プロローグ 毎度おなじみ、世界の危機ね
振り返るべき過去が、私には無い。出発点は常に『今』で、結局、誰もが『今』という現在地点から動くしかないのだ。そう私は思っている。
「……もう。いつも、わたしを寝かせてくれないんだから」
だから私の恋人である、オペレーター嬢がベッドで苦情を申し立てても、大して私は反省なんかしないのだった。年齢は二十代半ば。背中まで掛かる黒の長髪が、ベッドで乱れる姿を眺めるのが私は大好きだ。お胸が私より大きいというのも気に入っている。
「ごめんって。まあ大目に見てよ。今日の正午には、世界が滅んでるかもしれないんだから」
現在は午前二時過ぎで、もう三時に近い。普通の人間であるオペレーター嬢には睡眠が必要だ。エネルギーが無尽蔵である、スーパーヒロインの私に付き合わされては身体が保たないだろう。ちなみに私の容姿は肩まで届く金髪、肌は白くて瞳は青だ。容姿は自在に変えられて、年齢は永遠不変の一八才。その辺りの、私の能力については後で説明する機会もあるだろう。
「ねぇ……怖くないの? 世界の命運が、貴女一人の肩にかかってる状況が」
「怖くなんかないわよ。いつものことだもの、気にしてないわ」
「わたしは怖いわ。いつか貴女が、限界を超えて折れてしまうんじゃないかって。ねぇ、辛くなったら逃げてもいいのよ? 世界中が貴女を責めても、わたしは責めたりしない。どこまでも貴女と一緒に逃げてあげるから」
彼女がベッドで私を抱き締めてくれる。彼女の方が私より年上だからか、どうやら庇護欲を掻き立てられるらしくて。世界が滅亡の危機に晒されるたびに、このオペレーター嬢は涙ぐんで、今みたいな調子で私に接してくれるのだった。そんなに繊細そうに見えるのかなぁ、私。
「スーパーヒロインの私が、逃げるわけにはいかないなぁ。貴女を世界中から責めさせるのも嫌だしね。ね、だから約束してよ。今日、私が世界を救ったら一晩中、貴女のことを可愛がらせて。そういう、お楽しみがあれば、私は頑張れるから」
「いいわ、約束する。貴女のためなら、わたしは死んでも構わない。好きなだけ滅茶苦茶にして、わたしのことを弄りまくって」
大真面目に彼女が言うものだから、私は笑いそうになって何とか堪えた。この彼女がいるから、確かに私は何度も世界を救って戦えているのだ。ありがたかった。
「今から気負ってたら疲れちゃうわよ。さぁ、決戦に備えて眠りましょうか」
私にも安らぎは必要だ。彼女をお楽しみに備えて休ませるためにも、私たちはベッドで仲良く英気を養った。