エピローグ(千カウントくらい)
実に激しい戦いだった。記憶の改竄、というより世界そのものを私の能力で改変したので、牢獄に閉じ込めている敵から私がナントカ罪で訴えられることはない。『歴史は勝者が作る』とは、よく言ったものだ。私の頭の中には記憶が残っているので、しばらくはバトルを思い出して楽しませてもらおう。
「やっぱり、この胸が私は落ち着くなぁ」
「え、なぁに?」
「ううん、何でもなーい」
私はベッドで、恋人のオペレーター嬢を可愛がる。この世界を創世した時のことを私は思い出す。真っ白な空間に、一八才の私は放り出されて、能力を与えられて世界を創るよう強要された。その世界で、悪を倒し続けることが私の使命であるとも理解をした。
運命を受け入れ、世界を創る際、私は最初に恋人を作成した。何があっても無条件で、私を愛してくれる女性。それが今、私が可愛がっているオペレーター嬢だ。
宇宙の始まりは百億年以上も前らしいが、私の世界は、数年前にできたばかりではないのか。ここは恐らくフィクション世界で、私もオペレーター嬢も年を取らない。いつまでも私は一八才で、オペレーター嬢は二十代半ばだ。何十年も前に描かれたアメコミ作品のキャラクターが、永遠に若々しいのと同様、私の世界改変能力は都合の良い『今』だけを残し続ける。
現実世界では、『悪党にも人権がある』だの『暴力の激化は良くない』だのと言われる。だが、ここは私の世界だ。異次元からの侵略者を私は倒し続ける。やり過ぎ、オーバーキル上等! フィクション世界で悪を倒すことには価値があると私は信じる。それが私、エスカレーター・ガールだ。
「凄い! 凄いわ、エスカレーター・ガール!」
オペレーター嬢が歓喜の声をあげる。いつか私も、悪に倒されて死ぬかもしれない。しかし愛し合える恋人が傍に居てくれれば、生涯を戦いに捧げてみせよう。無限とも思える恋人からの愛を感じながら、永遠のような『今』の中で、私は誰よりも幸せなのだと実感していた。