新しい魔術契約士
事務所で仕事をしていると久しぶりにブラッドから連絡があった。
会話ができる通信魔道具だ。
『やあ、おめでとう』
「ん? 何かあったか?」
『あれ? まだ知らなかったのか?』
参ったな、とブラッドは困った声だ。
『クラリスさんが君を驚かせるつもりだったなら、謝っておいてくれ』
そう断ってから、ブラッドは続けた。
『魔術契約士の国家試験の合格者が発表されたんだが、クラリス・フォーグラフの名前があったよ』
「ええっ!」
クラリスが受験したのもハリーは知らなかった。
魔術の勉強をし直しているのは聞いていたが、それだけだ。
魔術契約士の勉強はいつやっていたのだろう。現役の自分が質問を受けることは一度もなかった。
独学で? ハリーの蔵書を読んだだけで合格したのか。
「さすがだな」
『今度また招待するよ。祝いはそのときに』
「ああ、ありがとう。伝えておく」
通信を切ると、ハリーは夕刊を手に取る。
ブラッドは勤め先の王立魔術院経由で知ったのかもしれないが、国家試験の合格者は新聞にも載っているはずだ。
「所長、お客様です」
そこで秘書のドリスが声をかけた。
「事務所で働きたいとおっしゃっています」
顔を上げると、受付カウンターの向こうにクラリスがいた。
ドリスは笑って「奥様が」と付け加えた。
こちらに向かって手を振るクラリスの薬指には、変わらず指輪が二つ。
お互いの結婚契約の指輪は一年経った今でも色を保っていた。
終わり




