帰宅後
三題噺もどき―はっぴゃくじゅういち。
ぱたぱたと、窓を叩く音が聞こえてきた。
顔を上げると、レースカーテンに覆われた窓が、少しずつ濡れている。
太陽の光が入ってくることはなく、昼間の癖にどんよりと暗い。
ただでさえ日光の入りにくい我が家は、冷蔵庫の中にでもいるかのように寒い。
「……」
雨の予報は聞いていなかったが、まぁ、降られる前に帰ってこれてよかった。
この週末はかなり冷え込むとは聞いていたが……想像以上に寒くて学校に行くのをやめたくなったくらいだった。マフラーをしていても耳の先は冷えて痛んだし、鼻の奥も痛くなるし、スカートは風でめくれるしで、最悪な登下校だった。
……冬の時期はいつもこうだったはずなのだけど、今年は防寒具がいらない日もあったくらいなので感覚がおかしくなっている。
「……」
まぁ、もう家の中にいるわけだし、風に怯えることはないので。
とは言え、先に言ったように我が家は冷えている。家の中でも防寒具が必要かなと思うくらいには冷えている。
電気代が高くなっているとは聞いているが、さすがに寒すぎて動くのもやっとなので、暖房と炬燵を付けさせてもらおう。
「……」
しんとした家の中に、幽かに聞こえるモーターのような音。
今この家には私以外誰もいない。母は仕事だし、妹2人は部活だ。2人して運動部に入っているから感心する。土日も関係なく部活に勤しみ、学校のある日も遅くまで練習をして……私は動くことが基本的に嫌いなので、中学からずっと文化部だ。だから土日は休みだし、学校がある日でも早くに終わることもある。
今日は土曜日だから、部活は休みだ。
「……」
それでも、時刻は昼間を過ぎている。
土曜授業のあった今日は、午前中は学校に拘束されていた。
必要性があるのだろうかという授業。平日の授業だけで事足りるように調整しろよと思うが、自称進学校である我が校は、土曜授業をしたいのだろう。
「……」
大抵は何かのテストだったり、数学英語のどちらかの授業だったりする。
テストは眠くなるし、数学も英語も嫌いだから、私にとって土曜授業の利点なんてものは1つもない。……あるとしたら、あの子に会えることくらいだ。
「……」
台所に立ち、昼食の準備をしながらぼうっと考える。準備と言ってもたいしたことはしない。お湯を沸かしてインスタント味噌汁を作るのと、ラップを引いて適当におにぎりを作るくらい。
「……」
とりあえず、ラップ。
……昨日、歩いていた子はそういえば吹奏楽部だった。毎日部活があるだろうに、どうして一緒に歩いていたのだろう。
いやいや、そんなものにたいした理由などないだろうに。そもそも、私はあの子と一緒に帰るなんて約束はしていない。昨日は部活もあったし、図書館に行こうとしたのはたまたまだ。
「……」
きっと、玄関までとか、その手前までとか、クラスが一緒なのだから、出るタイミングは一緒なんだし、途中まで一緒なんてことはあるあるだろう。
私はそもそもクラスが違うのだから。
「……」
それに、今日は一緒に帰れたのだ。
それもたまたまだったけれど。
沢山の自転車が並ぶ駐輪場に向かう途中、すでに自転車を押していたあの子とすれ違っただけで。お互い、気づいたから、一緒に帰ろうとなっただけで。
「……」
それでもまぁ、嬉しいことに変わりはない。
昨日の事はかき消せないけれど。
「……ぁっち!」
ぼうっとしていたせいで、水道の温度調整を間違えた。
蛇口を回転させて温度調整をするのだけど、それを最大まで熱くしていたらしい。
手をさしだしたら、ただでさえ冷えている指先がじんじんと痛んだ。
「――っすぅ」
まだ麻痺しているような感覚のある手で、なんとか温度を調整する。
……というか、私はなぜ水を出しているのか。昼食の準備に必要なくないか。
ポットの中にはすでに水がはいっているから、スイッチを押すだけだし、ラップはもう既に引いてしゃもじで……。あぁ、これを濡らそうと思って。
「……」
シンク横に置いてあったしゃもじを手に取り、その先を濡らす。
流れていた水をとめ、忘れていた電気ポットのスイッチを入れる。
「……」
ぼうっとしすぎるのもよくないな。
さっさと昼食を食べて、適当にゲームでもしていよう。
お題:拘束・雨・台所




