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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

帰り道

作者: イウォーク

夏のホラー2023


時刻は午後8時。もうすでに周りは真っ暗だ。

真っ暗な田んぼ道は、自転車のライトで照らされた数メートル先までしか見えず、今にも幽霊の白い足がにゅっと現れるんじゃないかと、つい不安になる。そしてこの、無数の蝉の鳴き声や、田んぼに住まうカエルの鳴き声は、束となって自分に降り注いでいるようで、無数の合唱を四方八方から聞いているような気分だ。

俺の大嫌いな田んぼ道。その日は、学校の部活動で、帰るのがいつもより遅くなっていた。ただでさえ、田舎の実家に帰るのには人一倍時間がかかるというのに、吹奏楽部の顧問といえば、夏場だから暗くなるのが遅いからといって、時計が3周以上回っても、まだ練習を続けさせてきやがった。こっちの身にもなって欲しいものだ。

それよりこの田んぼ道、何もない道がひたすら続いていくので同じ光景ばかりで、果たして家にたどり着けるのかと不安になる。怖がりな僕はこの道が大っ嫌いだ。

そんな不平不満を考えていると、ふと放課後に友人が話していた、あの不気味な噂を思い出してしまった。


「ねえ、聞いた?〇〇高校のあの話。」

「聞いた聞いた。自殺?って言ってたよね。あの近所でも有名になってた。あの霊感があるとか言ってた。」

「それが、さっき聞いたんだけど、その子の部屋を覗いたって人が言ってたんだけど、ものすごい御札が、もうバーッて!」

「マジで?やばぁ。」


あぁ、思い出さなければよかった。

それを思い出してから、次々恐ろしい妄想が止まらなくなった。そういえばこの前見たあのホラー映画のあのシーン。あのドラマに映り込んだっていう…。

怖いことは考えれば考えるほど、自分の身の回りでも起こりそうな気がしてきてたまらない。

少し自転車の速度を上げた。

自然の音が耳の横を流れていく。

その道の角から女性がでてきたら…。後ろから足音が聞こえてきたら…。

妄想が止まらない。

だんだんと、なにか見えない圧力に押さえつけられているような気分になってきて、なんだか泣きそうになってきた。家まであとどのくらいだろう。全く変わらない真っ暗な田んぼの風景に、無限のループを感じさせられて、胃のあたりがキリキリし始めた。

早く帰りたい。

そう思ったその時だった。

キィー!

ブレーキを握ったのは自分なのに、その音にびっくりした。

恐る恐る、目に写ったものを覗き込む。

亀の死体だ。

真っ暗闇の中で、自転車の明かりに照らされて、道の真ん中で仰向けになって死んでいる。

おそらく車に轢かれたのだろう。田舎ではよくあること。そう思いつつも、やはり、「死」と出会うと、状況が状況なのでヒャッとする。

サッサッと行ってしまおう。

足で地面を蹴って、車体の向きをかえて、再び漕ぎ出そうとしたその時。

道と田んぼを隔てる、雑草の茂みの中、こちらを覗き込む目を見た。

目に溜まっていた水滴がこぼれ落ち、背筋が凍り、胸元がヒャッとなる。

真っ黒い目。招き猫のような光のない黒い目。

体が動かない。恐怖心からだ。

暗い田んぼ道で唯一人。日中でもほぼ人の通らないこの道で一人。この目は自分に、どうやって襲いかかってくるだろう。捕まったらどうなるだろう。

そんなことがものすごい速度で頭を駆け巡った。

いや、まて、もしかしたら見間違えかもしれない。

ほら、怖いことばかり考えていたから、土かなんかのライトの反射を、自分が何かと見間違えたに違いない。そうだそうだ。

そう考え直し、恐る恐る視線を目の方に向ける。

見間違えではなかった。しかし、それは生きたものの目ではなく、道端に捨てられた、泥まみれのこけしの目だった。安心した反面、なぜこんなところにこけしが?と思い、さらに恐ろしくなって、急いで自転車の向きを変え、全力で家へ急いだ。


翌朝。俺は眠気眼をこすりながら、布団から這い上がり、昨日の事なんか忘れて部屋からのそのそ出てから、ボッーとしながらリビングまで降りた。それからしばらくして、昨日なぜあの場所にこけしがあったのか、じっくり考えた。そして、結論は、確か帰り道に、大きな家があったはずで、確か子供の声を聞いたことがある。おそらくそこの子が持ち出してそこらへんに捨ててきてしまったのだろう。


あれ?母がいない?父もいない?

この時間なら朝食の支度をしてくれているはずなのに。この時間なら仕事の用意をしているはずなのに。

違和感を覚えながら、机の上にぽつんと置かれたトーストを見つめる。数秒してから、その横にあるメモ用紙に気づく。

「長年の友人が昨日亡くなったと連絡があったので、家をあけます。夕方までには帰る予定です。よろしくお願いします。」

丁寧な字で書かれたその字は間違いなく母の字だった。


その日の夕方、憂鬱な顔つきをした父と母が帰ってきた。明らかに何かあったようで、心配になって何があったのか聞いてみた。一瞬母は話すのをためらったが、もう高校生だから、話しても大丈夫か、とでも思ったのか、ゆっくりと何があったのか話し始めた。

その内容を要約すると、今朝、畑仕事に出かけた、農家のおじさんがその道中、道端に亀の遺体と何枚もの色紙が落ちているのを見つけたらしい。どうやら誰かが落としたらしく、他にも持ち物がないかあたりを見渡したとき、父母の友人の男性の遺体を発見したそう。どうやら、その遺体の状態が酷いもので、顔が痣で真っ黒に変形して腫れ上がっていたそうで、もはや誰かわからない状態だったそう。そして何より、胴体と頭が切断されて、それは悲惨な様子だったよう。今は警察が殺人事件として調査しているそうだ。


あれから数年がたって、事件の犯人は捕まった。犯行動機は、会社内でのいざこざで口論になり、そこから関係悪化。しまいには妻を寝取られ、そこで犯行にいたったそう。あの悲惨な事件を聞いたときの衝撃は今でも忘れない。思い出すたびに鳥肌が立つ。

それは、内容が衝撃的な事件だったからだけではない。

あの日の夜。道端に転がったこけしの顔。いや、生首のあの、真っ黒い目。自分の心を見通しているよなあの目。この世の心理を覗き込むあの目。生気を失った、悲しそうなあの目。写真で撮ったように覚えている。

焦って気づかず落としたであろうメモ帳。

あの日の夜。自分が見たものは………

こけしに見えたのは、顔が殴られて変形し、丸くなっていたから?意識を失い、表情がなくなっていたから?

信じたくもない。事実を信じたくない。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 死体の発見者になるのは怖いですよね。私なんか臆病だから、オーバーオールをガラージにかけているのを見て、暗闇だったから首つり死体と見間違えたことがありますよ。怖かった。
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