2-6:入院
目を覚ますと、白い天井が見えた。
「ここは」
匿坂は体を起こそうとしたが、全身に鋭い痛みが走る。
「うっ!」
「先輩、動かないでください」
綿花の声が聞こえた。ベッドの横に座っている。
「綿花、俺は…」
「救急車で運ばれました。全身打撲に裂傷多数、肋骨も2本折れてます」
綿花は呆れた顔で匿坂を見た。
「医者が言ってましたよ。よく生きてますねって」
「そうか…」
匿坂は窓の外を見た。朝日が差し込んでいる。
「どれくらい寝てた?」
「丸一日です」
「そんなに…」
匿坂はベッドに体を預けた。体中が痛む。
「ここは、どこの病院なんだ?」
「蓮子さんと同じ病院ですよ」
「本当か!?こんな姿見られたら、笑われそうだ…」
綿花が小さく笑う。
「さっきまでここにいましたけど、朝食を食べに行きました。蓮子さんも本調子じゃないのに、ずっと付き添ってたんですよ」
「そうか、後でお礼しないとな。…そうだ!コレクトレスは?」
「完全に逃げられました。警察が捜索してますが、手がかりなしです」
綿花の表情が曇る。
「異能対策課からも連絡がありました。一般人なんだから、無理するなって怒られましたよ」
「面目ない」
匿坂は苦笑いした。
その時、ドアがノックされた。
「失礼します」
看護師が入ってくる。
「匿坂さん、目が覚めましたね。お加減はいかがですか?」
「痛いが生きてるし、多分大丈夫だ」
「そうですか。では先生を呼びますね」
看護師が出ていく。
「先輩」
綿花が真剣な顔で匿坂を見た。
「もう無茶はしないでください。死ぬかと思いました」
「すまん」
「謝るだけじゃダメです。次からは、もっと慎重に」
綿花の目に涙が滲んでいる。
「私、先輩を失いたくないんです」
「…分かった」
匿坂は頷いた。
「気をつける」
「本当ですか?」
「ああ」
綿花は涙を拭った。
「約束ですよ」
「約束だ」
その時、再びドアが開いた。
「匿坂さん、起きたんですね!」
蓮子が朝食のトレイを持って入ってくる。
「良かった、本当に良かった」
蓮子も目に涙を浮かべている。
「心配かけたな」
「いえ、私こそ…私のせいで」
「お前のせいじゃない」
匿坂は首を横に振った。
「コレクトレスが悪いんだ。お前は何も悪くない」
「でも…」
「お前の援護がなければ、俺は死んでたかもしれない」
匿坂は蓮子を見た。
「ありがとう、蓮子」
「匿坂さん…」
蓮子は涙を流しながら頷いた。
しかし、匿坂の心の中には、まだコレクトレスへの警戒が残っている。
『リベンジするわ』
コレクトレスの最後の言葉が脳裏に蘇る。
『次はSランクも見せてあげる』
(Sランクの能力…一体どんな力なんだ)
匿坂は天井を見上げた。
長い戦いの予感がした。
◇
数日後、匿坂は退院の準備をしていた。
「本当に大丈夫なんですか?」
綿花が心配そうに付き添っている。
「問題ない。医者も驚いてたが、回復は順調だ」
「無理しないでくださいね」
「分かってる」
匿坂は歩き出した。
病室の廊下で、蓮子が笑顔で待っていた。
「匿坂さん、私より後に来たのにもう退院ですか?」
「蓮子」
「ふふ、冗談です。退院、おめでとうございます」
蓮子が頭を下げる。
「本当にありがとうございました」
「礼を言うのはこっちだ」
匿坂は蓮子を見た。
「また何かあったら、連絡してくれ」
匿坂は名刺を渡した。
「はい。何もなくても連絡しますね」
「まあ…好きにしてくれ」
蓮子は名刺を受け取り、笑顔を見せた。
「またね蓮子ちゃん」
「じゃあな」
匿坂と綿花は蓮子に手を振りながら、病院を後にした。
空は晴れていたが、匿坂の心には暗雲が立ち込めている。
(コレクトレス…次は必ず捕まえる)
匿坂は拳を握った。




