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第30章



3人の異世界召喚の4ヶ月前、寺井星良はありふれた日常を送っていた。彼女は陶芸家としての道を歩んでおり、そのために常に創造と表現の世界に身を投じていた。その日も彼女は自宅のアトリエで制作に没頭していた。

しかし、そんな普通の一日が一瞬で変わってしまった。彼女がアトリエから出て家に戻ると、急に視界が真っ白になった。そして、次の瞬間には彼女は地面に倒れていた。頭の奥が激しく痛み、視界はぐるぐると回転していく。


「星良!」そんな彼女の名を呼ぶ声があった。それは彼女の母親の声だった。彼女はその声に力を得て、痛みを忍びつつ立ち上がった。しかし、その時、再び強い衝撃が彼女を襲った。

星良が目を覚ましたとき、周りは真っ白な病院の部屋だった。彼女の頭には大きな包帯が巻かれており、身体のあちこちからはチューブが伸びていた。

「母さんは…?」彼女がその質問をしたとき、看護師の表情が曇った。「ごめんなさい…あなたのお母さんは、同じ事故で…」その言葉が聞こえた瞬間、彼女の心は真っ白になった。

その後、星良はリハビリを経て徐々に体力を取り戻すことができた。しかし、心の傷はなかなか癒えることがなかった。そして、さらに彼女を苦しめたのが記憶の欠落だった。彼女は事故が起きる前の半年間の記憶を失ってしまっていた。彼女と蒼汰が恋に落ちるまでの時間だった。

星良はその記憶を取り戻そうと努力した。しかし、どんなに頑張っても、その期間の記憶は全く戻ってこなかった。


星良と蒼汰は、どこか静かな場所を選んだ。場所は公園のベンチで、夕暮れ時の淡い空が二人を包んでいた。それぞれが自分の心の中を整理する時間を必要としていた。

「星良、僕たち、どうすればいいと思う?」蒼汰が小さな声で尋ねた。彼の表情は深刻で、彼の声は繊細で揺れていた。

星良はしばらく黙って、自分の中にある感情と向き合った。それから、彼女はゆっくりと息を吸い込み、それから同じくらいゆっくりと吐き出した。

「蒼汰、私はあなたのことを愛していた。それは確かだよ。」星良がそう言ったとき、彼女の声は固く、確かだった。それは彼女が自分の心の中で何度も何度も繰り返してきた言葉だった。

しかし、その後の彼女の言葉は、以前の固さとは違うものを持っていた。「でも、私はもうあなたを愛することができない。私が愛していた記憶は、私の中から消えてしまった。それを取り戻そうとしても、どうしても取り戻すことができない。」

蒼汰はその言葉に一瞬、顔を歪めた。それから、彼は深く息を吸い込み、それからゆっくりと吐き出した。彼の表情は苦しそうだったが、彼はそれを隠すように微笑んだ。

「分かった。それが君の気持ちなら、僕はそれを受け入れるよ。」彼の声は小さかったが、彼の言葉には彼の心からの決意が込められていた。

その日、星良と蒼汰は別れを決めた。その後、星良は新たな人生を歩むことを決め、蒼汰もまた新たな人生を歩むことを決めた。それぞれが自分の道を進んでいくことが、二人にとって一番良い道だと信じて。


星良は、窓辺に座り、見つめていた。窓の外は、薄暗い夜が広がっていた。彼女は長い間、自分の心の中を見つめていた。そして、彼女は何かを見つけた。

事故からの回復は、身体的には順調だった。けれども、心の中ではまだ混乱が続いていた。星良は事故前の自分の記憶を失ってしまった。そして、その記憶の中には、蒼汰との愛し合っていた期間も含まれていた。


しかし、記憶だけではなく、彼女は何か他の大切なものも失ってしまったことを知っていた。それは感情というものだったのだろう。彼女は人に対して何も感じられなくなってしまったのだ。

彼女が誰かを愛すること、誰かを憎むこと、誰かを羨むこと、誰かを尊敬すること。彼女は人に対するすべての感情を失ってしまっていた。そのため、彼女は自分が事故前に行った選択、その一つ一つを理解することができなかった。

「何でこんなことになったんだろう…」星良はつぶやいた。彼女の声は小さく、微かに震えていた。彼女は窓に映る自分の姿を見つめ、自分自身を問い詰めていた。

そして、彼女は自分の心の中にある空白を埋めるために、全力で戦うと誓った。

その夜、星良は深く眠った。彼女の心はまだ混乱していたが、彼女は新たな決意を胸に自分の道を進むことを決めた。


「なんて美しい…」美術館の訪問者たちは、その作品の前で畏敬の念を抱いた。その作品の作者、寺井星良の名前が添えられていた。

事故からの回復が始まった後、星良は芸術への興味を抱き始めた。それは彼女の感情が帰って来ない中で、彼女が自分自身を表現するために見つけた手段だった。そして、その才能は驚くべきスピードで開花した。

彼女の作品は、彼女の心の奥底に眠っていた深い思いを形にしたものだった。それは感情を失った彼女だからこそ作り出せる、美しいかつ切ない作品だった。

新進気鋭の陶芸家として、星良の名前はすぐに認知されるようになった。彼女の作品は、その美しさと独特な感性で多くの人々を引きつけた。そして、彼女の作品はすぐに評価を受け、多くの美術館やギャラリーで展示されるようになった。

「星良さん、あなたの作品は素晴らしいわ。」ある評論家は彼女にそう言った。「それぞれの作品が、あなたの心の中に眠る深い思いを表現している。それは本当に美しい。」

星良はただ、静かに微笑んだ。


異世界、アストレイア。星良がこの新たな世界に転生してから、すでに3ヶ月が経過していた。風花と蒼汰とともに彼女がこの世界に召喚されてから、新たな生活を始めてから、彼女はすぐにこの世界の言葉を理解する能力を示した。

「ここはどこですか?」彼女が初めてアストレイアの人々に尋ねたとき、その言葉はまだ不完全だった。しかし、それはわずかな時間で変わった。星良は瞬く間に新しい言語を理解し、話すことができるようになった。


「星良、君の言語能力は本当に驚異的だよ。」周囲の人々は驚きの声を上げた。「この短期間で新しい言語を完全に理解できるなんて、本当にすごい。」

星良はただ静かに微笑んだ。

そして、星良はまた別の才能を見せた。それは、彼女がこれまで経験したことのない、剣術の才能だった。

「こんなに短期間でそのレベルに達するなんて...」剣術の師範である和田悠介は称賛した。

星良はまるで生まれつきの剣士のように剣を振るった。それはまるで彼女が剣術を長年に渡って練習してきたかのようだった。

しかし、それは彼女がアストレイアに来てから始めたものだった。

彼女は新しい言語をすぐに理解し、まるで生まれつきの才能のように剣術を身につけた。その才能は、感情を失った代償のようだった。


空間には静謐な雰囲気が広がっていた。窓から差し込む陽の光が部屋をやさしく照らし、それがまた心地よい時間を紡いでいた。


星良は蒼汰と向き合った。彼はいつも通り、落ち着いた口調で話し始めた。

「久しぶりだね、星良。」蒼汰は少し緊張した顔で星良に微笑んだ。その声には昔の熱意と憧れがまだ残っていた。

「星良、君がここにいるとは思ってなかったよ。」

星良は蒼汰を見つめた。彼の視線の中には未だにあの頃と変わらぬ、彼女への愛情が溢れていた。その純粋さは、彼の目を見つめる星良には明確に理解できた。

星良はただ静かに彼を見つめ返した。

彼女は事故で感情を失って以来、人々の感情を分析する能力が増していた。自身が感情を持たないがゆえに、他人の感情を客観的に観察し、分析することができた。星良は蒼汰が自分に対してまだ愛情を抱いていることをはっきりと感じ取った。

だが星良は何も感じなかった。彼の愛情を理解はするが、それに応える感情はなかった。星良はただ淡々とその事実を受け入れ、再会の挨拶を返した。

「蒼汰、元気そうで何よりだよ。」


「風花も召喚されたんだ。」その言葉を静かに口にしたのは蒼汰だった。彼の声は驚きと混乱を内に秘め、それが部屋の静けさに溶け込む。

「風花って、灘波風花?剣道部の?」星良の声は冷静で淡々としていた。彼女は自分の感情を一切表に出さない。しかし、その中には風花がこの世界に召喚されたという事実への微かな驚きが混ざっていた。

「うん、あの風花だよ。」蒼汰の答えは確かだった。その事実は彼らにとって思いがけないものだった。

「なぜ僕たち3人が召喚されたんだろう?」蒼汰は深刻そうに言った。彼の瞳には混乱と戸惑いが映っていた。

「知らない。」星良の返答は冷たく、無情だった。彼女の声には感情がなく、事実を淡々と伝えるだけだった。

風花が召喚され、そして彼女と蒼汰が再会した。それら全てが一つの偶然であり、それらが何を意味するのかは誰にもわからない。


蒼汰は以前と変わらず冷静で物静かだった。その瞳には深い青色が宿っており、頭脳明晰な知識を求める探求心が映っていた。彼の髪は短く、黒く、その体格は良く、髪は短く刈られていた。顔立ちは整っており、男らしさを感じさせた。

彼が使っている銃は"星光"と呼ばれていた。彼の魔力の量は大きくないが、操る能力は優れていた。銃に魔力を込めて放出するのだろう。

同時に、彼は"知識の吸収"という特性を持っていた。彼は読んだ本や情報を容易に理解し、記憶することができる。

また、彼は星良とは違い、自分の仕事に深い情熱を注いでいた。特に、古代遺跡に対する興味は強く、熱心にその研究を行っていた。


蒼汰の意識は、彼らが短時間で収めた戦闘の後に集中するべき次の課題に移った。魔王軍のラズリアとイスカンダルは、一時的に退却したものの、絶対的な存在として健在だった。

ラズリアは冷静かつ知識豊富な存在で、アゾゴスの眷属の中でも最も策略的で狡猾だった。水を操り、自由自在に洪水を引き起こし、海や川を操ることができた。その銀髪と青い肌の美しさは、彼女がまさしく水の妖精であることを物語っていた。

一方、イスカンダルは誇り高く、無慈悲な存在で、無敵を誇る巨大な力を持つドラゴンだった。彼は空を飛び、炎を吹き出すことができ、その力と地位に相応しい尊厳を持っていた。黒い鱗で覆われた巨大な身体と、その口から吹き出す炎は彼が魔王軍の一員であることを示していた。


彼らは退いた、それだけだ。再び襲撃をしかけてくるのは時間の問題で、次回の彼らの攻撃に備える必要があった。蒼汰はそう確信していた。

「みんな、少し考えてみたんだけど、一度、松尾晴美に会って話をしようと思う。」蒼汰は冷静に提案した。

晴美は星煌城の宗主であり、その人々が幸せで満足するように、平和と調和を追求していた。また、彼女の城は平等と友愛の象徴とされ、その地域は町々によって構成されていた。蒼汰は晴美の知恵と強いリーダーシップを借りて、ラズリアとイスカンダルの再攻撃に対処する方法を見つけることができるかもしれないと考えた。


蒼汰はひとつ深呼吸をして、自分の心を整理した。彼は自分たちの次の行動を思案し、そして、一つの決断を下した。それは、松尾晴美に会うことだった。しかし、そのためにはまず、彼女が現在どこにいるのかを知る必要があった。


蒼汰は、そんな情報を持つ可能性があるタケオ・アスカラに接触することにした。タケオは信頼できる仲間であり、情報収集にも長けていた。彼は星煌城の中で起こるほとんどの事を把握しており、松尾晴美の居場所も、きっと知っているに違いないと蒼汰は思った。

「タケオ、少し話があるんだ。」蒼汰は彼に向かって言った。タケオの顔は少し驚いたように見えたが、すぐに彼の特徴的な落ち着きを取り戻した。

「なんだ、蒼汰?」彼の低い声はいつものように静かだった。

「松尾晴美の居場所を知ってるか?」

タケオは少し考えるように眉を寄せ、そしてゆっくりと頷いた。「彼女は、ここから少し離れた郊外の森に撤退している。」

蒼汰はその情報を黙って受け取り、タケオに感謝の言葉を述べた。「ありがとう、タケオ。」

そして、彼は自分が得た新たな情報を元に次の行動を考え始めた。松尾晴美は郊外の森にいる。それなら、そこへ向かい、彼女と話す事に決めた。



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