして!難題な妃教育も候補の中で一番早く

 終えたというのに!あの馬鹿王子は!こんな才媛に!

 一体何が不満なのだっ!」


「まあ、お兄様、落ち着いて。王族に不敬ですわよ?

 私はもういいのです。お気になさらず」


「そんなに簡単に忘れられる訳ないだろう…

 お前は人生の半分以上、あの王子の為に費やしてきたのだぞ?」


「……時間が…解決しますわ…」


「はあ…しかし、何を考えているんだ殿下は。

 人目も憚らず、男爵令嬢と逢瀬を重ねるなど…

 身分的に王妃は勿論、側妃も無理だ。愛妾にでもするつもりなのか?

 後見人を付けたところで、今から妃教育など到底間に合わないだろうに。

 お前が学んだ10年間を何だと思っているんだ…」


「殿下は、恋をしていらっしゃるのかも知れません…

 嫌われている…私の入る隙などありませんでしたわ」


「今はのぼせ上がって、自分の立場と周りが見えていないのだ。

 恋は人を強くするかも知れんが、同時に視野が狭くなり愚かにもする。

 冷静になった時、お前の良さに気づいて、すり寄ってくるかもしれん。

 もし、そうなった場合ミラディナはどうしたい?」


「…私の殿下への恋心は死にましたわ。望まれても受け入れる気はありません。

 私自身も口煩かったのは悪かったと思っています。 

 でも…煩わしいからと、向けられた嫌悪と冷遇…

 特にあの冷たい目は、私の心を凍えさせ、辞退する要因になり得ました。

 とても、私を愛してくださるとは思えません。

 …それに、また他の方へ目移りするかもしれませんでしょ?

 そう考えると婚姻しても、信頼関係を築けるとは思えませんわ。

 お父様にも先ほど言いましたが、落ち着きましたら、

 家格の釣り合う他の方に責務で、恋情なしで嫁ぎますわ」


「分かった。だが、無理に嫁ぐ必要はない。

 お前の一人ぐらい面倒見る余裕は充分あるからな?

 10年間、頑張ったな…私の自慢の妹だよミラディナ」


「ありがとうございます。プルシアンお兄様」



優しく微笑む、明るい金髪と碧眼のお父様とお兄様。

二人ともひと目で親子と分かるくらい似ている。

私は二人とは似ても似つかない、

お母様にそっくりな外見で、黒髪で銀色の瞳。


お母様は、私を出産して亡くなった。

忘形見の私をお父様とお兄様は溺愛してくれている。

好きな人に愛されなくても、家族がこんなに愛を与えてくれている。

それだけで、私は幸せだった。


だから、もういい。

私は、これ以上何も求めない。

もう…傷付きたくない。



どうしようもない焦燥感しか残らない “初恋” だった。



身を焼きながら、惨めにすがりつき、益々強くなる嫉妬、独占欲、執着。

焦がれて止まない一途な情熱を持て余して、私の心は破滅寸前。


私にとって、この感情は高揚感と同時に、まるで毒を飲んだ様な苦しみだった。


訳もなくイライラして、頭に血が上り、情緒が攻撃的で不安定。

抑えても、抑えても、押し寄せてくる、こんな感情に振り回され、

自分らしく冷静に判断できないのが、本当は嫌だった。



私はもっと、高潔な才媛で聡明な気高い公爵令嬢だったはず。



何とか正気に戻り、

その元凶に気がついて排除しただけ。



私の心のほとんどを独占して、支配していた…

この国の第一王子、ブラッド王太子殿下を。




「疲れた…」




そう呟き、ベッドに倒れ込み、

今までの日々をリセットするかのように、深く深く眠った。



こんな幕引きになるとは、

あの時の幼い私は、想像もしていなっただろう。



絵本から抜け出てきたような、キラキラした優しい王子様。

それに焦がれて求めて手を伸ばし、その隣に立ちたいと願った。


童話に出てくるヒロインのように、

諦めなければ、努力すれば…全て報われると心から信じていた。



彼は、私の理想で、憧れだった。


でも、現実は違った。


もう、終わってしまったのだ。




さようなら────私の初恋。





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