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3-5:執念


-----



ーーー数時間前。

向かい合う匿坂と綿花。


「問題は、奴の記憶操作だ」


「そうですね。一度食らいでもしたら…」


「なんとかならないものか」


綿花の目が光った。


「先輩、記憶操作の対策をしてから行きましょう」


「対策だと?」


「私の恩師を呼びます。催眠術が得意な方なんです」


綿花はスマホを取り出した。


涙山るいざんコバヤシ先生。警察学校時代に心理学を教わりました」



夕方。

匿坂と綿花は都内のマンションを訪れていた。


八十歳を超えたであろう小柄な老婆が、穏やかな笑みで出迎えた。


「綿花ちゃん、久しぶりだわね」


「先生、お忙しい中ありがとうございます」


涙山は綿花の頭を優しく撫でた。


「記憶操作への対策が必要、ということね」


「はい。相手は政府の異能力者で、非常に強力です」


涙山は頷くと。匿坂を見上げた。


「あなたが匿坂さんね。話は聞いているわ」


「よろしくお願いします」


「座って。少しだけ催眠をかけます」


彼女は小さなペンダントを取り出した。

レンズが光を反射して、規則的にゆらめく。


「これを見つめて。呼吸をゆっくり」


匿坂の意識が薄れていく。


「記憶操作を受けても、深層心理では本当の記憶が残る」


遠くから涙山の声が響く。


「表面的には書き換えられても、信念は消えない。あなたのその想いが、自分自身を守るのよ」


催眠が終わると、涙山は小瓶を差し出した。


「昔、公安研究所で使っていた試験薬が少し残っていてね。記憶中枢を一時的に保護する作用があるの」


「副作用は?」


「軽い頭痛と吐き気。でもすぐに治まるわ」


「効果は?」


「半日よ、十分でしょう」


匿坂は頷き、薬を飲み干した。


「これで準備完了ね」


涙山は穏やかに言った。


「でも覚えておいて。催眠も薬も万能じゃない。頼るものじゃなく、信じる心の補助輪よ」


「分かりました。ありがとうございます」


-----


そして、現在。


匿坂は日妻を見下ろした。


「催眠暗示と薬物で、お前の記憶消去と異能封印を無効化した」


「馬鹿な…そんな小細工で、俺の力を…!」


「お前の記憶操作は完璧じゃない。強い意志と適切な対策があれば防げる」


匿坂はしゃがみ込み、日妻の喉元に溶解液を滴らせた指を近づけた。


「これで終わりだ」


日妻の瞳に、わずかな怯えが宿る。

匿坂は静かに息を吐いた。



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