7.アリアvsフィオラ
「―――我に力を与えよ、魔剣エイリアス!!!」
アリアの右手に大剣が現れた。
開始の合図を待たず、プリムローズが一斉にアリアの元へ押し寄せた。
(こいつに魔力を溜める隙を与えず、徹底的に攻め潰す!!)
アリアは何とか葉をなぎ払うと距離を取って魔力を溜めるタイミングを計ろうとした。
プリムローズの攻勢を維持しつつ、フィオラは葉で鞭を作り出すと中距離から直接攻撃を仕掛けた。
「うっ!」
鞭がアリアの右腕に巻き付いた、魔力を吸い取っているのが分かった。
フィオラは引き込みを狙っていた。
(これでほぼ決まりだ―――)
魔剣の炎が弱まりつつあった。
アリアは残りの魔力を全て剣に送り込んだ。
「うおりゃああ!!」
そして炎がたぎる魔剣をフィオラ目掛けてぶん投げた。
「な、なにっ!?」
魔剣は炎を吹きながら回転してフィオラに向かっていった。
「クソっ」
フィオラはすぐにプリムローズの葉を呼び戻し、壁を作って防御姿勢を取った。
その瞬間アリアはフィオラとは反対方向へ走り出した。
そして指輪への魔力を止めた、すると飛んでいた魔剣は消えた。すかさずチョコスフィアを一粒口に入れると体に魔力を充填させ、右手をかざした。
「―――我に力を与えよ、魔力エイリアス!!!」
充填した魔力を一気に魔剣に注ぎ込んだ。
炎が噴水のように剣から吐き出された。
「ぬぉおおおおおお!!」
(―――あれは···魔力無限増強能力···!!
発現者がいたのか···!しかしヘリオス王子ではなくアリア王女の方だったとは···。
ヒートバーンの階梯上限は九十一、ヘリオスは八十八までしか出せなかったが、あの能力があればあるいは···)
「―――くくく···おもしろくなってきた···」
フィオラは急いでプリムローズをアリアに迫らせたが、その時にはもう抑えられないほどの炎が吹き出していた。
「くっ···!」
やむを得ずプリムローズの葉を全て呼び戻して大きな塊にし、その中に逃げ込んだ。
炎の強い勢いで空気全体が揺れていた。
「ぬぅおおおおおおお!!行くわよぉ!!」
アリアが今まで超えようとはしなかった体の限界にまで魔力が沸騰していた。
「第九十階梯、ヒートバーン!!」
立ち昇った炎柱は闘技場の透明な天蓋に当たると少し跳ね返った。
アリアが魔剣を力いっぱい振り下ろすと炎の壁が津波のようになって進みプリムローズごと飲み込んだ。
大きな爆発が起こって熱と衝撃波が止むまで少しかかった。プリムローズは全て焼き尽くされた。
フィオラはボロボロになりながらも辛うじて立っていた。
アリアは駆け寄ると腹部に拳をお見舞いした。
「ぐっ···!?」
フィオラはその場に倒れた。
「―――うぉおおおおお!!!!!
―――アリア!アリア!アリア!アリア!アリア!
アリア!アリア!アリア!アリア!アリア!
アリア!アリア!アリア!アリア!アリア!」
「···ア、アリア、良かった死ななくて···―――」
ここまでヘリオスとアレキサンダーの治癒を続けていたユースティアは、魔力切れも相まってか緊張の糸が切れたように気を失ってしまった。
闘技場は熱気と歓声に揺れていた。
「さぁ、残ったのはあなただけよ!!!」
アリアは剣を首謀者の男に向けて言った。
「―――···まさかここまでやるとは···敵ながら感服したぞユーロスギニカ···!
······だがゲームはこれでおしまいだ」
魔術モニターと音声反響魔術は突然打ち切られ、歓声は途切れた。
闘技場を覆っていた透明な天蓋は薄黒く変色した。
「―――これで外からも見れまい···」
ついに首謀者の男はローブを脱いだ。
「私の名はマルメラードフ、二つ名は"変幻"
アイオン内での爵位は南の伯爵〈アール〉だ」
「爵位···?」
「アイオンの夜明けが世界改変を果たした際に、もらえる事が約束されている爵位だ―――
そしてそれは我々の真の目的にも関係がある。
真祖ジ・ムーが発現したと伝わる魔術の最高峰、
―――幻の第百階梯魔術"ダイムルーラー"
一説には世界を改変する力とも言われている」
「ちょっと待って···真祖ジ・ムーって?」
「ん?そうか···、女のお前には秘密の継承を行わなかったのだな···。ヘリオスは知っていたようだが、だからこそあれほど捨て身で戦う事ができたのだろう。
騎士王ライアスを従え、反乱戦争に勝利しユーロスギニカを建国した真の王。魔術師でありながら魔術師の地位を貶める社会を作リ出した世界改変の力の持ち主、それが真祖だ。
世界は昨日始まったばかりだとしても我々には確かめる術すらない、そう考えた時ふいに自分の存在が実に軽薄で空虚なものには思われないだろうか。
我々はなぜジ・ムーがこのような世界を作り出したのかその真意を確かめたいのだ、そしてそれほどの強大な力に臨む為には···この世に再び戦乱が必要だ」
「戦乱ですって···!?」
「そうだ、九次以上の能力者の多くは戦乱の世に生まれている、いや戦乱の世がそうさせたのだ。
現にお前たちは今回の戦いで本来の実力以上の働きを見せたではないか、これは偉大な目的へ向かう為のプロセスなのだ。
再び戦乱の世が訪れ魔術階梯の飛躍が起これば、この世界の裏側に隠れた真の王ジ・ムーの末裔も表に出てこざるを得まい、
そしてその目的の先には···
―――新しい世界···がある」
「な?何だかよく分かんないけど···戦争はダメよ!!あなたの意見には反対だから」
「ほぉ···よもやお前達に選択肢があるとでも?
お前たち王族にはアイオンの洗脳魔術を受けてもらう、そして隣国に戦争を仕掛けるのだ」
「そんなのは絶対に拒否!!」
「力ずくでやると言ったら···?」
アリアは身構えた。
「―――だが、その前に···」
マルメラードフは倒れたフィオラの所へ行き、首を掴んで持ち上げた。
「うぅ···」
「フィオラよ、もう戦えぬか?」
「···うぅ···」
「お前は今までにもこのようにして強くなってきたではないか、戦えぬか?」
マルメラードフは更に強く首を締め上げた。
「く···苦し···ぃ···」
「苦しい···?では死ぬが良い、役立たずめ」
「ちょっと、仲間に何をしているの!」
アリアの非難とほぼ同時に別の声が上がった。
「その汚い手を···フィオラから離せぇ、マルメラードフぅ!」
ゴドムは起き上がると自分の半分ほどの大きさの岩を一つ宙に浮かせた。
「お前の話通りならぁ···俺達はぁ···使い捨ての道具だったという事かぁ···!!」
「だから何だ?」
ゴドムは岩をマルメラードフ目掛けて水平に飛ばした。
「第九十三階梯、ミラージュコート!!」
マルメラードフの周囲の空間が歪み始めた。
飛んできた岩は体をすり抜けると背後の地面に擦りながら落ちた。
「な、何ぃ···!?」
「バカめ―――、
第九十二階梯、トポロジックミキサー!!」
マルメラードフの片掌の上に小さな球体が現れた、中は強い魔術で空間が乱回転していた。
そしてそれを素早く放り投げた。
「ぬんん···?」
球体はゴドムを吸い込むとぐちゃぐちゃに乱回転した後、小さく収縮してどこかへと消えた。
「じゅ···十次能力者······!?」
「それだけでは無い、
九十階梯より上の一階梯はそれ以下の十階梯分に相当している、つまり私とお前達との間には実質三十階梯以上の差が存在するという事だ。言葉通り次元が違うのだ―――」
「―――さてアリアよ、お前はどうする?」
「くっ···!」
アリアは魔剣を出すとマルメラードフに斬り掛かった。
だが剣はすり抜け、アリアは後ろの地面に転がった。
「それがお前の答えと言う訳だな、
ならばお前を殺し、残った王族達に洗脳魔術を掛けるまでだ···」
マルメラードフは球体を掌に生み出した。
「死ね!」
放り投げられた球体にアリアが目をつむった時だった。
ウルが間に飛び込むと右手をかざし球体をそのまま吸収した。
「ウ、ウル···?」
「············」