episode2
これから始まるのは私の華やかで晴れやかな引き篭り逃避生活。
なんてことはなく、それから1年後、
試験的に採用されたエスカレーター式の中高大一貫校、学校に行かずとも
勝手に上がった高校1年生の梅雨にしては晴れすぎた日、私にとっての最悪が現れた。
照明の消えた屋内を照らす玄関からの光を後光の様に浴び、貼り付けたような笑顔で私を強引に引き摺り出した。
そして現在はと言うと、
「「「地元貢献特設委員会!?」」」
私の黒歴史確定の初登校から早、1年。
始業式とホームルームを終え廃部寸前から奇跡を激写したことにより建て直した新聞部の部室にてそんな声が響いた。
声の主は、私と同級生で今年から同じクラスの小鳥遊リホ、
そしてたったいま何時かの私の様にヒナに引き摺られながら入部した1年生男子の井上エイトだ。
「そう!しかも校長より上の人からのお墨付き!」
ヒナがA4サイズの紙を迎え合わせで1つにした机真ん中に置く。
「お墨付き?」「上の人?」
リホと私が問いかけると、
「そこら辺私も良く分かんないんだけど、なんか校長室呼ばれてたじゃんさっき」
そこで思い出す、始業式が終わり各々教室へ戻る中大音量で校内中にヒナを呼び出す放送が流れていた。
「「あー」」
私とリホにとっては日常だ。
そして恐らく、2年生全員にとっても。
だから意識していなかった。
「なにその、いつもの事だから気にしなかったみたいなノリ、酷くない?
私にも羞恥心って物が有るんだよ!?」
ヒナが拳を握り何か悔しそうな顔をしている。
「それで何があったんですか?」
エトが話を戻すように問いかけてくれた。
グッジョブエイトくん。
「それで?って…。
で、なんだけどね、
校長室行ったらオクセンと校長と見たことないスーツなんだけどチャラそうな男の人が居てね、メン・イン・ブラックキター!とか思ったんだけど──」
と、そこで区切る。
何やら言葉を選んでいるようだ。
因みにオクセンとは今年から担任になった奥村38歳男性教師だ。
「まー、色々あって部活から委員会になりました、って感じ、うん。」
コレ見てよ、と紙を見るよう促す。
本年度より、
新設した地元貢献特設委員会について
・ 委 員 長 :海里ヒナ
・副委員長:青葉ルア
と、する。異論は認めねぇ。
(原文)
「───え…?」
間の抜けた声が出てしまった。
「えー!2人だけ役職アリなの?じゃ、アタシ書記やろうかなーエトくんは会計でもやる?」
「え、僕もですか?部活じゃないならこれも無効…」
「逃がさないよ」
リホとエトがそんなやり取りをする。
「よろしくね、副委員長青葉さん」
そしてあの時と同じ様にニコニコと笑顔を向けてヒナは私にそう言った。
津風ヶ谷高校裏門 時刻18時48分
「ツブガヤ高校ね…いい加減名前変えりゃいいのに」
1人の男性忌々しげにがそう呟き煙草を吸おうとスーツの胸ポケットから取り出す。
1本口に咥え火を付けようとしたその時、
「ここ喫煙ですよ、
吸うなら駅近くの喫煙所行ってください。」
背後から声をかけられた。
ウルフカットの暗い赤髪少女だ。
恐らく地毛だろう。
2000年以降頭髪がカラフルな子供が増えた。
無論、染めた等ではない、地毛として色が着いているのだ。
中にはインナーイラズと呼ばれる二色の頭髪色を持つレアカラーも居る。
彼らは一環して████適性と高い██応用能力を持つ。
最もいまの時代には必要のない事だ。
赤髪の少女は男性が今朝あった人物でもある。
「これはこれは失敬、
いつの世もこの時代は喫煙者には厳しいね。
それで、なんか用かい?この時間まで残ってるとは悪い生徒さんだ。
確か、このシーズンは18時半完全下校じゃなかったか?オバケ出ちまうぞ〜」
ばぁ!とお化けのジェスチャーをする。
「用事なら有ります、この後2人で話せませんか?今日は始業式だったので荷物はこれだけです」
少女が軽く体を捩る姿勢を取ると背中のリュックが見えた。
「オバケはスルーね。
夜間に俺みたいなスーツ姿のナイスガイと一緒なんて、見られたら問題になっちゃうんじゃない?」
これで怯んで帰ってくれれば上場、男性にとっては理想系だ。
──しかし、目の前の少女、
海里ヒナは引かなかった。
「見られない手段を持ってるはずです、貴方たちなら」
そこで何かを察したように男性が笑う。
「ははは、ははははは!!」
次第に大声で笑い出した。
一瞬、予想とは違った反応を取られ少女、ヒナは怯んだ様な顔を見せるが、
「はなははは!分かった。教えてやる」
嘘ついてもバレてそうだしな、と呟き。
「その前に1つ、確認したいことがある
ソレを知ってるのはお前だけか?」
男性がヒナに指を刺して問いかける。
「いいえ、でも答えられません。安全の保証が出来ませんから」
最低限の言葉を選んで返した。
「………まぁ、良いだろう張り付いてきた根性に免じてサービスだ」
男性がパチン!と指を鳴らすと同時、
ただ、先程までからずっと有ったように裏門前の車道に黒塗りのワンボックスカーが現れた。
よく見ると熱でも発しているのか蜃気楼のように揺らいで見える。
今の季節で煙が出ると言うことはかなりの熱なのだろうか。
この中に入れられるのだろうか。
ヒナは内心そんな事を思うが、それに気がついたのか男性が車体に触れる。
その手の動きに合わせて煙は宙を舞う。
「熱くて煙が出てるわけじゃねーよ、コーティングだコーティング。今剥がれてたのも本部でまた補充して貰える」
言ってる意味を汲むのなら人の目には見えない光学迷彩か何かだろうか。
中高大一貫の比較的良い高校のはずだがヒナには理解ができなかったのだ。
ヒナには人に言えないある特殊な力がある、無論それを知るのは当人と片手で数えれる程の人間だけだ。
常人なら理解も触れる事もないで有ろう事象。
それらを経験してきたヒナですら怯む様な事だ。
「………」
警戒するヒナを横目に、
男性が後部座席の扉をスライドさせ、
「乗るんだろ、なら来いよ」
ほら、早く。と手招きし運転席へと移動した。
警戒心を削ぐ様な声音で言われ、
「あっ、はい、行きます乗ります」
と、答えヒナは車へと乗り込むのだった。
「どうしてこんなに剥がれてるんですか?」
「いあ、そのちょっとかっこつけようかな、なんて……へへへ」
「へへへ、じゃないですよこれかなり高いんですからね!」
「イテテテ、良いじゃねぇか金出すの俺の会社なんだしよ!」
「そういう問題では有りません、それにまだ貴方の会社では無いですよね?」
ヒナは目の前で起きている光景に目を疑った。
先程までのミステリアスさは何処へやら、スーツの男性が男性と同じか少し下程の年齢の女性に耳を摘まられ公論していた。
口論と言うよりは説教に近い。
「……事態は理解出来ました、昨年末の情報とも合致しますし事実確認含めて整合性は取れてると判断します」
と、掛けていた眼鏡の位置を直す。
「お見苦しいところをお見せして申し訳ございません。海里ヒナさん」
女性はヒナの方を向くと頭を下げた。
「あっ、いえいえお構いなく、私は本来この場所に来ては行けない立場、なんですよね?」
ヒナが何処か悟った、と言うよりも知っているように答える。
「…やはり解ってしまいますよね。
では、隠し事はナシでお話します。
こちらへ」
女性はヒナに一緒に奥へ来るよう促した。
スーツの男性はその光景を何処か楽しげに一瞥すると「さーて自分の仕事するかなー」と態とらしく声に出し別の場所へと向かった。
「これから案内する場所は私が所属する組織の中でも再重要機密にして本質にあたる物が保存されています。他言は許せませんし、恐らくですがヒナさんの能力は一時的に使えなくなります」
長い廊下をヒナと女性が歩いてると女性が矢継ぎ早に言葉を続けていた。
退屈させないためかと思ったがヒナが「余計な思考」をしない為だ。
「着きましたこの先です」
廊下の突き当たりにある金属製の堅牢な扉、それがカラカラと駆動音を立て開かれた。
「ようこそ、世界の起源、その最前線へ」