きみに贈る最期の『××』
荷物が届いた。どこの誰から届いたのかもわからない、“自分”宛ての“最後”の荷物が。
おかしい。
その荷物には宛名も差出人も書かれていなかった。
しかし、その謎の荷物を、わたしは確かに“知っていた”。
まるで祈りを染めるかのような聖なる緑青の小包の中には、光そのものが青に変わったかのようなガラス瓶と、黒い封筒が収められている。
黒い封筒の裏には、無限記号と鍵を組み合わせた不可解な意匠――「零番物流」のロゴがはっきりと押されていた。
知っている。
やはり、わたしは“知っている”。
いや、しかし、間違いなくそんなはずはない。
零番物流は……だって、あれは絵空事。誰かが作り出した都市伝説じゃないのか?
それでも、わたしは確かにその不可解な物流会社を知っていた。
零番物流の正式名称は「零番輸送サービス株式会社」。
その崇高なる経営理念は、悲しみに覆われた世界を幸せな笑顔で満たし、絶望に沈む人々へ生きる希望を届けることにある。
小包に収められていた“希望”を、わたしは優しく、そしてしっかりと手に持った。
それは輝く宝石のようで、人が持つ善性そのもののようにきらめいていた。
ゆっくりと目を閉じる。まぶたの奥であふれる光の洪水がチカチカと迸り、その中には自分がこれまで愛した“すべての相手”からの“記憶の断片”があった。
融合していく。全ての記憶と想いが、わたしの凍てついた『心』を、未練という名の懺悔と後悔と共にひとつへと溶かしていく。
気づくと、わたしの身体は“緑青の配送物”へと変わっていた。
情念は静かな愛情へと移ろい、執念は燃える怨念へと変わる。
怨念はやがて赦しへ、そして祈りへと昇華していく。
この世のすべての悪意や憎悪、それらはわたしの宿業――すなわち人の業。
やがてそれらは、他者の幸せや世界の調和を願う力へと反転する。
“××”の想いが込められた“緑青の配送物”の前に、赤い瞳の“異形”が現れた。
分かっている。彼女は、零番物流の“次の配達員”だ。
今この時より、わたしは零番物流の慈愛に満ちた配送物となった。
『「零」から「壱」へ。零番物流は、やがて世界のすべてを創り出す』
あなたへ誠心誠意、純白の真心を。
永遠の光に包まれたこの「常光の虚殻」に祈りが芽吹く。
わたしたち希望と絶望の配送物は、完璧なる「永遠の楽園」を目指す。
それが人間に悲しみをもたらそうとも、光を失ってこそ、人はより強く光り輝くのだ。
最後に荷物となったわたしが届けられるのは――亡き未来への“心核”か。
それとも、大切な恋人への“本当の想い”か。
ふふっ、ほら。わからない?
ねえ、少しだけ背後を振り向いてみて。
わたしにとって誰よりも大切な“あなたのもと”に、わたしは今、“××”となって届けられたよ。
この世で最高に幸せなあなたを、さらに至高の幸せへと昇らせるために。
わたしは今、“あなた”に届けられた。
もう、あなたを悲しみに暮れさせはしない。
それが、人と世界をアイする零番物流の“本当”の経営理念だから。
いつだって、わたしはあなたをアイしている。
これにて、第一部・完です。
最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
ご覧くださった皆さまに、心より感謝申し上げます。