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5-1いざ!愛人探しパート2

 下着姿の上半身を隠すべく、急いでシーツをたくし上げる。しかし、それによって夫の香り…シダーウッドの香りがぶわっと鼻腔に広がり、言語化するより先に脳が理解した。


(シルヴェスター様の寝台で下着姿で寝てた―――…!!!!?)



 今私がいるのは先日初めて入った、彼の執務室に隣接している彼の私室。夫婦の寝室に来ない夫は毎日ここで寝起きしているのだ。そんなところでこんな格好で寝ていたなんて…。



「あああああの…飲みすぎて失態を晒してしまったことは大変反省しておりますし、シルヴェスター様のお手を煩わせてしまっていたら本当に申し訳ございませんでした。今後しばらくは禁酒しようと思います…。」


 雪だるまのような格好で早口で謝り倒す。普段ならばこの男に謝罪などなるべくしたくはないのだが、いかんせん全く記憶がない。こちらに分が悪すぎる。


 外ではそんなに酔わないし~とタカをくくっていたのがいけなかった。



「ああ、ぜひそうしてくれ。羽を伸ばせばいいとは言ったが、侯爵家の人間として最低限の身の安全は気を付けた方がいい。」

「返す言葉もございません…。」


 そうしてシルヴェスター様のしつこいお小言を右から左へ流しつつ、侍女のマリアを呼んでとりあえずの服を持ってきてもらって袖を通した。昨日公爵夫人からお借りした官能的なドレスは、しわ無く綺麗な状態で掛けられていて心底安心した。


 服をゲットした私は一目散に夫の私室から抜け出し、急いで湯浴みした。湯に沈みながら、冷静に考えてみるも、やっぱりサッパリ分からない。なぜ私はあの部屋で寝ていたのか。



「ね、ねえマリア…私はどうしてあそこで寝ていたのかしら。」

「申し訳ありません…昨夜は先に下がらせていただいていたので、詳細は分かりかねて…。お役に立てず申し訳ございません。」

「そうよねええ…。」



(とは言っても、気まずくてシルヴェスター様には聞けない…)



 ◇



 それから数日は大人しく過ごした。”愛人をつくって夫をぎゃふんと言わせるゾ!”と息巻いて最初の出鼻で当の夫によって強制送還されるだなんて失態を忘れたく、予定を詰め込んだ。


 公爵夫人にはすぐに手紙を書いて約束を取次ぎ、直接ドレスを返しに行ったものの、行った先でなぜかまたもや着せ替え人形にされ、今度私のドレスを仕立てる時は同席させて頂戴と言われてしまった。

 ちなみに夫人はあの手の夜会で、若い従順そうな男性を見初め被虐嗜好を高ぶらせながら育てていくのが楽しみという本当に全く余計かつ他では役に立たなさそうな情報も不本意ながら仕入れてしまった。


 人には色々あるものだ。



 でも、夫人はどういった経緯でそういった楽しみ方を見つけたのだろう。夫人だって由緒ある侯爵家令嬢としてそれはもう蝶よ花よと育てられてきたはずだ。それなのに、いつからそんな刺激的な遊びを…



「え?お金を払って遊んでいたのよ。」


 夫人はケロッとなんともないように答える。一方私はまたもやお茶を吹き出しそうになりかけた。



「お、お金を払って遊ぶとは…一体…というか如何ような遊びを…。」

「男娼のお店があるのよ。紹介制のね。私はもうプロの()たちに飽きてしまったから使わなくなってしまったけど、なかなかいいわよ~。」



 ごくりと唾を飲む。男性がそういうことを求めて行く娼館があるというのはなんとなく知っていた。まさかそれの女性向けバージョンもあるとは…。


 むしろお金を支払う方が背徳感が少ないかもしれない…!まずはそこで男性慣れしておくのも手なのでは…!?


 一人、脳内で納得した私はそのままの勢いで夫人の手を握っていた。



「お願いします!私に紹介してください!」



 かくして私の”愛人探しパート2”が始まったのである。



 ◇



 ここが…娼館!


 王都の外れ、なんだかアンダーグラウンドな雰囲気漂う一角に、やけに重厚で厳かな建物がある。家紋が入っていないお忍び用の馬車を降りた私は、顔を隠すベールを目深に下ろす。



 紹介してくれて予約の連絡を入れてくれた夫人からは「くれぐれもはまり過ぎて資産溶かしすぎないようにね!」と注意を受けている。それを思い出してなんだかドキドキしてきた。はまりすぎて…だなんて一体どういうことなのだろう…。


 緊張なのか期待なのかどちらとも分からない高まる胸を抑えながら重い扉を開けると、そこは王宮にも引けを取らない雅やかな空間が広がっていた。



「ご予約承っております。さ、レディ、こちらへ。」


 燕尾服姿の美丈夫にエスコートされ案内された部屋は、照明が少し落とされた一室。くつろげる大きなソファやテーブルがある一方、奥には天蓋付きの寝台がある。あまりにもあからさまな部屋に顔が赤くなるが、一方で「ここならシルヴェスター様のことを思い出さずにいれるのでは…!?」と期待に胸が膨らむ。


 しばらくお茶を飲みながら一人ソファで座って待っていると、ドアをたたく音が聞こえた。


「は、はぃ…!」


 入ってきたのは色素の薄い綺麗系美青年。あ、待って?予約とか全部夫人に任せたのだけれども、要らぬ気をまわしていただいた気がするわ…?

 だって「失礼します」とにこやかに隣に座ってくるこちらの青年、その見た目が薄い金の髪で、長身、極めつけに瞳が蒼いの。こういう容貌の美青年、ここ3年でよく見ているわね?こちらの彼よりも幾分気難しそうな男だけど…。


「・・・・・・・。」


(また失敗した―――ッ…!!!)


 美青年がきょとんとした顔をしている傍ら、私は勢いよく両手で顔を覆った。


 夫のことを思い出してしまって失敗した仮面舞踏会の経験を活かして、次こそは夫と無関係の娼館でリベンジ!と思ったのに、まさか夫人が気を遣ってうちの夫と似た男性を用意してくれるなんて…!!

 とんだ誤算だった。


 しかしこの美青年、とてもやさしい。明らかに挙動不審な初見の私に対して「大丈夫ですか…?」と気づかわし気な視線を送ってくれるのだ。


 こんな枯れ果てた、というか咲くことも叶わない人妻の隣に座ってくれて仕事をしようとしてくれている彼に、大変申し訳なくなる。


 通常だったら彼の見た目は加点1000点になるだろうし、夫人が「明日キャンセルが出たって言うから明日ね!」と予約をねじ込んでくれなければ本来会うことも叶わないほど人気なのだろう。


 でも、私は…極めて身勝手な理由によって彼からの奉仕を受けられない…。



(こんなにシルヴェスター様に似てる人、いる…!?)



 絶望しながらも、優しい彼に向き合い、今日の予約の2時間は人妻の愚痴に付き合ってもらおうと心を決めた矢先。


 館の外から物騒なけたたましい音が響き渡った。


「王宮騎士団だ!城下の風俗営業違反の見回りに参った!全員その場を動かぬよう!!」


 窓からそっと見れば、何人もの騎士たちが館を取り囲んでいる。


「えっ!?これ大変なことなのでは…!?」

「いや、うちは高級店だし法律はしっかり遵守してるから大丈夫だけど、レディの素性が知られわたるのは良くないから、こっちに来てください。」


 青年が急いで案内してくれたのは、ベッド横のクロゼット、の奥。


「ここから外に抜けられるので、僕と行きましょう。安心して。」

「あ、ありがとう…。」


 ついていくのも気が引けたけれど、騎士団に身元を探られるのもあまり良くない。仕方がなく、青年の言う通りに従った。

 暗く狭い通路を歩いていくと、他の客とも遭遇し、少し安心する。しかも何度か会ったことのある伯爵夫人だったので、お互い「見なかったことにしよう」と目と目で頷きあった。人には色々事情がある。


 青年に案内されて、通りまで出た私は、そっと馬車まで送ってもらう。



「今日は残念だったけど、この埋め合わせはまたいつか。」

「いえっ本当に気にしないでください!(そんな気もう無くなっていたところだったので!」)


 エスコートされ馬車に乗り込み、手が離れる瞬間そっと指先にキスを落とされた。さすがプロだ。最後まで抜かりない。しかも周囲は暗いので、なんとなくシルヴェスター様にされているような気になる。



 顔が熱くなったのを誤魔化すように「じゃあ…」と手を引こうとしたとき、




「…メルヴィーナ…?」


 名前を呼ばれた。


「ラ…ラルフ…!?」


 青年の背後には、騎士団の装備のラルフレートがいたのだ。


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