ラスボス義兄に一目惚れしました
「これが私の家であり――今日からは君たち親子の家になる」
"お父様"はそう言って私と母を大きな屋敷に連れてきた。母はよく「あなたのお父様は侯爵様なの。そして彼と私は運命の糸で繋がっているのよ」と言っていたが、私は全て妄想だと思っていたから驚きを隠せずにいた。
「ふふふっ。今日から私は侯爵夫人でこの子は侯爵令嬢……」
母は扇子で顔を隠していたが、笑顔は全く隠せていなかった。そんな母の様子を見て、"お父様"も笑った。
「侯爵を継ぐ者は君との子にしたいところだが……。あの女が男児を産んだ。女児であり、後妻との子供では継承権を持つことは難しい」
「では、放棄させれば良いわ」
「放棄だと?」
「ええ。本人が継ぎたくないと思う状況を作ったり、不祥事を起こさせたりすれば良いのです」
十歳になってもいない子供の前で話して良い内容ではないと思うんだけど……。私は口元まで出かかった言葉を飲み込んだ。
「形式上、息子だからな。挨拶だけはしなくてはならない」
"お父様"は苦虫を噛み潰したかのような顔で言った。彼の合図で成人男性の二倍ほどはある扉はゆっくりと開いた。
「あいつはどこにいる。呼んでこい」
「……ここにおります、父上」
執事と思われる男性の陰から私と同じくらいの年齢の男の子が出てきた。
照明の光を受けてきらきらと輝く紅の髪。顔は長い前髪に隠れているが、ちらりと見えた瞳も髪と同じく鮮やかな紅で、顔立ちが整っていることも分かる。
私の目に映る彼は、読み聞かせてもらった絵本の中の登場人物にも劣っていない。いや、どんな漫画やゲームの中のどのキャラよりも輝いていた。端的に言えば恋に落ちた。一目惚れだった。
「さっさと挨拶しろ」
「……レオン・フォン・ラヴィーネです。よろしくお願いします」
「彼女は私の妻のベアトリクス・フォン・ラヴィーネ。この子は娘のエミリア・フォン・ラヴィーネ。年齢はお前の二つ下だ」
母から父の名字を聞くたびにデジャヴを感じていたが、今その正体がわかった。私は彼らのことを、前世でプレイしていたゲーム"君に贈る○○"で知っていた。
"君に贈る○○"は見目麗しい殿方と恋愛をし、国の危機に立ち向かうゲーム。基本は乙女ゲームだ。
このゲームは攻略対象たちと仲を深める前半パート、仲を深めた彼らと共に国を救う後半パートに分かれている。
先ほど兄になったレオン・フォン・ラヴィーネは後半パートに出てくるキャラクターで、ゲームのラスボスだ。ゲーム中の彼は実母は死に、後妻には虐められ、父からは関心すら向けられず、妹とは会話すらしない、孤独の人だった。
彼は次期侯爵として期待されているという希望を心の支えとして生きていたが、ある日「エミリアに継がせたい」と言う侯爵の言葉を聞いてしまう。それをきっかけに彼は侯爵夫妻を手にかけ、侯爵となり、認めてくれなかった全ての者に復讐をする、というストーリーだ。
前半パートのルートによって、少し変わってくるが、国を滅ぼすという彼の決意だけは共通している。後半パートにはバッドエンドもあって、実際に国が滅ぶエンドがいくつもある。……何度失敗したことか。
そんなゲームでの私――つまりエミリアの立場というと、サポートキャラ兼妨害キャラだ。このゲームは攻略対象以外のサブキャラにも好感度が設定されていて、エミリアにもそれはある。
彼女は前半パートでは好感度を高めると、助言をしてくれる頼もしいキャラ。弱気で引っ込み思案でありながらも、大切な人のためには行動力を発揮する頼もしいキャラクターで、彼女の魅力に惹かれるプレイヤーも多かったはずだ。
後半パートでは前半のようにプレイヤーの良き友としてサポートしてくれる……と思った多くのプレイヤーを裏切る。彼女は兄のレオンのためにプレイヤーを傷つけ、妨害し、ルートによっては国の機密情報を横流しする。
その行動は全てレオンへの恋心から来たものだった。しかし、彼女はレオンへ想いを告げることは一切ない。なぜなら、その言葉が兄を困惑させると思っているから。その結果、彼女は最後まで都合の良い駒としか見られていなかった。……そんなの、悲しすぎる。
私はレオンが好きだから、好きになってもらいたい。たとえその感情が妹としての――家族愛だったとしても。
私は利用するだけ利用して捨てられるモブキャラなんて御免だ。
彼に私の存在を認知してもらうこと、国を滅ぼそうなんて考えられなくすること。それが私の使命だ。今、後妻が迎えられている時点で彼の実母は亡くなっていることは確定している。だからその孤独は完全には埋められない。だけど、「エミリアが居るし、国を滅ぼすまでは行かなくて良いかな」と思ってさえくれれば良い。
「よしっ!」
案内された自室で気合を入れる。メイドに「どんな部屋があるか教えて?」とおねだりをして案内してもらう。
日当たりの悪い屋敷の端の部屋にレオンの部屋はあった。物音がしたのに何も言わずに通り過ぎようとしていたので、聞いたところ、「ここがレオン様のお部屋です」と彼女は言った。その言葉は淡々としていて、感情は籠っていない。仮にも嫡男なのに、この仕打ちは酷すぎる。
聞こえるであろう音量のはずだが返事はない。レオンが出歩ける場所なんて屋敷にはなかったはずだから、きっとこれは居留守だ。これくらいで諦めると思ったら大間違いよ!
鍵は閉められていて開かないし、メイドも合鍵は持っていないみたいだ。管轄外らしい。ならば仕方がない。権力(?)を使わせてもらおう。
「そこに居るんでしょう? 開けてくれないとお父様に言いつけます」
ガチャリ。父をチラつかせたことで鍵は開いた。私は遠慮なく扉を開け、中にいるレオンにカーテシーを披露する。
「エミリアと申します。父からも紹介がありましたが、私からも挨拶をしたくて。お兄様とお呼びしてもよろしいでしょうか」
「はい、エミリア様……」
「お兄様、私に様は要りませんし、敬語でなくて結構です。今日から家族になるのですから。どうぞエミリアとお呼びください」
「ぼ、僕は真実の愛? を奪った人の子供で、君が本当の子供、で。立場が違うから敬語なんです。その、エミリアこそ、敬語を使わないでください」
胸が締め付けられる。それは彼が愛しいからではなかった。この言葉を彼に吐かせてしまったことへだった。
父と母が真実の愛? 冗談でしょう。後妻である母の方が愛を奪った側になるはずなのだから。彼の両親は政略結婚で、二人の間に愛はなかったとしても、正妻との子供の彼こそがこのラヴィーネの血を引く由緒正しい子供だ。その点で言うと、私こそが偽物だ。
レオンに文句を言う人たちはラヴィーネ家の特徴である銀髪を受け継がなかった点を挙げているのかもしれないが、そんなこと知るか。私はあの紅の髪色が好きだ。
「じゃあ、私が敬語をやめるから、お兄様も敬語をやめて」
「そ、そんなの無理です! 父上が……」
「私の我儘なんだから、お兄様が気にする必要はないわ!」
「……そんな、代わりに怒られるようなことしないで良いのに」
「そうよ、それ!」
私は彼を指さして言った。想像より大きな声が出てしまったから驚かせてしまったかもしれない。それに、人を指差すのは良くないことだ。もう貴族令嬢だから、気をつけないと。
「今みたいに話してくれれば良いの。長居してしまったからそろそろ戻るわ」
かなり困らせてしまったけど、少しは仲良くなれたかな? ああ、でも私は扉を開けるために恐喝まがいのことをしたから嫌われてしまったかもしれない。仲良くなるって難しい。
私はそれから侯爵令嬢として相応しい女性になるため様々なレッスンを行う傍ら兄にちょっかいをかけ続けた。
「この事件が起きた背景が分からなくて……」
「この言葉の発音が難しくて……」
「気分転換に美味しいスイーツがあるんだけど、一緒に食べない?」
「ダンスの練習に付き合って欲しいんだけど、今大丈夫?」
と兄に会うたびに声をかけた。
「だーれだ!」
いきなり抱きついて驚かせる時もあった。兄は「驚いた」「危ないから気をつけて」と少し困ったように笑う。困る様子は見せたとしても、兄は私を拒絶しない。いつも笑ってくれる。それは彼が私を悪く思っていないからだと、私はずっと思っていた。思い込んでいた、と言っても良いかもしれない。私はずっと愚かだった。
パチン。兄の部屋から聞きなれない音がした。少し空いている扉から中の様子を伺ってみる。部屋の中には兄ともう一人いるみたいだった。もう一人は角度が悪く、見ることが出来ない。
「本当に忌々しい……! 私の娘にベタベタ触って、不愉快なの! あなたの母親もきっとああやって彼を誑かそうとしたのね。親も親なら子も子って奴だわ」
「お母様……」
驚きのあまり、声が漏れてしまった。幸か不幸か、向こうに私の存在はバレていないようだった。私は二人に気が付かれないように早足で立ち去った。
「アンナ。私はこれから授業の復習をします。集中したいので誰も部屋に入れないようにしてください」
紅茶を淹れようと準備をしていたメイドに命令し、一人になる。理由はもちろん勉強のためではない。
「ごめんなさい。私は本当に情けないわ。お兄様を助けようなんて思っていても結局何も行動しない。私は自分のためだけに生きていて、お母様の虐待を見て見ぬふりをして……。どうして私はこんなにも弱いんだろう。どうして前世の記憶なんて持っていたの……?」
前世の記憶があると言っても、それはゲームの内容以外は曖昧なもので、勉強の役には全くと言って良いほど役に立たなかった。それでも、兄の境遇を知っていた。なのに何もできなかった。
兄はきっと私のことも恨んでいる。能天気に話しかけてくる、加害者の娘なんて不愉快以外の何者でもないだろう。きっと兄は私のことを――。
今日は兄が家を出る日だ。家を出ると言っても、追い出された訳でも家出した訳でもない。人生の節目になるようなめでたい日――学院への入学の日だ。
学院といえば、ゲームの前半パートの舞台。この国の貴族は通うように義務付けられていて、様々なことを学ぶ。勉学以外にも生涯のパートナーを見つけたり、良きライバルを見つけたりする、社交の練習の場でもある。
兄は入学をきっと心待ちにしていた。なぜなら親から離れることができる場所だから。
ちなみにレオンは学院では優等生だったらしい。ゲーム内で「まさかあんなことをする人だとは思いませんでした。学院では真面目な生徒で……」というセリフが聞ける。家の外――学院は努力すればするほど認められる最高の空間だったからだろうか。そんな場所に行く前に、私なんて見たくもないだろうな……。
学院は高校と同じで十五歳から三年間通うことになる。つまり、兄は十五歳、私は十三歳な訳で。私は成長すると共に、母に似てきていた。そのため、最近は兄に会えていなかった。勇気が出なかった。拒絶されるかもしれない。その不安は私の足を止めるには十分だった。
兄のために作ったお守りを強く握りしめた。会いに行くことが出来ない不甲斐なさをお守りにぶつけた。
この世界にはお守りなんて文化はないから手作りした。いつでも持っていられるように、と大きすぎず小さすぎないお守りを。男性が持ってもいいように控えめな刺繍を施したお守りを。
浮かれていた私が馬鹿みたい。私はゲームの中のエミリアと同じで、舞台の上で踊らされるただのマリオネットなんだ。きっと好きなのは私だけで、彼は「うるさいな」くらいしか感じていないのに……。
窓から兄の姿が見えた。冷遇されている彼だが、侯爵家の面子のためか、学院へは馬車で向かうらしい。母に「見送りには行かなくていい」と命令とも取れる言葉を貰っていたから、私はそれを免罪符にして部屋に居た。
両親が屋敷の中に戻るのが見えた。
「やらぬ後悔よりやった後悔」その言葉が不意に頭に浮かんだ。兄が休暇で帰ってくるかは分からないから、もう二年は会うことが出来ないと思っても良い。
「アンナ。親は適当にあしらって」
「お、お嬢様!?」
戸惑うアンナを部屋に置いて、階段を駆け降りる。鬼の形相で屋敷内を走る私を見た執事がギョッとした。活発に動き回っていなかった体が音を上げそうになる。
「あと、少しだから……!」
自分の体に鞭を打って走る。部屋着ということでボリュームの少ないドレスを着ていたことが幸いし、馬車の出発には間に合いそうだった。
「お兄様!」
馬車に乗り込もうとした兄が振り向く。遠くてよく見えなかったが、驚いているらしかった。
「……エミリア。もしかして見送り? どうして……」
「やらぬ後悔よりやった後悔、ですわ!」
ポーズを決めて叫ぶ。乱れた息を整えながらお守りを渡す。強く握っていたせいか、しわしわになってしまって不格好だった。
「元々はそんなにボロボロではなかったの。その、渡すものなのに、ごめんなさい! でも……」
「ありがとう。すごく、嬉しいよ」
「そ、そう? えへへ。喜んでくれて嬉しいな」
お世辞だろうとそうでなかろうと嬉しかった。その言葉が聞けただけでも勇気を出せて良かったと心から思う。
「それをよく使うものに付けて貰えると嬉しい」
幸せな気持ちのまま兄に抱きつく。兄はまるで愛しいものを撫でるような手つきで私の頭を撫でてくれた。すごく安心する。やっぱり大好きだ。
でも、兄は目的のためならこのくらいのことは平然と他の女性にもやるだろう。……この人たらしめ。
「どうしようかなー。部屋に飾っておきたいくらいなんだけど」
「お兄様を守れるようにって作ったから、近くに置いておいて欲しい」
「そうなんだ。嬉しいな」
彼はふわりと笑って、大切そうにポケットに仕舞った。
「いってらっしゃい」
嬉しさと悲しさと切なさをぐちゃぐちゃに混ぜた心を悟らせたくない。淑女の笑みを貼り付け、慣れた動作で足を一歩引く。何年も練習して洗練されたカーテシー。これなら顔は見られないし、完璧な別れになるはずだ。
兄は私の髪を一房掬ってキスをした。髪へのキスの意味って……。ううん、きっとキスしやすい場所だっただけ。それに、兄妹なんだ。兄にその意図があるとは思えない。
たったそれだけのことで耳まで赤くなった私を兄は満足そうに見つめ、微笑んだ。恥ずかしがっている私を見たいだけか!? う、喜んで損したかも……。
「挨拶代わりにされることもあるし、キスくらい慣れないと。……やっぱり慣れないで。可愛いし、慣れるってなったら他の男にされたってことだから」
「誰にもされるつもりはないから! 婚約者もいない令嬢がそんなキスなんて!」
「初心だなあ。ずっとそのままでいてね? ……行ってきます」
兄の手が私から離れる。物足りなさを感じながらも笑顔で見送れた、と思う。
母が浮気したらしい。両親の寝室で言い争っている声が聞こえた。高貴な方が口に出してはいけないような用語も出た酷い口論だったらしい。屋敷中の使用人たちが教育に悪い内容を聴かせないようにしてくれたおかげでほとんど内容は知らないけれど。
アンナに無理を言って少し教えて貰った。母が若い男と浮気をしていたらしい。そのため、父は権力目当てで母が結婚したのではないかと疑っているようだ。母はそれを否定しているが、感情的になっている父には届いていないようだ。
母は追い出された。騒ぎは学院にいる兄の方にも聞こえてきたのか、兄は久しぶりに屋敷に帰ってきた。それどころではないのに、兄の姿を見て嬉しくなってしまった。離婚の危機でもこんな風に喜べるなんて、私は最低な人間だ。
兄は忙しいようで、会話は二、三言話すだけに終わった。私には上手くいくように祈ることしか出来なかった。
というのも、私は入学準備で忙しかったからだ。兄だって次は最高学年でより忙しくなるのに。手伝おうとしたら、逆に邪魔(意訳)と断られてしまったし……。
「ごめん。止められなかった」
結局、母は不倫をした罪で家を追い出された。私はこの家の血を受け継いでいるため、町に着の身着のまま追い出されることはなかったが、父は不貞の子ではないかと怪しんでいるらしい。銀髪を受け継いでいる時点で、この家の血を受け継いでいることは明白であるのに。父は軽蔑と失望が混じったような目で私を見る。
かつての父親の姿はもう居ない。
「お兄様は悪くないと思う。忙しい中、駆けつけてくれてありがとう」
私が俯きながら言うと兄は申し訳なさそうに眉を下げた。きっと本来の兄は優しい人なんだ。嫌な思い出しかないはずのこの家のために心を痛めて……。
私がたとえこの家の血を継いだ人間だったとしても兄にとって私は邪魔者なら、この屋敷にはいられない。……責務として、学院までは通わせてくれるだろうけど。
父が亡くなった。傷心の父は崖から足を滑らせてそのまま……。
……護衛は父を守らなかったのか。侯爵ほどの地位にいる者が護衛もつけず、そんなところに行くのだろうか。もしかして、父は殺された?
「お兄様……」
もしかして、あなたが? という言葉は続けられなかった。頭によぎった最悪の考え。それは兄が父を殺したのではないか、ということ。「前侯爵夫妻? 確か、毒殺だったかな。教団に任せたし覚えてないや」とは断罪パートで問い詰めた時の彼の台詞。
……ゲームでは毒殺と言っていた。それも二人同時に始末していたようだった。だから、違う。これは事故。兄は何も関係ない。無関係で、無実。
「……ラヴィーネ家はどうなるの?」
お茶を濁す。破滅の未来が近づいている。私は怖かった。このまま兄が破滅の道に行ってしまうことが。
兄は前と同じように頭を撫でた。涙がぽつりと落ちた。兄の少し大きな手がそれを拭う。
「心配しないで、エミリア」
兄は笑った。その姿はとても美しくて、恐ろしかった。
父の葬儀が終わるとぽつぽつと雨が降り出した。私は兄に手を引かれて屋敷の中に入る。
兄は執事からタオルを受け取ると、自ら私の体についた水滴を取る。
「お兄様? 私よりもお兄様を拭いて。当主が風邪をひくわけにはいかないわ」
「気にしないで。……話したいことがあるんだ。少し聞いてくれない?」
「……大事なお話なんですね」
兄は否定しなかった。つまりきっと侯爵としてのお話。心臓が激しく脈打つ。
私は静かに兄の後をついて行った。屋敷の広間に着いた時、兄は振り向いてひざまづいた。そして私の手を愛おしそうに持ち、言った。
「エミリア、僕と結婚してください」
幻聴? 結婚って聞こえたけど……。「それって、夫婦になるってこと?」と聞き返したところ、兄は頷いた。
どうして? 兄妹だから結婚できないのに。考えが分からなくて怖い。何か分からないかと思って瞳を覗いてみる。仄暗い光が灯っているだけで何も読み取れない。
「でも私たちは兄妹だから、無理だよ」
「無理じゃないよ。血は繋がってないから」
父親は同じはずでは? 疑問に思っていると兄は子供をあやすように撫で、説明してくれた。
「あの人、僕たちが本当に自分の子供なのかを疑っていたらしくて、検査をしたみたいなんだ」
「前に血を抜かれたのはそういうことだったんだ……」
「うん。それで、僕たちの血が繋がっていないことが分かったんだ。だから問題ないよね?」
「……お兄様は私で良いの?」
「ああ、君が良いんだ」
嬉しすぎて泣きそう。でも、一生に一度の告白を泣きながら受け取るわけにはいかない。涙を拭き取り、優雅な微笑みを作って「ええ、喜んで」と返した。
「良かった。断られたら何をするか分からなかったから」
「お兄様、何か言った?」
「良かったって言っただけだよ。それより、僕のこともレオンって呼んで。もう兄じゃなくて婚約者だから」
「た、確かに……。これからよろしくお願いします、レオン」
「エミリア、こちらこそよろしくね」
夢みたいだった。一生片思いだと思っていた人と婚約を結ぶなんて。思惑なんてどうでもいい。私はこの幸せな立場を享受したい。
私たちはゲームのストーリーとは大幅にズレた。だから兄――レオンは国を滅ぼすことはないはずだ。
彼に私の存在を認知してもらうこと、国を滅ぼそうなんて考えられなくすること。その両方を達成できた。これできっと破滅はしない。
「レオン。あなたが私の婚約者になってくれて良かった。だって、一番大切で大好きな人ですもの!」
イチャイチャ増量の連載版も書こうかなとか思ってます。書くとしても随分先になりそうですが。
「面白い!」と思った方も「つまらない」と思った方もよろしければ、下の☆☆☆☆☆から評価をお願いします。
素直な評価でOKです。
また、感想を頂けると嬉しいです。
今後の創作活動の参考にさせていただきます。