第二話
「印刷終わったよ!」
我那覇が上半身を隠す程大量のチラシを抱えながら、駿馬の様に素早く走って部室に帰還してきた。
「でかしたぞ!我那覇!」
「これで女子部員増やしましょう!七瀬副部長!」
副部長の七瀬先輩と我那覇は期待に胸を膨らませ、二人で盛り上がっていた。二人の頭には花畑がきっと広がっているんだろう、いつもは見れない綺麗な笑顔が証拠だ。
「もう美術部とサッカー部はチラシばら撒いてるよ。」
「部活紹介のアナウンスもまだなのに…。フライングスタートかよ。」
黛と俺は、他の部活の様子を見て愚痴をこぼした。
「私達もやろうぜ。私と我那覇は待ち伏せ、黛と雪村はここにある20枚のポスターを貼り出ししよう。」
「はいはい、分かりました。」「了解。」
各校舎にある掲示板にペタペタとポスターを貼りながら、校内を練り回った。
「藤堂部長・鬼塚先輩と並んで別所もスピーチを行うとはな。アイツの性格的に前に出るの向いてないだろ。」
俺は部活紹介に出るメンバーについて疑問を口にした。俺達2人は他の部員とは違って、もう仕事は無い。後は部室で皆の頑張りを見るだけ。黛のいつ見ても煌びやかな金の腕時計を見たらもう昼飯時だ、部活紹介も終わった筈。新たな部員の顔を見るのが楽しみだ。
「2年部員の中で一番マトモなのは別所くんでしょ。僕はモノグサ、君は捻くれ者、我那覇さんはポジティブ馬鹿っていのかな。」
俺達は一通り作業を終え、駄弁りながら部室へと戻る道を辿っていった。
「新聞部は廃部なんだよ!俺の力によってなぁ!」
俺達を馬鹿にする様にロン毛の不良が話しかけてきた。奴の眼差しから俺は恨みや八つ当たりに近い物を感じた。彼は軽音楽部所属の岸部、典型的なヤンキーで悪い噂が絶えない男だ。以前にコイツの喫煙を俺達が大々的に記事にした事で部の立場が無くなり、部活内でも腹れ物扱いを受けているらしい。
「君如きに潰される程落ちぶれちゃいないけどね。」
黛からの言葉が気に障ったらしく、分かりやすく歯軋りをした。馬鹿というのは常に1手先どころか2手先の自分の行動を分かりやすく示してくれる、証拠に彼はブレザーのポケットからカッターナイフを取り出した。暴力沙汰をここで起こしたらコイツは退学コース決定だ。元より奴の様な不良は社会の歯車にはなれはしないからそんな選択が最善だろう。
「生徒会の奴らから今の時期は新聞部に何やっても良いって言われてんだよ。」
彼はニヒヒと気持ち悪く微笑み、舌舐めずりをした。
(『埃が服着て歩いてる』って周りから評価されてる奴の癖に粋がるなよ。)
俺は内心呟いた。
「それで僕達に辻斬りかますってのかい?春休み終わってから馬鹿に拍車がかかってるね。」
「お前らも今からこんな風にズタズタにしてやるよ。」
俺からの煽りに反応し、俺達が貼った勧誘ポスターの内の一つをカッターでズタズタに切り裂きやがった。どうやら本気らしい、俺達は奴に対して怒りと危機感を覚えた。この感覚はきっと害獣や害虫を見た時の反応を思い出し、俺は拳を握りしめ、黛は眉間に皺を寄せていた。
「黛、こんなカスに構うなよ。俺達の株を下げる様な奴に構ってたら時間潰れちまうぞ。」
俺達は奴の余裕・生徒会の威信の両方を崩す為に校内を逃げ回る事を決めた。理由は簡単、ケガを負いたくないからだ。
「俺達、無敵の人に襲われてまーす。」「誰か助けてー。そして良ければ新聞部に入って下さーい。」
「お前らのせいで俺の人生無茶苦茶になったんだ!絶対許さねえからな!」
俺達はわざとらしく悲鳴を上げながら校内を走り回った。殆どの人が第四体育館に居たので、幸いにもこの無様な姿は誰にも見られなかった事は良かった。
最終的に校舎を出て、校庭に俺達は出た。各部活紹介もちょうど終わった頃らしく、沢山の人でごったがえしている。ここまで大人数に見られるのは嫌だが、部活の為ならばしょうがない。
「お前ら2人を潰せば…俺に青春が舞い戻ってくる筈なんだよ!あの記事が無かったら今頃俺は…オレはァ!」
「自業自得でそこまで被害者意識が強いの気持ち悪いぞ。」「そのカッターしまいなよ。」
奴はとことん他責思考を拗らせており、説得は不可能。ならば暴力、だが解決しようもんならカッターの刃が俺達の喉元を掻っ切るのは明白である為、迂闊に手出しする事は難しい。仮に解決できたとしても生徒会や校長の息がかかってるのは奴の言葉通りなら間違い無いので、仮に出来たとしても俺達は廃部もしくは退学の可能性が高い。どの道、ゲームオーバーだ。
「何あの人達…」「星峯高校って一応名門なんだよね?」「新聞部って噂通りなのかな…」「あんな不良いんのかよ…」
新一年生と思われる人々が口々に言う。宣伝としてはイマイチかも…俺達は戦犯扱いされるかもしれない、そういう嫌な想いが俺の中に駆け巡る。俺達が若干の諦めを覚えたら、奴は更に暴走した。
「オイオイ、お前らさっき俺が言った事聞いてなかったのか?今の俺は何しても良いんだぜ…こんな事でもなあ!」
そう言って近くの1年女子を人質に取った。姿はテレビの事件の中継とかでたまにいる立てこもり犯そっくりだ。人質の女子は興奮してる彼とは反対に悲鳴を上げるどころか、瞬きすらしていなかったのが正直言って気味が悪い。
「鬼ごっこ続行はもうできねえよな?お嬢ちゃんを傷つけて逃げちまう、なんてのは正義面してるお前らには出来ない話だよな。なぁ、素直に俺に"岸部様に迷惑かけてすみませんでした、詫びとして部を廃部します。"って言えよ!」
「1年の坊主・嬢ちゃん!俺様からの一度きりの宣伝だからよーく覚えておけよ、こんなカス共がいる新聞部より…イケイケの軽音学部に入ってバンドを組もうぜ!」
どこまでも見下げ果てる姿を自ら大衆に曝け出した。奴の中には悪=格好いいとでも思っているのだろうか?だとしたらガキの思考にも程がある。
(黛、謝るフリして岸部に足元の小石を拾え。)
(分かったよ…)
俺は奴の道化師じみた滑稽な様子を横目に黛に指示した。石といっても砂利に混じっている物なのでとても小さく、仕返しにはピッタリだ。
「すみませんでした━━━━━━━━━━━━っとでも言うと思ったか、バカヤロー!」
「君なんかの指示に従う位だったら死んだ方がマシだね!」
俺達は作戦通り、奴の頭目掛けて小石を投げた。
「ぐふっ!?」
見事に命中、伝説の弓使い ロビン・フッドもビックリな正確さを俺達は持っているらしい。
「すげえ!カッケェ!」「二人共イケメンじゃない?」等の溢れんばかりの言霊達が俺達に向かって飛んでくる。
人質の女性を解放した事で周囲の人からいつもは貰わない称賛をもらえた。これが功績ってやつか。




