第三話
岸部は退学処分を受け、俺と黛は教頭から説教を受けてトボトボと帰路についた。地に足をつけている筈なのに、どこか無重力を味わっている様な感覚がして気持ち悪い。
「『あのね、君達。今回の問題を楽観的に捉えすぎてないかね?』って言ってた時のゴミの顔…迫力あって怖かったよな〜。」
「五味教頭に頭に来るのは分かるけど、僕達のやった事は他の生徒達への妨害みたいなモンだから当たり前でしょ。影山先生の顔もどこか哀しそうだったし…」
グチグチ言っていても駄目なのは分かってる。けれど何か垂れてないと敗北している様な気がするのだ。側から見たら不祥事がバレてタラタラと言い訳してるガキと自分は同じだという事は分かってるのに。
「明日新一年生が来る事を願おうよ。」
「そうだな。」
俺達は気まずさを拭い切れなくなったので、さっさと小走りで家にそれぞれ向かった。
帰れば、母と妹が俺を待っていた。相変わらず父は居ない。小学校低学年の頃は父と会えない度に泣きじゃくりそうになる位には落ち込んでいたが、成長した今ではもう寂しいという感情すら無くなった。帰ってこない理由はシンプルに仕事なので、不倫や賭博なんていう不健全かつ不愉快なモノではないので、真っ当に憧れを抱ける。
「浮かない顔してどうしたの?達也。」
「母さん、心配しないでくれよ。俺はいつだって元気ピンピン・お肌ピチピチなんだぜ。」
俺は心配されたのが恥ずかしかったので、いつもは言わないジョークを飛ばして平静を保とうとした。
「三流のジョークは聞き飽きたよ、兄さん。夕御飯待って損した気分になったんだけど…」
「そんな事言わないの!兄弟の事を悪く言う子にはハヤシライスあげません!」
「ごめんって!」
母は雪村 敦子、綺麗なルーズサイドテールが特徴の普通の専業主婦だ。料理は家族の色眼鏡抜きで美味い。
妹は雪村 美希、育ち盛りで斜に構えている生意気な妹だ。中学2年生らしく、中途半端に大人ぶっているのが少し癪だ。
「手洗ってくる。」
俺はいつも通りの光景に安堵し、夕食を食べる準備をした。
「むかつのぼうはのうなの?」
妹はハヤシライスを口一杯に含んで、俺に聞いてきた。行儀を知ってほしい。そのままでは人間からリスに変貌するぞ。俺は彼女とは逆にゆったりと上品にハヤシライスを口へ運ぶ。兄妹でこうも育ちの差が出るものか?
「なんて?」
どうしても何か伝えたいらしく、俺の疑問を聞いて即座に口の中に充満しているであろうルーを飲み込んだ。
「だ・か・ら、部活の方はどうなのさ!」
「あ、そんだけかよ。」
俺は拍子抜けした。そんなに急いでいるモンだから、てっきり学業だとか恋愛だとかそういう話かと思ってたのに…。
「特に進展は無いよ。そんな事気にするより食事に集中しろよ、冷めちまうぞ。」
「そうよ、別に達也の部活と貴方には何の関係性もないじゃない?」
俺がそっけなく返した事に加えて母からの真っ当な指摘をくらった事で、萎みかけた風船をまた膨らませる時みたいに頬を膨らませた。ご立腹の様だ。
「ご馳走様。じゃあ風呂入るわ。」
時間が経っても不安は拭い切れない。風呂に浸かりながら、ストレス発散の方法を考えていた。




