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6:深夜の遭遇


深夜0時。東山トンネルを抜ける道路で、大洲無何有おおすむかうが運転席に座っていた。助手席には六識滴ろくしきしずくが静かに座っている。


「あいつ、大丈夫だろうか」

大洲が呟くと、滴が小さく頷いた。


「匿坂さんなら大丈夫ですよ、綿花さんもついてますし。それより、あれは何でしょうか」

滴が前方を指差した。パトカーが5台、護送車が2台、計7台の車両が一団となって走っている。緊急車両のライトが夜の道路を照らしていた。


「重要犯の護送か?物騒だな」

大洲は車間距離を大きく開けた。巻き込まれるのは御免だった。その時、前方のトンネルから黒い衝撃波が噴き出した。


(ドゴォォォン!)


護送車が宙に舞い上がり、道路に叩きつけられる。パトカーも次々と横転していく。


「何だ、あれは!」

大洲が急ブレーキを踏む。滴も身を乗り出してトンネルの出口を見つめた。

煙の中から、巨大な影が現れる。

身長は2メートルを超え、全身を黒い学ランのようなスーツで包んでいる。顔は暗闇に隠れて見えないが、赤い目だけがギラギラと光っていた。


忌憚きたん!?」


大洲と滴が同時に声を上げた。

知る人ぞ知る、全国指名手配のS級凶悪犯。懸賞金5億円。各地で破壊活動を繰り返す危険人物。だが今は殺し屋として活動していると、一部の業界で噂されている。

忌憚は横転した護送車に近づいた。車体を片手で引き裂くと、中から血まみれの囚人を引きずり出した。


「見つけたぞ、武内田 康夫」

囚人は恐怖で震えていた。


「た、頼む!金ならいくらでも出す!」

「依頼主からの伝言だ。裏切り者には死を」

忌憚が囚人の頭を鷲掴みにした。


(グシャッ!)


頭蓋骨が潰れる音がトンネル内に響いた。囚人は即死した。


「ハハハハ…任務完了だ」

忌憚が満足そうに笑う。

その時、横転したパトカーから武装警官たちが這い出してきた。30人近い警官が拳銃を構え、忌憚を包囲する。


「動くな!異能力者だな?手を挙げて膝を地面につけろ!」

「貴様らの言うことに従う義務が、俺にあるのか?」

「従わないなら、撃つぞ!」

「やってみろ警官風情が」


「「ーーー総員、撃てぇぇぇ!!!」」

一斉に拳銃が火を噴いた。バンバンバン!数十発の弾丸が忌憚に向かって飛んでいく。

しかし忌憚は紫色の濃い輝きを纏っており、全ての弾丸がそれに弾かれた。傷一つ付いていない。


「無駄だ」

忌憚が歩きながら呟くと、周囲を歪ませるなにかが発射された。


(ドガァァァン!)


10人以上の警官が宙に舞い上がり、道路に叩きつけられた。即死だった。


「ひっ…化け物が!」

残った警官たちが電流の走る警棒を振り回して殴りかかるが、先ほどと同じく忌憚に届く気配はない。


夜爪斬やつめざん!」

忌憚の爪が黒いエネルギーを纏って伸びた。警官たちが次々と切り裂かれていく。


「た、助けて…」

「一旦退却だ!応援を呼ぶぞ!」

しかし逃げる間もなく、忌憚の攻撃で警官たちは蹴散らされていった。

大洲と滴は車内から呆然とその光景を見つめていた。30人くらいの武装警官が一人の男に完全に蹂躙されている。これが現実なのか。


「なんだ?貴様で終わりか」

最後に残った一人の警官が、忌憚に掴まれて宙に舞った。


「あぁぁ…うわあああああ!」

警官の身体が大洲の車に向かって投げ飛ばされてくる。


(ドガァン!)


警官がフロントガラスに激突し、ガラスが蜘蛛の巣状に割れた。


「うっ…」

警官は気を失い、車のボンネットから地面に転げ落ちていった。

そこで大洲と滴は我に帰った。車のヘッドライトが忌憚を照らし、大洲の顔も明かりに浮かび上がっていた。忌憚と大洲の目が合う。


「…見たな?」

忌憚の声が低く響いた。


「くそ、滴!どこかに掴まれ!」

大洲は素早くシフトレバーをリバースに入れて、アクセルを全開にした。車は勢いよく後退して、忌憚から離れていく。

しかし初速は忌憚の方が速かった。一瞬で車に追いつくと、片手を前に出した。


(ドガァン!)


車は忌憚の手のひらで完全に停止した。フロントガラスは振動で完全に砕け散り、車内のものは全て前方に飛び散る。滴が前のめりに倒れ、大洲も額を打って血を流した。


「見てはいけないものを見たな」

忌憚が車を片手で持ち上げる。そして後方に向かって投げ飛ばした。

車は宙を舞い、トンネルの外まで飛ばされて道路脇の斜面に激突した。


「がはっ」

「きゃ!」

大洲が血を吐く。滴も頭を打って意識が朦朧としていた。


「大洲さん…」

「大丈夫だ。だが、まずいな」

忌憚がゆっくりとトンネルから歩いてくる。夜の闇がその身体に絡みつくように揺らめいていた。


「目撃者は消さなければならない。それが俺の流儀だ」


忌憚がノーモーションで衝撃波のようなものを放つ。予備動作が全くないため、なんとなくでしかないがこの短時間で何度も見たためか、不自然な空間の揺らぎを大洲は感じ取っていた。が避けれるかどうかは別の問題だった。回避は間に合わない。


(ドガァン!)


大洲の左肩に衝撃波がかすり、血が吹き出した。


「大洲さん!」

「慌てるな、こんな傷どうってことない」

大洲が立ち上がり、コートの内側からシルバーのリボルバーを取り出した。


「弾丸生成」

右手の指先に弾丸が現れる。それを瞬時にリボルバーに装填し、発砲。装填から発砲まで一瞬の出来事だった。


(バン!)


弾丸は忌憚の額を狙ったが、着弾することはなかった。見えない壁のようなものに当たって止まった弾丸は、音を立てながら地面へと転がり落ちた。


「ほう、貴様も異能力者か」

忌憚が薄く笑った。その表情は獲物を弄ぶ肉食獣のようだった。


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