5.ヘリオスの覚悟
「―――アレク!アレク!アレク!アレク!」
「さすがです、アレさん!」
「すごーい!」
「アレキサンダー准将ここまで強かったなんて···!」
アリア達は初戦の圧勝劇に歓喜していた。
だが、アイオン勢に動揺は見られなかった。
「ふん···、次は私が行こう」
アイオンの二人目がローブを脱ぎ払いアレキサンダーの前に立った。
「お前のような騎士風情、私の火炎魔術で消し炭にしてやる」
「お前のような口だけの魔術師は何人も殺してきたぜ」
アレキサンダーは親指を下に向けて相手を挑発した。
「―――では、始めよ」
「死ね!第七十九階梯、フレイムキャノン!」
敵のアイオンの両手から火炎の砲弾が飛来した。
アレキサンダーは体に電撃のオーラを溜めて、火炎の中へと飛び込みそのまま敵へと殴りかかった。
「おらぁ!!」
アレキサンダーの太い腕が敵の腹部にめり込んだ。
「ぐぉ···!!」
敵のアイオンは距離を取りながら火炎を撃ち続けたが、構わすに突っ込んでパンチを連続で叩き込んだ。
「うおらぁ!!」
「ぐあぁ···!!」
「―――うぉおおお!!」
「―――アレキサンダー准将やっちまえ!!」
観客は歓声で沸いていた。
「すごい···アレキサンダー准将また押している、相手も七十九階梯なのに···」
ユースティアは目の前の痛そうなパンチに目を細めながら言った。
「魔力はほぼ同じだが、距離を詰めた時の肉弾戦のスキルがアレさんの方が圧倒的に上回っているんだ」
ヘリオスは興奮しながら饒舌に言った。
「おらおらどうしたぁ?ちゃんと身体鍛えてんのかよてめぇ?」
ボディ打ちのフェイントに反応して敵が頭を下げた時、アレキサンダーの奇襲の後ろ回し蹴りが下がった頭をもろに捉えた。
「ぐ、ぐはぁ···!!?」
この一撃が決め手になり敵はもう立ち上がってこなかった。
「―――うぉおおおお!!」
「―――アレク!アレク!アレク!アレク!
アレク!アレク!アレク!アレク!―――」
アレキサンダーは今度はアイオン勢に中指を立てて挑発した。
「本当にこのままアレさんが五人とも倒してしまうんじゃないか?」
ヘリオス達はアレキサンダーの実際の強さを目の当たりにして感心し切っていた。
そんな歓声を余所にアイオン側にいた大男が、ローブを脱いで闘技場の中央へと歩み出た。
アレキサンダーを見下ろすほどの大男だった。
「···俺の名はゴドム、岩使いだぁ···」
「アース系か···」
アレキサンダーは少し渋い顔をした。
(アイテールの俺とは相性が悪い···)
魔術の五大属性とは―――
火と熱のフレア
植物と生命のバイオ
土と鉱石のアース
摩擦によって風や雷を生み出すアイテール
水と冷気のアクア
フレアはバイオに強く、バイオはアースに強く
アースはアイテールに強く、アイテールはアクアに強く、アクアはフレアに強い
「だが、俺は今までにもアース系の奴を何人も倒してきてる。お前もあの世へ送ってやるぜ」
「···そうかぁ、それは楽しみだぁ···ぐははは」
(こいつの落ち着き···只者じゃねぇな)
「俺は準備万端だぁ、いつでもかかってこいぃ···」
「後悔すんじゃねぇぞ、エレクトロフィールド!」
「第八十階梯、岩の鎧!」
アレキサンダーは即座に詰め寄ると電撃を帯びた拳を放った。
拳は岩の鎧にめり込んだ。ゴドムは顔を強ばらせた。
「ぬんっ!」
ゴドムは耐えきると岩のパンチで反撃を試みたが、するりと躱された。
「硬ぇな···!」
アレキサンダーは何とか策を考えていた。
(多少もらうのは覚悟で突っ込むしかない···!)
今度は遠めに距離を取ると加速して一気に距離を詰め敵に拳を叩き込んだ。
「うぐぅぅ···!」
今度は岩を貫いてゴトムの腹部をヒットした。
だが耐えきるとゴドムはニヤリと笑い、岩に腕が埋まったアレキサンダーにすぐさま反撃した。
「ふんっ!」
「ぐぁっ!」
アレキサンダーは吹き飛ばされた。
そして立ち上がると切れた口の血を手で拭った。
「やるじゃねぇか···クソっ」
ゴドムは岩の鎧を復元させると余裕の表情を見せた。
「所詮はこんなものかぁ、失望したぞぉ、アレキサンダー···」
「何だとっ···?」
アレキサンダーが感じていた嫌な予感は、いよいよ現実のものとなった。
「ではそろそろ決めさせてもらおうかぁ···
第八十五階梯、メガロッククラッシュ!」
「な、なに······!!?」
無数の岩が宙に浮くと一斉にアレキサンダーに襲いかかった。
反射的に身体中に強化のエネルギーを充満させ衝撃に備えた。
だが岩は容赦なくアレキサンダーを叩きつけた。
「ぐぁあああああ!!」
砂ぼこりが消えるとそこには血まみれのアレキサンダーが横たわっていた。
「―――ア、アレさんっ···!!!」
「え···え···!?···そんなぁ···」
「···な、なぜ···?」
「―――う、嘘···だろ···?」
「―――いやぁあああ······」
「―――···マジ···かよ···」
アリアや観客達も絶句した。
「―――くくく···」
首謀者の男は低く嘲笑った。
「···きゅ···九次能力者···だと···!?」
アレキサンダーはうめくように言った。
「どうだぁ、思い知ったかぁ····アレキサンダー、アイオンにはお前程度の奴はいくらでもいるぞぉ···井の中の蛙よぉ···ぐはははは」
「···ク···クソっ···」
(こいつで八十五階梯なら残りの二人はどれ程の強さだと言うんだ···!?)
「自分が世界で一番強いとでも思っていたのかぁ、この間抜けめがぁ···とどめを刺してやるぅ!」
ゴドムは再び無数の岩を宙に浮かばせた。
アリアとユースティアは戦慄した。
観客達は息を飲んだ。
「―――待て!!!」
その時、ヘリオスが闘技場の中央へと割って入った。
「なんだぁ、貴様ぁ···?」
ゴドムは攻撃をいったん中止した。
「―――ヘリオス王子、ライアスゲームは勝ち抜き方式だ。決闘中に足を踏み入れるという事の意味を···まさかライアス王の子孫たるお前が知らないはずもあるまい?」
首謀者の男がヘリオスに言った。
「あぁ、次は俺がやる」
ヘリオスは闘志にいきり立っていた。
「···ヘ···ヘリオス···やめるんだ···」
「アレさんは休んでてください、こいつは俺がやる!」
ヘリオスはアレキサンダーに肩を貸し抱え上げた。
「ふははは、これはおもしろいぃ、王子を直々になぶり殺しにできるとはなぁ···」
血まみれのアレキサンダーはアリア達の元へと運ばれた。
すぐにユースティアの治癒が始まった。
「···う···うぅ······」
懸命な処置にも関わらずアレキサンダーの容態は芳しくなかった。
ユースティアは焦りを感じ始めていた。
するとアリアはポケットからチョコスフィアを一粒取り出して自分の口の中に放り込んだ。
「ウル、お願い···!」
ウルはアリアの肩から魔力を吸うと治癒を始めた。
「すごい···こんな高等な治癒魔術を···」
ユースティアは感心してウルの治癒を見ていた。
「···今はこれが限界だ、とりあえず最悪の事態だけは免れている状況だ」
「そ、それならもう一粒···!」
「···それはダメだアリア、この先また負傷者が出るかも知れない、それに敵も倒さなくてはいけない。今は温存するべきだ」
珍しくウルが意思を示したのでアリアはひとまず従うことにした。
「···う、うん···分かった」
ヘリオスはアレキサンダーを皆に託し闘技場へと戻るとゴドムと対峙した。
「どうだぁ俺に殺される覚悟はできたかぁ?」
剣を抜いて強化エネルギーと火炎武装を展開した。
「あぁ···覚悟ならできているさ···!」
ヘリオスの右手の中指には炎のような緋色の指輪がはめられていた。
(俺は···本当の王族ではなかったんだ。
だから、せめて近しい者達にだけは生き残ってもらいたい、その為の···覚悟はできている···!!
ただでは終わらないさ······、
·········奴らを道連れにしてでも···!)