まぁ、すごい数ね。でも負けないわよ
真昼の決闘、という映画のタイトルを私は思い出していた。観たことはないのだが、今の状況にピッタリなので。白黒映画の西部劇というのは、ちょっと私の好みに合わない。機会があったら恋人と、お家デートで観てもいいかなぁ。それも今日を生き延びてからの話だ。
『現れたな、地球の代表者よ。死ぬ前に言いたいことがあれば、聞いてやるぞ』
アメリカ大都市の上空、千メートル。青空の下、そこに私と、奴らは浮かんで対峙していた。空を飛ぶクジラみたいな宇宙船が、魚そのものの動きで緩やかに身をくねらせながら、何十、何百という単位で空中に出現し続ける。異空間からの侵略者で、そいつらの宇宙船から、拡声器を通したような脅し文句が響いてきた。
「それはどうも! じゃあ言うけど、そっちの代表者は出てこないの? こっちは私一人なのに、怖くてクジラの中に引きこもったまま? 顔を見せなさいよ、顔を!」
スーパーヒロインである私にマイクは必要ない。よく響く大声で、敵に向かって煽ってあげた。ここで私のコスチュームについて説明しておくと、全身を青のスーツで包み、背中には赤のマントを着けている。実のところ、衣装に決まりはなくて、もっと少女系の服を着て戦うこともあった。しかし今日のような、大きなバトルの日には、やはり勝負服を着るべきだろう。
『……エスカレーター・ガール、大丈夫? 私は何もできないけど、くれぐれも油断しないで』
と、私が耳に装着している超小型の無線機から、恋人であるオペレーター嬢の声が聞こえた。彼女の職業は、正式名称はどうでもいいけど地球防衛軍アメリカ支部に勤める、作戦指揮官だ。二十代半ばだから階級は下っ端なのだけど、そこは私の恋人だからという特別扱いで、常に私の戦闘を後方から支えるべく基地から指示を出してくれている。
「大丈夫、大丈夫。貴女の愛がある限り、私は負けないから。それより私との約束に備えて、よく休んでおいてね」
からかいを含めて伝えてから、インカムでの送信を終了した。送信ボタンを押さない限り、こちらの声が彼女に届くことはない。戦いを通じて、断末魔の叫びが起きるかもしれないのだ。私は彼女に、余計な心の傷を負わせたくなかった。
おっと、伝え忘れていたが。そう、『エスカレーター・ガール』というのが私の名前だ。コードネームというわけでもなくて、そもそも私には、これ以外の名前がない。奇妙な名前の由来については、後ほど語るとしよう。